計算ツール
ポンプ揚程給水設備

ポンプ全揚程 計算ツール|実揚程+摩擦損失+速度水頭を合算し必要揚程を即算

ポンプ全揚程 H = 実揚程 + 摩擦損失合計 + 速度水頭の3要素をワンクリック合算し、H-Q曲線からポンプ機種選定に直結する必要揚程[m]を即算出。給水・給湯・冷却水・スプリンクラー・排水ポンプの仕様書作成、既設ポンプの更新見積り、ビル改修計画に必須。BEP(最大効率点)選定、NPSH(有効吸込みヘッド)、キャビテーション回避、JIS B 8301/8302・SHASE規準まで解説します。

最終更新:2026-07-30/監修:計算ツールズ編集部

ポンプ全揚程ツール

全揚程の3要素と計算式

基本式

全揚程 H = 実揚程 Ha + 摩擦損失合計 Hf + 速度水頭 Hv [m]

速度水頭 Hv = v² / (2g) [g=9.81 m/s²]

摩擦損失合計 Hf = 直管損失 × (1 + 局所損失率)

ポンプが打ち勝つべき総抵抗の合計が全揚程です。実揚程は物理的な高低差、摩擦損失は流体が配管・継手・弁を通過する際のエネルギー損失、速度水頭は吐出時に持たされる運動エネルギー分。この3項目の和をベースにポンプメーカーカタログのH-Q曲線と照合して機種選定します。

ポンプ動力への発展式

水動力 Pw = ρ × g × Q × H [W]

軸動力 P = Pw / (η × η_m) [W]

ρ: 液密度(水1000kg/m³), Q: 流量(m³/s), H: 全揚程(m), η: ポンプ効率(0.5〜0.85), η_m: 電動機効率(0.85〜0.95)。全揚程が決まれば動力・電力消費量が算定でき、電気容量・電気料金の見積り根拠になります。

実揚程の定義と押込み・吸込み系

実揚程 Ha の分解

実揚程 Ha = 吸込み揚程 Hs + 吐出し揚程 Hd

吸込み揚程 Hs: ポンプ中心から吸込水面までの垂直距離。ポンプが水面より上にあると正、下にあると負。吐出し揚程 Hd: ポンプ中心から吐出水面(または吐出口)までの垂直距離。

押込み系と吸込み系

  • 押込み系(潅水系): 水源がポンプより高い位置(受水槽下部にポンプ設置等)。吸込み側は正圧で始動、キャビテーションリスク低い。
  • 吸込み系(吸上げ系): 水源がポンプより低い位置(地下ピット・井戸ポンプ等)。理論的吸上げ限界10.33mだが、実務は6-7mが限度。

閉ループ系(冷却水循環等)

閉ループ(冷却塔↔冷凍機、床暖房、床下配管温水暖房)は実質的な高低差ゼロ。全揚程=摩擦損失+速度水頭のみ。膨張タンクを配置して系全体の圧力を安定させます。

摩擦損失(直管+局所)の算定

直管損失の計算

直管損失はDarcy-Weisbach式またはHazen-Williams式で算定。実務ではHazen-Williams式(下記)が広く使用されます。

Hazen-Williams式: Hf = 10.666 × Q^1.85 / (C^1.85 × D^4.87) × L [m]

C: 流速係数(硬質塩ビ管150、鋳鉄管100、コンクリート管120), D: 内径(m), L: 延長(m), Q: 流量(m³/s)。

局所損失の相当長比率

弁・エルボ・T字管・レデューサー・流量計等の局所損失は、実務では直管損失に対する加算率(%)で概算します。詳細計算は各機器の抵抗係数ζ(ゼータ)を積み上げるが、実務は下記の目安値で十分。

系統タイプ加算率(%)
単純系統(弁・継手少)10-20短距離給水管・冷媒配管
標準系統20-40マンション給水・受水槽揚水
複雑系統(弁・継手多)40-70スプリンクラー・冷却水系統
プロセス配管(機器複数)70-150化学プラント・熱交換器多段

速度水頭と吐出流速の関係

吐出流速 v = Q / A = Q / (π × D² / 4) [m/s]

速度水頭 Hv = v² / (2 × 9.81) [m]

流速が2倍になると速度水頭は4倍。給水管の推奨流速は1.5〜2.0 m/sで、これを超えると騒音・振動・ウォーターハンマー(水撃圧)のリスクが増大します。

推奨流速の目安

用途推奨流速(m/s)
給水本管(建物内)1.5-2.0
給湯系統0.9-1.5
冷却水系統2.0-3.0
スプリンクラー3.0-4.5
ポンプ吸込み口1.0-1.5
大口径下水本管0.8-3.0

H-Q曲線とBEP(最大効率点)

ポンプメーカーカタログにはH-Q曲線(横軸Q=流量、縦軸H=揚程)が掲載されています。全揚程を満たす機種を選定する際、以下のポイントを押さえます。

BEP(Best Efficiency Point)

効率がピークになる流量-揚程の組合わせ。BEPから±30%以上離れた運転は避けたい。理由は以下。

  • BEPから左(小流量側): 内部再循環・過熱・軸振動増加
  • BEPから右(大流量側): 電動機過負荷・キャビテーション発生
  • 効率低下: 電力ロス増加・運転コスト上昇

安全率の設定

計算全揚程に対して10〜20%の安全率を加えて選定するのが実務。過小選定は流量不足、過大選定は電力ロスと初期投資増。インバーター(VFD)制御なら実流量に応じた最適運転が可能で、大幅な省エネ効果があります。

並列運転・直列運転

  • 並列運転: 揚程一定・流量2倍(実際は1.6〜1.8倍)。大流量が必要な系統に。
  • 直列運転: 流量一定・揚程2倍。高揚程が必要な系統(超高層ビル給水等)に。

NPSHとキャビテーション

NPSH(Net Positive Suction Head)は「有効吸込みヘッド」で、ポンプ吸込み口の絶対圧力が飽和蒸気圧を上回るマージンを表します。

NPSHa(利用可能) > NPSHr(必要) + 0.5m(安全マージン)

NPSHa < NPSHrになるとポンプ内で液体が沸騰・気泡発生し、キャビテーションが起きます。症状は以下。

  • 金属音・振動・騒音の発生
  • 羽根車のエロージョン(表面摩耗)
  • 流量・揚程の急減(ブレークダウン)
  • 軸受・シールの早期故障

対策: 吸込み配管を太くする、吸込み高さを下げる、水温を下げる、吸込み側の弁・継手を減らす。

ポンプ種類別 適用範囲

用途・流量・揚程・液性状により選定すべきポンプ種類が異なります。全揚程計算値と流量から適切なポンプ型式を選定してください。

ポンプ種類流量域揚程域主用途
渦巻ポンプ(片吸込)10〜5000 L/min10〜80m給水・冷却水・給湯循環
渦巻ポンプ(両吸込)1000〜30000 L/min10〜100mビル冷却塔・上水道
多段渦巻ポンプ100〜3000 L/min50〜300m高圧洗浄・スプリンクラー・超高層給水
水中ポンプ50〜3000 L/min5〜100m井戸・地下水・雨水排水
ボア(井戸用)ポンプ50〜2000 L/min50〜300m深井戸・農業揚水
斜流・軸流ポンプ1000〜100000 L/min3〜30m大流量低揚程(排水機場・冷却水循環)
マグネットポンプ10〜500 L/min5〜30m薬液・純水(シールレス)
ダイヤフラム・スクリューポンプ1〜1000 L/min5〜50m高粘度液・スラリー・食品

渦巻ポンプが最も汎用性が高く、給排水・冷却水系統の8割はこの型式でカバー。特殊液・特殊条件では専用型式を選定します。

場面別 使い方ガイド

給水・給湯・冷却水設備の新設

設備設計事務所での機種選定。マンション給水(受水槽→高置タンク)、給湯循環、工場冷却水、スプリンクラー用ポンプの必須計算。SHASE-S 206給水基準・消防法スプリンクラー基準に整合させて算定。

農業用揚水・灌漑ポンプ

ため池・河川から農地への揚水ポンプ、排水機場の設計。実揚程が支配的で摩擦損失は相対的に小さいケース。土地改良区の申請書類・設計書作成に。

プラント・化学工場

プロセス液送りポンプの選定。流量・粘度・温度の変動、腐食性・スラリー特性を含めた総合設計。非水系流体はρを補正し、粘度が高い場合はマグネットポンプ・スクリューポンプへ選定変更。

ビル既設ポンプ更新見積り

老朽ポンプ更新時、既存の実揚程・配管系統は変わらないため過去の全揚程実績値を基準に。インバーター制御化で30-50%の省エネが期待でき、投資回収年数を試算。

スプリンクラー消火設備

消防法・消防法施行規則に基づく設計。標準型スプリンクラー(K=80)で流量Q=80×√P、開放型は開放数分の流量。加圧送水装置(消防ポンプ)の全揚程を算定。

ビルメン・設備管理業務

既設ポンプの運転記録との照合。全揚程実測値がカタログ値と大きく異なる場合はキャビテーション・スケール蓄積・逆止弁不具合を疑う。予防保全・不具合診断の一次分析ツールとして。

よくある間違い・注意点

  • 速度水頭を無視 — 通常0.1-0.5mだが、高流速系(4m/s超)や大口径系では1m以上になる。全揚程算定時は必ず加算。
  • 局所損失を無視 — 弁・継手多い系統では直管損失の1.5-2倍になる。相当長換算での加算必須。プロセス配管では直管損失より局所損失の方が大きいことも。
  • BEPから外れて運転 — 設計流量がBEPから±30%以上離れると効率激減・振動増・軸受寿命短縮。インバーター制御なら幅広い流量域で最適運転可能。
  • NPSH確認漏れ — キャビテーションを起こすと羽根車エロージョン・急速故障。NPSHa > NPSHr + 0.5mの余裕を必ず確保。特に温水系・高標高地・吸上げ系で注意。
  • 安全率の過大設定 — 30%以上の安全率は過剰能力・電力ロス・初期投資増を招く。10-20%が実務適正、インバーター化で余裕代を吸収するのが現代の主流。
  • 並列運転の流量重ね合わせ誤解 — 2台並列で流量2倍にはならず、実際は1.6〜1.8倍(摩擦損失増加により)。並列時のH-Q曲線再計算が必要。
  • 密度補正忘れ(海水・薬液) — 海水ρ=1025 kg/m³、濃硫酸1840 kg/m³等、水以外の液体では動力計算にρの補正が必要。
  • 周波数・電源相の見落とし — 東日本50Hz・西日本60Hzで揚程・流量が変わる。三相200V・三相400V・単相100Vの選定違いで電気工事増額。

ポンプ電力量とランニングコスト試算

ポンプ選定時は初期費用だけでなく、10〜15年の運転による電力コストが総保有コストの過半を占めるケースが多く、慎重な検討が必要です。

電力量計算

年間電力量 [kWh] = 軸動力 [kW] × 稼働時間 [h/年]

年間電気代 [円] = 年間電力量 × 電力量単価 [円/kWh]

2025年の業務用電力量単価は概ね17〜25円/kWhで、電力会社・時間帯・季節で変動します。ピークシフト・タイムシフト運転の可否も検討ポイント。

電力コスト試算例

用途軸動力稼働時間年間電気代(20円/kWh)
マンション給水(受水槽揚水)3.7kW2000h約148,000円
ビル冷却水循環15kW4000h約1,200,000円
工場プロセス液送22kW7200h約3,168,000円
スプリンクラー(点検運転のみ)11kW50h約11,000円
農業揚水(季節運転)7.5kW500h約75,000円

省エネ手法とROI

  • インバーター(VFD)化: 電力削減30〜50%、投資回収3〜5年
  • 高効率ポンプ更新: トップランナー基準品で5〜15%削減
  • 台数制御: 部分負荷時に運転台数を減らし効率維持
  • バルブ絞りをやめる: バルブ絞り運転はエネルギーロス最大

関連する規格・法令

  • JIS B 8301 遠心ポンプ・斜流ポンプ及び軸流ポンプ―試験方法 ― ポンプ性能試験の公式規格。流量・揚程・効率・NPSH測定方法。
  • JIS B 8302 ポンプ吐出し量測定方法 ― ポンプ吐出し流量の測定手順と精度規定。
  • JIS B 8313 小型渦巻ポンプ ― 家庭用・小型業務用ポンプ規格。
  • SHASE-S 206 給排水衛生設備規準 ― 建築設備での配管サイズ・流速・ポンプ設計基準。
  • 消防法・消防法施行令・施行規則 ― スプリンクラー設備・屋内消火栓設備の加圧送水装置(消防ポンプ)基準。
  • 水道法・給水装置構造材質基準 ― 給水ポンプの水質保持要件。
  • 省エネ法(エネルギー使用合理化) ― トップランナー方式によるポンプ効率基準。2015年からポンプ・ファン等が対象。

参考文献・公的資料

より正確な設計値・詳細計算法・機種選定は、以下の公的機関・学会・メーカーの一次資料を参照してください。

※本ツールは公的基準および一般的設計手法に基づく参考計算です。実際のポンプ選定・仕様書作成・機種変更は、最新のJIS/SHASE規準・メーカーカタログ・現場実測データに基づき、建築設備士・給水装置工事主任技術者・消防設備士・機械技術者等の有資格者へご相談ください。特に消防用・水道用・食品プラント用・危険物取扱系のポンプは法定要件が厳格ですので、施工前に所轄行政庁の指導を仰いでください。

よくある質問(FAQ)

実揚程と全揚程の違いは?

実揚程は物理的な高低差(m)のみ、全揚程は摩擦損失+速度水頭を含めた総抵抗。ポンプが実際に打ち勝つ抵抗が全揚程で、機種選定の基準値。

局所損失の加算率はどう決める?

単純な系統20%、標準30-40%、複雑70%以上が目安。設計基準書・水理便覧の相当長表で詳細算定も可能。プロセス配管では100%以上のケースも珍しくない。

速度水頭を計算する必要は?

通常小さいが無視は不可。高流速(3m/s超)・大口径管では0.5m以上に。設計書・見積書には必ず記載。国交省・自治体の技術基準にも記載義務がある場合が多い。

BEP(最大効率点)とは?

Best Efficiency Point: ポンプ効率が最大になる流量-揚程の組合わせ。ここから±30%以上離れると効率低下・振動増加・軸受寿命短縮。

ポンプ選定の余裕率は?

10-20%が標準。過大にすると過剰能力・電力ロス、過小にすると流量不足。インバーター(VFD)制御を組み込めば余裕代の設計自由度が上がり、省エネ効果も30-50%期待できる。

キャビテーションの発生条件は?

ポンプ吸込み口の絶対圧力が液体の飽和蒸気圧を下回ると発生。高温水系・高標高地・吸上げ配管が長い系で起きやすい。NPSHa > NPSHr + 0.5m の余裕確保が原則。

並列運転すれば流量2倍?

理論的には2倍だが実際は1.6-1.8倍。並列で流量が増えると摩擦損失も増加し、H-Q曲線が右下がりのため各ポンプの吐出量が単独時より少なくなる。並列運転時のH-Q曲線再計算が必要。

直列運転の使い所は?

高揚程が必要な系統(超高層ビル給水、遠距離送水、消防ポンプ多段接続)。流量一定・揚程2倍だが、ポンプ間の同期・安全弁配置が重要。ブースターポンプが実例。

吸上げ限界は何m?

理論的には10.33m(大気圧÷水柱)だが、実務は6-7mが限度。摩擦損失・NPSH確保・水温を考慮すると4-5m以下が推奨。深い井戸には水中ポンプ(潜水ポンプ)を使用。

インバーター制御のメリットは?

周波数を可変制御して回転数を変え、実流量に応じた運転が可能。省エネ効果30-50%、キャビテーション回避、始動電流抑制。近年のマンション給水・工場冷却水では標準装備化しつつある。

閉ループ系(冷却水循環)の全揚程は?

閉ループは実質的な高低差ゼロで、全揚程=摩擦損失+速度水頭のみ。膨張タンクを配置して系全体の圧力を安定させる。冷却塔→冷凍機の系統は数十m程度が一般的。

周波数(50Hz/60Hz)で揚程は変わる?

変わります。同じポンプでも東日本50Hz→西日本60Hz移設で、回転数が20%上がるため揚程は約1.44倍(2乗)、流量は約1.2倍、動力は約1.73倍(3乗)。設計時に必ず周波数を確認。