シールドガス流量 計算ツール(MAG/MIG/TIG)|電流別最適流量・月間ガス代・ブローホール防止
溶接電流・ノズル径・溶接法(MAG/MIG/TIG)からシールドガスの最適流量、1時間・月間消費量、月間ガス代目安を即算出。CO2・Ar・MAG20(Ar80%+CO2 20%)・He混合ガスの選定基準、ブローホール(気孔欠陥)・アンダーカット・スパッタを防ぐ最低流量、風防設置・突出し長・チップ距離・待機時ガスセーバーの実務ノウハウを、JIS Z 3253・ISO 14175・労働安全衛生規則の公的規格に基づき解説します。
シールドガス流量(MAG/TIG)ツール
計算式・流量目安の考え方
溶接法別の基準式(経験則)
MAG(CO2/MAG20): 15 + 電流I ÷ 25 (L/min)
MIG(Ar100): 12 + I ÷ 28
TIG(Ar100): 8 + I ÷ 40
MAGはCO2の比重(1.98 g/L)による自然沈降が期待でき流量少なめ、TIGはAr(1.78 g/L)の乱流耐性が低く、かつ精密溶接のため電流あたりの必要流量が少ない、という経験式です。日本溶接協会・JIS Z 3253準拠の技術資料に基づく実務値。
ノズル径による下限
最低流量 ≥ ノズル内径(mm) × 0.9 (L/min)
ノズル径16mmなら14.4 L/min以上を最低確保。これ以下だと乱流でシールドが乱れます。逆にノズル径10mmで30 L/min流すと出口流速過大で乱流を招き、大気巻き込みが増加。ノズル径と流量のマッチングが重要です。
ガス密度と沈降特性
CO2は空気より重く(空気比1.53)溶接部に留まりやすい。Arは重く(1.38)沈降性良好、Heは軽く(0.14)上昇するためTIG(上向・立向)で不利。溶接姿勢と使用ガスの組合せで実効シールド性能が変わります。
溶接法別 シールドガス選定
| 溶接法 | 推奨ガス | 用途 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| MAG(半自動) | CO2 100% | SS400・SM材の一般構造 | 低コスト・深い溶込み・スパッタ多 |
| MAG(半自動) | Ar80%+CO2 20%(MAG20) | 薄板・美観重視・自動化 | スパッタ少・ビード美麗・コスト中 |
| MIG(半自動) | Ar 100% | アルミ・銅・チタン | 非鉄金属の必須ガス |
| MIG(半自動) | Ar+O2 2〜5% | SUS薄板 | アーク安定・ビード濡れ良 |
| TIG | Ar 100% | SUS・チタン・薄板高品質 | 最も一般的なTIGガス |
| TIG | Ar+He 25〜75% | 厚板アルミ・銅 | 高入熱・深溶込み |
| TIG | Ar+H2 2〜5% | SUSオーステナイト | ビード濡れ・スピード向上 |
| プラズマ | Ar(パイロット)+Ar/H2(シールド) | 薄板精密 | キーホール溶接 |
| ステンレスバックシールド | Ar 100% | 裏波・配管突合せ | 裏面酸化防止・置換必須 |
電流別 推奨シールドガス流量早見(L/min)
| 電流(A) | MAG(CO2) | MAG20 | MIG(Ar100) | TIG(Ar100) | 推奨ノズル径 |
|---|---|---|---|---|---|
| 50 | 17 | 17 | 14 | 9 | φ10 |
| 100 | 19 | 19 | 16 | 10 | φ12 |
| 150 | 21 | 21 | 17 | 12 | φ14 |
| 200 | 23 | 23 | 19 | 13 | φ16 |
| 250 | 25 | 25 | 21 | 14 | φ16 |
| 300 | 27 | 27 | 23 | 15 | φ18 |
| 350 | 29 | 29 | 25 | 17 | φ18 |
| 400 | 31 | 31 | 26 | 18 | φ20 |
| 500 | 35 | 35 | 30 | 21 | φ22 |
| 600 | 39 | 39 | 33 | 23 | φ25 |
屋外・扇風機・空調風の影響下では上記+20〜30%増加、または風防設置。特にTIGは風速1m/sで欠陥発生します。
ガス起因の代表欠陥と対策
ブローホール(気孔)
ビード表面/内部に見られる球状穴。ガス流量不足・風の影響・突出し長過大・ノズル汚れが原因。対策は流量20〜30%増加、風防設置、ノズル清掃、突出し長15mm以下維持。JIS Z 3104(放射線透過試験)で検出。
ピット(表面気孔)
ビード表面の小さな穴。母材表面の油・水分・錆・塗料が原因になることが多く、シールドガス改善だけでは解決しないケースも。母材をワイヤーブラシで清掃、脱脂を徹底。
アンダーカット
ビード脇の母材が溶け落ちて溝状になる欠陥。電流過大・トーチ角度不良・シールドガスの品質(Ar比率不足)が原因。ガスによってはウィービング幅の再設定も必要。
スパッタ多発
特にCO2 100%で顕著。MAG20(Ar80%+CO2 20%)に変更するとスパッタ大幅減、清掃工数削減。ワイヤー突出し長10〜15mm、電圧・電流の適正化(短絡モード→スプレー移行)も併せて調整。
タングステン酸化(TIG)
Ar流量不足でタングステン電極が空気に触れ、青紫〜黒色に変色。寿命1/5に短縮。研磨し直しでも根本解決せず、流量再設定・後流ガス(ポストフロー)3〜5秒確保が必要。
裏面酸化(SUS配管)
SUS突合せ溶接の裏面が青紫色に酸化。裏波溶接ではバックシールド(裏面Ar置換)必須で、酸素濃度100ppm以下まで置換してから溶接開始。医薬品配管ではJIS G 3459やISO 15612に厳格な酸化色ランク基準あり。
ガスコスト削減の実務
1本あたりのガス価格目安(2026年)
| ガス種 | 容量 | 価格目安 | 単価 |
|---|---|---|---|
| CO2液化 | 30kg(15,000L) | 3,500円 | 0.23円/L |
| MAG20(Ar80+CO2 20) | 7m³(7,000L) | 4,800円 | 0.69円/L |
| Ar 100% | 7m³(7,000L) | 5,600円 | 0.80円/L |
| Ar 100% 液化 | 170L(液)=約130m³ | 50,000円 | 0.38円/L |
| He 100% | 7m³ | 25,000円 | 3.57円/L |
削減施策
①ガスセーバー(先行/遅れガス制御)で待機時流量オフ・アークオン時のみ供給→30%削減、②圧力調整器の精度再点検、逆火防止装置に併設した流量計で実流量管理、③液化Ar切替で0.80→0.38円/Lへコスト半減(月間使用500m³以上の工場向け)、④MAG20→CO2切替可能な用途は切替で年間コスト半減、⑤ワイヤー突出し長最適化で電流あたりのガス消費最小化。
月間コスト試算(MAG 200A/日8時間/月20日)
推奨流量23 L/min × 60分 × 8時間 × 20日 = 220,800 L/月。CO2なら50,800円/月、MAG20なら152,000円、Arなら177,000円。ガスセーバー導入で30%削減=CO2で年間18万円、Arで年間64万円のコスト削減効果があります。
業界・現場での使い方
鉄工所・鉄骨製作
SS400・SM490の一般構造用でMAG溶接大量使用。CO2ガス消費量管理が原価の3〜5%。ロボット化案件はセーバー活用でガス代半減。JIS Z 3841(半自動溶接技能者)資格者が実務主体。
SUS配管製作(食品・製薬)
TIGアルゴン100%+バックシールドで高品質溶接。特に医薬品GMP対応・食品HACCP対応の配管は溶接部の裏波品質と酸化色ランクが検査対象。ガス代がプロジェクトコストの5〜10%を占めます。
自動車ボディ・シャシー
ロボット溶接での安定シールドガス供給。MAG20主流でスパッタ最小化。生産ライン内の流量計・ガス圧センサーで異常自動検知、品質不良の連続発生を防止。
アルミ製品(サッシ・車両)
アルミMIG(Ar100)またはTIG(Ar+He)。厚板は入熱確保のためHe混合(25〜50%)で溶込み深さ改善。ガス代高い(He 3.57円/L)ため厳密な流量管理と設備固定化が経済性の鍵。
造船・橋梁の大型構造
片面溶接大電流400〜500Aが多く、ノズル径大(φ22〜25)+高流量35〜40 L/min。大電流サブマージアーク(SAW)併用でガス+フラックス管理。JIS Z 3841/Z 3821溶接施工要領書(WPS)必須。
屋外現場(建築鉄骨・プラント)
風速1m/s以上で欠陥発生リスク急上昇。風防設置・流量30%増・タープテント風下溶接が現場ルール。JIS Z 3841技能者検定でも「屋外条件」評価が別枠。
電流・電圧・速度の実務パラメータ
MAG/MIG半自動の板厚別電流・電圧・溶接速度の目安です。JIS Z 3841技能者検定・日本溶接協会技術資料に基づく実務推奨値。
| 板厚(mm) | ワイヤー径 | 電流(A) | 電圧(V) | 速度(cm/min) |
|---|---|---|---|---|
| 1.6 | φ0.9 | 80〜120 | 18〜20 | 35〜45 |
| 2.3 | φ0.9 | 110〜150 | 20〜22 | 35〜45 |
| 3.2 | φ1.0 | 140〜180 | 22〜25 | 30〜40 |
| 4.5 | φ1.2 | 170〜220 | 24〜27 | 30〜40 |
| 6.0 | φ1.2 | 200〜260 | 26〜30 | 25〜35 |
| 9.0 | φ1.2〜1.4 | 250〜320 | 28〜32 | 25〜35 |
| 12.0 | φ1.4 | 280〜360 | 30〜34 | 20〜30 |
| 16.0 | φ1.6 | 320〜400 | 32〜36 | 20〜30 |
| 19.0以上 | φ1.6 | 350〜450 | 34〜38 | 15〜25(多層盛) |
電流大→溶込み深、電圧大→ビード幅広、速度大→溶込み浅・ビード細。この3要素と入熱量(J/mm)の関係を理解して、シールドガス流量とセットで最適点を探ります。
よくある間違い・注意点
- 流量計と実流量のズレ — フローメーター上流の圧力(Ar 0.2〜0.3 MPa)が変わると実流量が変動。定期的に流量計校正・圧力調整器点検を。特にボンベ交換直後は初期圧力高くて流量過多になりがち。
- 流量過多で経済性悪化 — 25 L/minで十分な条件で40 L/min流している例が現場で多い。適正流量+10%程度のマージン、それ以上は無駄。乱流でむしろ大気巻き込みの逆効果。
- 屋外強風でも標準流量 — 風速1m/s超で乱流→気孔多発。風防または流量30%増、風速3m/s超なら中断が原則。
- ノズル径細くて流速大 — φ10ノズル+30 L/minは出口流速4 m/s超で乱流。φ14〜16が標準。ノズル径×0.9〜1.5倍流量帯が安定範囲。
- 後流ガス(ポストフロー)0秒 — TIGでビード温度が下がるまでガス供給継続しないと酸化。3〜5秒(電流あたり0.1〜0.2秒/A)確保。
- ワイヤー突出し長過大 — MAGで突出し長20mm超は電気抵抗発熱でワイヤー先端の予熱→シールド不足で気孔発生。10〜15mmが標準、大電流で15〜20mm。
- ガスホース内の空気残留を溶接開始時に流出させない — 待機後の初期3〜5秒はガス純度が低い(前ガス機能で解消可能)。溶接開始直後の欠陥は「ホース内空気」を疑う。
関連する規格・法令
- JIS Z 3253 ― 溶接用及び熱切断用ガス。CO2・Ar・Ar+CO2混合・He・O2・H2の純度規格と識別色を規定する国内標準。
- ISO 14175 ― Welding consumables — Gases and gas mixtures for fusion welding and allied processes。溶接用ガスの国際規格。
- JIS Z 3841 ― 半自動溶接技能者評価試験の方法及び判定基準。半自動(MAG/MIG)技能者資格の基準。
- JIS Z 3821 ― 手溶接技能者評価試験の方法及び判定基準。TIG含む手溶接資格の基準。
- JIS Z 3104 ― 鋼溶接継手の放射線透過試験方法。ブローホール・気孔欠陥の検出手順。
- JIS Z 3841 技能者検定 ― 溶接施工要領書(WPS)・溶接施工法確認記録(PQR)の作成標準。
- 労働安全衛生規則 261条〜265条 ― アーク溶接等の作業(有害光線・粉じん)への安全管理義務。
- 高圧ガス保安法 ― 高圧ガスの容器・保管・移動の規制。溶接ガス管理の一次法令。
- 労働安全衛生法 特定化学物質等障害予防規則 ― 溶接ヒュームの有害物対策(2021年新規定)。
- ISO 15612 ― 溶接施工要領書と施工法確認の国際規格。
参考文献・公的資料
溶接技術・ガス選定・法規制の最新情報は、以下の公的機関・学会・業界団体の一次資料を参照してください。
- 一般社団法人 日本溶接協会(JWES) ― 国内溶接技術の中核団体。JIS Z 3253等の規格運営、溶接技能者資格認証を実施。
- 日本溶接技術認証機構(JWES-C) ― 溶接技能者・監督者資格の国内公式認証機関。
- 日本産業標準調査会(JISC) ― JIS Z 3253・Z 3841・Z 3821等の溶接規格の公式索引・閲覧サービス。
- 厚生労働省 労働安全衛生行政 ― 溶接ヒューム・有害光線・アーク溶接安全に関する法令の一次情報。
- 高圧ガス保安協会(KHK) ― 溶接ガスボンベの取扱い・保安規則の運用機関。
- American Welding Society (AWS) Standards ― 米国溶接学会の国際標準規格。特にAWS D1.1(鋼構造溶接)は世界的基準。
- 国際溶接学会(IIW) ― 国際的な溶接技術基準と国際溶接技術者(IWE)資格の運営機関。
- 日本産業・医療ガス協会 ― CO2・Ar・He等の産業ガスの安全取扱い・流通の業界情報。
- 日本非破壊検査協会(JSNDI) ― 溶接部の非破壊検査(RT・UT・MT・PT)の技術者資格・技術情報。
よくある質問(FAQ)
MAG 200Aのガス流量は?
15+200÷25=23 L/minが経験式による標準値。実務では20〜25 L/minのレンジで運用します。ノズル径16mm前提。屋外や大電流でスパッタ多発時は+3〜5 L/min増量。逆に自動化ラインで安定条件が確立していれば18〜20 L/minまで下げてコスト削減可能。
MAGとMIGのシールドガスの違いは?
MAG(Metal Active Gas)は活性ガス(CO2 100%またはMAG20=Ar80%+CO2 20%)を使用し、鉄鋼系に対応。MIG(Metal Inert Gas)は不活性ガス(Ar 100%)で、アルミ・銅・チタン等の非鉄金属や高品質SUSに対応。両者は使用ワイヤー・電源設定も微妙に異なります。
TIGでArをケチるとどうなる?
タングステン電極が空気(酸素・窒素)に触れて青紫〜黒色に酸化、寿命が1/5に短縮。ビード表面も酸化色付着(SUSでは青紫の変色)で外観不良。ポストフロー(後流ガス)を必ず3〜5秒確保することが重要です。
ガス代削減の実務策は?
①ガスセーバー(先行/遅れガス制御)導入で待機時流量オフ→30%削減、②液化Ar切替でm³単価半減、③MAG20→CO2切替可能な用途は切替でコスト半減、④適正流量への見直し(過剰流量停止)、⑤ワイヤー突出し長最適化、⑥風防設置で流量増を回避。
屋外溶接で気孔が出るのは?
風速1m/s以上で乱流によりシールドガスが吹き飛ばされ、大気(酸素・窒素)を巻き込むためです。対策は風防・タープ設置、流量30%増加、風速3m/s以上なら中止。JIS Z 3841技能者検定でも屋外条件は別枠評価。
ノズル径と流量のマッチングは?
ノズル内径(mm)×0.9〜1.5倍が最適流量帯。φ16なら14〜24 L/min。φ10で30 L/min流すと出口流速4m/s超で乱流、φ22で15 L/min流すと逆に流速不足でシールド範囲が狭くなる。ノズル径選定は電流(=溶接部の大きさ)に応じます。
CO2 100%とMAG20どちらが良い?
コスト重視・厚板・深溶込みが必要ならCO2 100%。スパッタ少・薄板・美観重視・自動化ラインならMAG20(Ar80%+CO2 20%)。MAG20はCO2の3倍程度のガス代ですが、清掃工数・仕上げ工数を含むトータルコストで有利になるケースが多い。
Ar+H2 5%は何に使う?
SUS(オーステナイト系)TIG溶接の高速化・ビード濡れ性改善用。水素の還元効果でビード外観が美麗、施工速度10〜20%アップ。ただし炭素鋼・二相ステンレス・チタンでは水素脆化を招くため使用禁止。医薬品配管でも要注意です。
裏波溶接のバックシールドとは?
SUS配管突合せ溶接で、裏面の酸化を防ぐためにAr等の不活性ガスで裏面を置換する技法。置換完了(酸素濃度100ppm以下)を確認してから溶接開始します。医薬品配管ではJIS G 3459やISO 15612に厳格な酸化色ランク(6段階)の品質基準あり。
He混合ガスはどんなときに使う?
厚板アルミ・銅の高入熱・深溶込みが必要な場合。Ar+He 25〜75%混合で電圧が高くなり(He→高電圧化)、入熱が増大。ただしHeは3.57円/L と高価(Arの4.5倍)、供給量限界もあり、コスト・調達面で使用範囲は限定的です。
ワイヤー突出し長の適正値は?
MAG/MIG半自動で10〜15mmが標準、大電流300A超では15〜20mm。20mm超は電気抵抗発熱でワイヤー先端が予熱→シールド不足で気孔発生。逆に5mm以下はチップ焼損・ノズル詰まりのリスク。トーチ角度もあわせて調整します。
溶接ヒュームの規制は?
2021年に労働安全衛生法「特定化学物質等障害予防規則」で溶接ヒュームが追加規制対象に。屋内溶接作業は個人ばく露測定と換気対策(全体換気・局所排気)が義務化。マンガン濃度0.05 mg/m³以下のばく露基準あり。特に閉所・タンク内溶接は要注意。