沸点上昇 計算ツール|モル沸点上昇定数Kb・van't Hoff因子・食塩水/砂糖水対応
溶質を溶かした溶液の沸点上昇 ΔTbを、モル沸点上昇定数Kb・質量モル濃度m・van't Hoff因子iから瞬時に計算。水・エタノール・ベンゼン・シクロヘキサン等10種の溶媒Kb定数、電解質/非電解質の解離数、エブリオスコピック法(沸点上昇法)による分子量測定、圧力鍋・不凍液・食塩水/砂糖水の沸点変化など、束一的性質の実務応用を解説します。
沸点上昇 計算機
計算式と単位系
基本式
ΔTb = Kb × m × i
沸点上昇の大きさ ΔTb (K, ℃) は、溶媒のモル沸点上昇定数 Kb (K·kg/mol)、質量モル濃度 m (mol/kg)、van't Hoff因子 i (電解質の解離数、非電解質は1)の積で表現されます。この式はラウールの法則の帰結として1878年にフランソワ=マリー・ラウールが導出しました。
質量モル濃度と体積モル濃度の違い
質量モル濃度 m = 溶質mol数 ÷ 溶媒質量kg
沸点上昇や凝固点降下(いずれも束一的性質)の計算では、質量モル濃度(molality)を使用します。体積モル濃度(molarity)は温度で体積が変わるため、精密な熱力学計算には不向きです。1kg溶媒に溶けた溶質のモル数を基準とするのが「モラリティ」と「モラリティ」の使い分けの本質です。
Kb定数の物理的意味
モル沸点上昇定数Kbは、1kgの溶媒に1molの非電解質を溶かした場合の沸点上昇量。水では0.515 K·kg/mol、つまり1kg水に1molのショ糖を溶かせば沸点は100.515℃になります。この値は溶媒固有の物性で、ラテント熱・分子量から理論式で導出できます。
主要溶媒のKb定数早見表
実験・工業計算で頻用する溶媒のモル沸点上昇定数Kbをまとめました。日本化学会「化学便覧 基礎編」およびCRC Handbookの値に基づきます。
| 溶媒 | 沸点 (℃) | Kb (K·kg/mol) | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| 水 (H₂O) | 100.0 | 0.515 | 水溶液系全般 |
| メタノール (CH₃OH) | 64.7 | 0.83 | 溶剤・燃料 |
| エタノール (C₂H₅OH) | 78.4 | 1.19 | アルコール実験 |
| アセトン | 56.2 | 1.71 | 有機合成溶剤 |
| クロロホルム (CHCl₃) | 61.2 | 3.63 | 抽出溶剤 |
| ジエチルエーテル | 34.6 | 2.02 | 低沸点溶剤 |
| 四塩化炭素 (CCl₄) | 76.7 | 5.03 | 非極性溶剤 |
| ベンゼン (C₆H₆) | 80.1 | 2.53 | 芳香族溶剤・分子量測定 |
| トルエン | 110.6 | 3.33 | 塗料・工業溶剤 |
| シクロヘキサン | 80.7 | 2.79 | 非極性溶剤・工業 |
| 酢酸 (CH₃COOH) | 117.9 | 3.07 | 有機酸・調味料原料 |
| フェノール | 181.7 | 3.60 | 消毒剤・樹脂原料 |
凝固点降下定数Kfとは別物なので混同に注意。凝固点降下計算は凝固点降下 計算ツールを参照してください。
van't Hoff因子と解離数
電解質は水中で解離し、実際の粒子数が増えるため沸点上昇も大きくなります。この解離を表すのがvan't Hoff因子 iです。
| 溶質 | 理論解離式 | 理論 i | 実測 i(希薄) |
|---|---|---|---|
| ショ糖・グルコース(非電解質) | 解離せず | 1 | 1.00 |
| 尿素・エチレングリコール | 解離せず | 1 | 1.00 |
| NaCl(食塩) | Na⁺ + Cl⁻ | 2 | 1.87 |
| KCl | K⁺ + Cl⁻ | 2 | 1.86 |
| CaCl₂ | Ca²⁺ + 2Cl⁻ | 3 | 2.71 |
| MgSO₄ | Mg²⁺ + SO₄²⁻ | 2 | 1.44(会合強) |
| K₂SO₄ | 2K⁺ + SO₄²⁻ | 3 | 2.77 |
| Al₂(SO₄)₃ | 2Al³⁺ + 3SO₄²⁻ | 5 | 3.5-4.0 |
| CH₃COOH(希薄酢酸) | 弱電解質(ほぼ非解離) | 1〜1.05 | 約1.02 |
| HCl(強酸) | H⁺ + Cl⁻ | 2 | 1.9 |
実測iが理論値より小さいのは、イオン間の静電相互作用で見かけ粒子数が減るデバイ・ヒュッケル効果によるものです。0.01 mol/kg以下の希薄溶液で理論値に漸近します。
エブリオスコピック法(沸点上昇法による分子量測定)
ΔTb = Kb × m から溶質の分子量Mを逆算する方法をエブリオスコピック法(ebullioscopic method)と呼びます。
M = (Kb × w × 1000) ÷ (ΔTb × W)
ここで w は溶質質量(g)、W は溶媒質量(g)、Kb は溶媒の沸点上昇定数、ΔTb は測定した沸点上昇です。ベンゼン(Kb=2.53)やシクロヘキサン(Kb=2.79)など、大きなKb値を持つ溶媒を用いると微小な溶質でも沸点変化が測定可能で、19世紀末から20世紀前半にかけて有機化合物の分子量決定に使われました。現代ではGPC・質量分析が主流ですが、教育実験や簡易チェックでは今も現役です。
日常例:食塩水・砂糖水・圧力鍋
食塩水の沸点
3%食塩水(海水と同程度)は約100.4℃、10%食塩水で約101.5℃、飽和食塩水(26%)で約108℃まで沸点上昇します。パスタを塩水で茹でると温度が上がって加熱効率が僅かに上がりますが、味付けが主目的です。
砂糖水の沸点(飴・シロップ製造)
砂糖水の沸点上昇は工業的にも重要で、飴・カラメル製造では糖度と沸点の関係を利用します。糖度10%で100.15℃、60%で107℃、80%で115℃、飴玉相当の90%では130℃を超えます。プロの製菓ではこの沸点測定で糖度を管理します。
圧力鍋(加圧沸騰)
圧力鍋は「沸点上昇」ではなく「加圧による沸点上昇」で、原理が異なります。1.7気圧まで加圧すると水の沸点は約115℃に上昇し、通常より短時間で調理可能。この加圧沸点はNIST WebBookの水の飽和蒸気圧曲線から求められます。
高地では逆に沸点が下がる
沸点上昇は「その気圧における純溶媒の沸点からの上昇分」を扱うため、標高が高い場所では出発点そのものが下がります。標高1,500m(気圧約85kPa)で純水の沸点は約95℃、標高2,500m(気圧約75kPa)で約92℃です。パスタ・米・豆の茹で時間が20〜40%長くなるため、高地では圧力鍋の使用が推奨されます。
束一的性質としての位置づけ
沸点上昇は、溶液の束一的性質(colligative properties)の一つ。束一的性質とは溶質の種類ではなく粒子数(mol数)にのみ依存する物性で、以下の4つが該当します。
- 蒸気圧降下(ΔP = P°× x溶質)
- 沸点上昇(ΔTb = Kb × m × i)
- 凝固点降下(ΔTf = Kf × m × i)
- 浸透圧上昇(π = c R T × i)
いずれもラウールの法則から導出され、19世紀後半の物理化学発展の中核となった重要概念です。生物学・医学分野では細胞内浸透圧・血液浸透圧の解析に応用されています。
計算例(食塩水・砂糖水・不凍液)
例1: 5%食塩水の沸点
食塩(NaCl 分子量58.5)を水95gに5g溶かした5%食塩水。質量モル濃度 m = (5/58.5) ÷ 0.095 = 0.900 mol/kg。van't Hoff因子i≈1.87(希薄実測)。
ΔTb = 0.515 × 0.900 × 1.87 = 0.87℃ → 沸点 100.87℃
例2: 10%砂糖水の沸点
ショ糖(C₁₂H₂₂O₁₁ 分子量342)を水900gに100g溶かした10%砂糖水。m = (100/342) ÷ 0.900 = 0.325 mol/kg。ショ糖は非電解質でi=1。
ΔTb = 0.515 × 0.325 × 1 = 0.17℃ → 沸点 100.17℃
例3: 30%エチレングリコール不凍液の沸点
エチレングリコール(HOCH₂CH₂OH 分子量62.1)を水700gに300g溶かした30%LLC。m = (300/62.1) ÷ 0.700 = 6.90 mol/kg。i=1。
ΔTb(理論) = 0.515 × 6.90 × 1 = 3.55℃ → 沸点 103.6℃(実測は約103℃で妥当)
例4: 分子量測定(エブリオスコピック法)
ベンゼン100g(Kb=2.53)に未知物質2.00gを溶解、沸点上昇ΔTb=0.51℃を測定。M = (2.53 × 2.00 × 1000) ÷ (0.51 × 100) = 99.2 → 分子量約99の化合物と同定。
例5: pKa補正の必要性
酢酸(弱電解質、pKa=4.76)0.1 mol/kg水溶液を沸騰させる場合、解離度αは希釈で増加しますが目安α≈4%程度。van't Hoff因子は1+α≈1.04と実効ほぼ1で計算しても構いません。硫酸などの強電解質とは扱いが異なる点に注意です。
シーン別活用例
製菓・飴玉製造の糖度管理
砂糖水の沸点で糖度を管理する製菓現場の伝統的技法。沸点107℃で糖度60%(シロップ)、120℃で85%(ソフトキャンディ)、150℃で95%(ハードキャンディ)。プロの製菓では糖度計と沸点温度計を併用します。
凍結防止剤・不凍液の設計
エチレングリコール・プロピレングリコール水溶液の沸点上昇・凝固点降下データが、自動車冷却水LLC(Long Life Coolant)の設計基準。50%LLCで沸点106℃、凝固点-37℃程度。JIS K 2234に規格化されています。
高校・大学化学実験
ベンゼン+ナフタレン系の沸点上昇測定は、有機化学の分子量測定実験として標準カリキュラムに含まれます。エブリオスコピック法の実習でラウールの法則を体感する良例です。
食品保存・塩蔵
塩蔵魚・漬物では食塩の高濃度により水分活性を下げ、同時に沸点上昇で加熱殺菌の効率が変化します。厚労省「食品衛生法」に基づく製造管理で温度履歴が記録されます。
圧力鍋の調理設計
厳密には「加圧沸騰」ですが、水+塩水+砂糖水の混合物で圧力鍋沸点+溶質沸点上昇が加算的に効きます。プロの給食調理では温度計付き圧力鍋で工程管理を実施。
化学プラント蒸留設計
多成分蒸留塔では溶質による沸点上昇が留出温度に影響し、還流比・段数設計の一次パラメータとなります。プロセスシミュレーター(Aspen Plus等)は内部で沸点上昇計算を実行しています。
海水淡水化・製塩プラント
MED(多重効用蒸発)・MSF(多段フラッシュ)プロセスでは、塩分濃度の上昇に伴う沸点上昇(BPE:Boiling Point Elevation)を見込んだ多段設計が必須です。中東・シンガポール等の水資源産業では標準の設計工程になっています。
醸造・発酵管理
ビール・ワイン・日本酒の醸造では、糖度計・比重計と沸点測定を組み合わせて発酵の進み具合を推定します。残糖が減るほど沸点上昇分が小さくなるため、工程の裏取りに使えます。
沸点上昇の測定方法
ベックマン温度計法
19世紀末に発明されたベックマン温度計は、±0.01℃精度で微小な沸点変化を計測可能。Landsberger装置(蒸気を吹き込んで熱平衡)やCottrell装置(沸点計)と組み合わせ、20世紀前半の分子量測定の主力ツールでした。
Ebulliometer(現代の沸点計)
自動運転可能な電子式沸点計。試料溶液を還流沸騰させ、白金抵抗温度計(±0.005℃)で沸点をモニタリング。工業用途ではSwietoslawski型が広く使われ、石油精製・化学プラントの品質管理に導入されています。
DSC(示差走査熱量測定)
試料と参照物質の温度差から相変化温度を計測、沸点上昇の高感度検出が可能。Mettler-Toledo・PerkinElmer・TA Instruments等の商用装置で、医薬品・食品・高分子の品質管理に活用されています。
気圧計併用
沸点は気圧に強く依存し、1気圧=760 mmHgからのズレをClausius-Clapeyron式で補正。気圧補正なしでは日々の天候変化で±0.5℃の誤差になるため、精密実験では気圧計とセットで運用します。
沸点上昇のIN-LINE計測
化学プラントの連続プロセスでは、蒸留塔のトレイ温度を光学式・赤外式・音響式センサーで常時モニタリング。溶質濃度変化を沸点上昇からリアルタイム推定し、品質不良を防止する運用がスマートプラント化の主流です。
凝固点降下との対比(Kb・Kf比較)
沸点上昇と対をなす現象が凝固点降下です。同じ束一的性質でも、係数と実務での重要度が異なります。
| 溶媒 | Kb (沸点上昇) | Kf (凝固点降下) | Kf/Kb比 |
|---|---|---|---|
| 水 | 0.515 | 1.86 | 3.6 |
| ベンゼン | 2.53 | 5.12 | 2.0 |
| クロロホルム | 3.63 | 4.68 | 1.3 |
| 酢酸 | 3.07 | 3.90 | 1.3 |
| ナフタレン | 5.65 | 6.94 | 1.2 |
| カンフル | 5.95 | 39.7 | 6.7 |
水はKfがKbの約3.6倍大きいため、分子量測定・凍結防止剤・道路融雪剤の設計では凝固点降下側がよく使われます。カンフルはKfが極端に大きく、Rast法(微量分子量測定法)の伝統的溶媒として使われてきました。
よくある間違い・注意点
- 質量モル濃度と体積モル濃度の混同 — 沸点上昇の式 ΔTb=Kb×m は質量モル濃度 mol/kgを使います。mol/L(体積モル濃度)で代入すると温度による体積変化で誤差が生じます。
- 強電解質のvan't Hoff因子を理論値そのまま使用 — NaClの理論i=2ですが、実測は1.87(0.1mol/kg)。デバイ・ヒュッケル効果で希薄化するほど理論値に近づきます。精密計算では実測iを使ってください。
- Kfとの取り違え — 沸点上昇定数Kb(水0.515)と凝固点降下定数Kf(水1.86)は別物。混同すると3倍以上の誤差になります。
- 圧力鍋の沸点上昇を「束一的沸点上昇」と混同 — 圧力鍋は加圧による沸点上昇で、束一的性質とは別現象。両者を足し算するのは条件次第です(混合液体を加圧した場合は成立)。
- 溶質のモル数を分子量で割り忘れ — NaCl 58.5g/kgを1 mol/kg換算せず、そのまま58.5をmで代入するミスが典型例。必ずg÷分子量でmol換算してください。
- 希薄溶液近似の限界を超える — ΔTb=Kb·m·iはラウールの法則ベースで、10 mol/kg以上の高濃度では成立しません。厳密な計算にはUNIQUAC・NRTL等の活量モデルが必要です。
- 会合性溶質(酢酸のダイマー等) — カルボン酸は溶液中で二量体を形成し、実測iが1未満になる場合があります(酢酸ベンゼン溶液など)。予期しない挙動に注意。
実験・分析ノウハウ
1. 測定機器の選択
教育実験・簡易チェックはガラス温度計(精度±0.5℃)で十分ですが、精密実験ではベックマン温度計(±0.01℃)、工業計装は白金抵抗温度計(Pt100 ±0.03℃)が標準。沸点上昇0.1℃を正しく捉えるには少なくとも±0.02℃精度が必要です。
2. 溶媒選択で感度向上
分子量測定では Kb 値が大きい溶媒(ベンゼン2.53、シクロヘキサン2.79、四塩化炭素5.03)を選ぶと、少量溶質でも大きな沸点上昇が得られて測定精度が上がります。ただし毒性・引火性・環境負荷から現代ではDMSOなど代替候補も検討します。
3. 沸点測定のセットアップ
Ebulliometer(沸点測定装置)や還流冷却器付き沸騰装置で外気の影響を排除。気圧補正(1気圧=760 mmHgからのズレをClausius-Clapeyron式で補正)、共存する不揮発成分の考慮を忘れずに実施します。
4. 実測との誤差要因
高濃度領域(m > 3 mol/kg)ではラウールの法則が破綻し、活量係数γによる補正が必要。UNIFAC・UNIQUAC・NRTL等の活量モデルで理論値をフィッティング、Aspen Plus等のプロセスシミュレーターに実装されています。
5. 会合性溶質の扱い
酢酸・安息香酸などのカルボン酸は非極性溶媒中で二量体を形成し、実効mol数が半減。ベンゼン溶液で酢酸の分子量を測ると120(実際60)と過大評価になります。極性溶媒への変更または活量補正で対応します。
6. 記録と再現性
実験記録には測定気圧・室温・大気湿度・使用機器の校正日・溶媒ロット番号を必ず記載。ISO/IEC 17025(校正・試験機関認定)や日本薬局方の一般試験法に則った運用で、他機関との比較・再現性が確保できます。
関連する規格・法令
- JIS K 0050 ― 化学分析方法通則。分析における温度・濃度単位系の基本規定。
- JIS K 2234 ― 不凍液(LLC)の品質規格。エチレングリコール等の沸点・凝固点性能規定。
- JIS Z 8703 ― 試験場所の標準状態(20℃・65%RH)。物性値測定の共通条件。
- IUPAC Recommendations ― 束一的性質の国際命名・定義。ラウールの法則、van't Hoff因子の正式定義。
- 厚生労働省 食品衛生法 ― 食品加熱殺菌の温度・時間規定。塩蔵・糖漬け食品の製造基準。
- 大気汚染防止法・水質汚濁防止法 ― 化学プラント排水の温度・濃度規制。
沸点上昇の科学史
ラウールの発見(1878年)
フランスの化学者フランソワ=マリー・ラウール(François-Marie Raoult, 1830-1901)が、非電解質水溶液で「溶液の蒸気圧降下は溶質モル分率に比例する」ことを発見。このラウールの法則から沸点上昇・凝固点降下・浸透圧の一連の束一的性質が導かれます。
ファントホッフの浸透圧研究(1886年)
オランダの物理化学者ヤコブス・ファントホッフ(1852-1911)が浸透圧のvan't Hoff式π=cRTを発見、1901年第1回ノーベル化学賞受賞。van't Hoff因子iは電解質の解離度を表す指標として今も現役です。
アレニウスの電離説(1887年)
スウェーデンの化学者スヴァンテ・アレニウスが電解質の解離説を提唱し、NaCl等がイオンに分かれることを主張。当時は受け入れられませんでしたが、後のデバイ・ヒュッケル理論(1923年)で完全に確立され、1903年ノーベル化学賞受賞。van't Hoff因子の物理的意味が明確化しました。
デバイ・ヒュッケル理論(1923年)
ペーター・デバイとエーリッヒ・ヒュッケルが電解質溶液のイオン間相互作用を定量化し、van't Hoff因子の希薄液での実測値が理論値からズレる理由を解明。現代の電気化学・分析化学の基礎理論です。
現代の応用
沸点上昇の理論は現代の化学工学プロセスシミュレーション(Aspen Plus・HYSYS等)、細胞浸透圧研究、地質学の融点マグマ挙動、宇宙化学の惑星大気モデルまで、幅広い分野に応用されています。19世紀の理論が今も現役という化学の傑作の一つです。
参考文献・公的資料
より正確な物性データや詳細な理論解説を確認したい場合は、以下の公的機関・学会の資料を参照してください。
- 産業技術総合研究所 計量標準総合センター(NMIJ) ― 温度・熱物性の国家標準。認証標準物質(CRM)の頒布。
- NIST Chemistry WebBook ― 米国国立標準技術研究所の物性データベース。溶媒の沸点・蒸気圧曲線を無料検索可能。
- IUPAC(国際純正・応用化学連合) ― 化学物性値の国際基準。命名法・定数の一次資料。
- 日本化学会 ― 化学便覧・化学大辞典など化学物性データの標準的引用元。
- 日本産業標準調査会(JISC) ― JIS規格の公式索引。JIS K 2234・JIS Z 8703等を検索可能。
- 文部科学省 高等学校学習指導要領(化学) ― 束一的性質・沸点上昇・凝固点降下の教育カリキュラム。
- 厚生労働省 食品衛生 ― 食品加熱殺菌・保存の温度・時間基準。
- 経済産業省 計量法 ― 計量法・計量単位令。取引・証明用計量の公式ルール。
よくある質問(FAQ)
沸点上昇の式は?
ΔTb = Kb × m × i。Kbはモル沸点上昇定数(水0.515 K·kg/mol)、mは質量モル濃度(mol/kg)、iはvan't Hoff因子(電解質の解離数、非電解質は1)。ラウールの法則から導かれる束一的性質の代表式です。
水のKbはなぜ0.515?
水の沸点100℃・気化熱2260 J/g・分子量18から理論式 Kb = R·Tb²·M / (1000·ΔHvap) で計算すると約0.515 K·kg/molになります。実測値も同程度で一致します。
NaClのvan't Hoff因子は2ではない?
理論上はi=2ですが、0.1 mol/kg希薄液の実測は約1.87。イオン間静電相互作用(デバイ・ヒュッケル効果)で見かけ粒子数が減るためです。0.001 mol/kg以下でほぼ2に近づきます。
食塩水の沸点はどのくらい上がる?
3%食塩水(海水程度)で約100.4℃、10%で約101.5℃、飽和(26%)で約108℃まで上昇。パスタや野菜を塩茹でする際の温度差はごく僅かで、味付けが主目的です。
圧力鍋は沸点上昇の一種?
いいえ。圧力鍋は加圧による沸点上昇で、束一的性質としての沸点上昇(溶質による)とは別現象。1.7気圧で水の沸点は約115℃になり、Antoine式やClausius-Clapeyron式で計算します。
エブリオスコピック法とは?
ΔTb=Kb·mから溶質の分子量Mを逆算する方法。M = (Kb×w×1000) ÷ (ΔTb×W)。19世紀に有機化合物の分子量決定に使われ、現代でも教育実験の定番です。
質量モル濃度と体積モル濃度の違いは?
質量モル濃度(molality)は「溶質mol÷溶媒kg」、体積モル濃度(molarity)は「溶質mol÷溶液L」。温度で体積が変わるため、束一的性質の精密計算では質量モル濃度を使います。
砂糖(ショ糖)溶液の沸点上昇は?
ショ糖は非電解質(i=1)なので、10%砂糖水(0.34 mol/kg換算)で ΔTb=0.515×0.34×1≈0.18℃。60%砂糖水では約2℃、飴玉(90%)で30℃以上と、糖度と沸点は非線形に関係します。
凝固点降下と何が違う?
両方とも束一的性質で式は同形(ΔT=K·m·i)ですが、定数がKb(沸点上昇定数、水0.515)とKf(凝固点降下定数、水1.86)で異なります。凝固点降下のほうが約3.6倍大きく、より測定しやすいためエブリオスコピック法よりクリオスコピック法のほうが多用されました。
ラウールの法則との関係は?
ラウールの法則「溶液の蒸気圧は溶媒モル分率に比例」から、蒸気圧降下→沸点上昇が導かれます。沸点上昇はラウールの法則の温度領域での帰結です。
不凍液(LLC)の沸点上昇はどう計算する?
50%エチレングリコール水溶液の場合、質量モル濃度m≈16 mol/kg、i=1で ΔTb=0.515×16=8.2℃→沸点約108℃。ただし高濃度領域では希薄近似が成立せず、実測値(約106℃)とやや異なります。JIS K 2234の実測値を優先してください。
ベンゼンのKbが大きい(2.53)理由は?
ベンゼンは分子量78・気化熱30 kJ/molで、水(18・40.7 kJ/mol)より単位モルあたりの気化しやすさが大きいためKbも大きい。同じ理由で分子量測定に感度が高く、エブリオスコピック法の標準溶媒として愛用されました。
ジャムの沸点103℃で何が判定できる?
糖度(Brix)が約65〜70%に達したことを示します。この糖度が保存性(水分活性Aw < 0.85)の目安です。ただし気圧で純水の沸点が変わるため、絶対温度だけでは不完全で、屈折計(糖度計)の併用が推奨されます。
高濃度域で公式が成り立たない理由は?
溶質同士・溶質と溶媒の相互作用が無視できなくなるためです。①活量係数γ、②水和・イオン対形成、③粘度上昇、④会合・解離平衡の変化、が重なって希薄溶液則から外れます。1 mol/kgを超える領域では実測値か非理想溶液モデル(NRTL・UNIQUAC)が必要です。
気圧と沸点の関係は?
純水の沸点は1気圧で100℃、0.9気圧(標高約1,000m)で約97℃、0.7気圧(標高約3,000m)で約90℃です。沸点上昇は「その気圧における純溶媒の沸点からの上昇分」を扱うため、高地での調理や実験では気圧補正が欠かせません。
共沸混合物とは?
エタノール95%・水5%のように、一定組成で液相と気相の組成が一致し、蒸留では分離できなくなる混合物です。ラウールの法則から外れる非理想溶液の代表例で、エタノール製造など蒸留設計では避けて通れない現象です。
凍結防止剤はどれが効きますか?
凝固点降下能が高い順に、①塩化カルシウムCaCl₂(i=2.5〜3、水和熱で速効)、②塩化ナトリウムNaCl(安価だが環境負荷が大きい)、③塩化マグネシウムMgCl₂(低温での効きが良い)、④エチレングリコール(工業用)、⑤プロピレングリコール(食品・環境配慮用)が目安です。