血清ナトリウム(Na) 判定ツール|正常値135-145・低Na/高Na・補正Na・血漿浸透圧
血清ナトリウム(Na)値を135-145mEq/Lの正常範囲と照合し、低Na血症・高Na血症の重症度、血糖値による補正Na、血漿浸透圧、原因(SIADH・利尿剤・脱水・熱中症)、補正速度の上限(急激補正で浸透圧性脱髄症候群のリスク)を判定。日本内科学会・日本腎臓学会ガイドラインに基づき、外来医療者・受験生・在宅ケアラー向けに解説します。
ナトリウム判定 計算機
計算式と基準値
基本式
正常値 Na = 135 〜 145 mEq/L
補正Na = 実測Na + 0.016 × (血糖値 − 100) (高血糖時のKatz補正式)
血漿浸透圧 = 2 × Na + 血糖 ÷ 18 + BUN ÷ 2.8 (mOsm/kg, 概算)
推定水欠乏量(L) = 体重 × 0.6 × (現在Na − 140) ÷ 140
正常値 K = 3.5 〜 5.0 mEq/L
血清K(カリウム)は任意入力です。入力すると低K血症・高K血症の判定を併せて表示します。低Na血症に低K血症(3.0 mEq/L未満)を合併している場合は、Kの補充自体が血清Naを押し上げるため、浸透圧性脱髄症候群(ODS)のリスクが高まります。補正速度上限の欄にその注意を表示します。
ナトリウムは細胞外液の主要陽イオンで、体液量・浸透圧・血圧・神経筋機能を規定します。血清Naは水とNaの比で決まるため、低Na=水過剰、高Na=水欠乏を意味することが多く、直接Naそのものの過不足を示すわけではない点に注意が必要です。
正常値と重症度分類
| Na値(mEq/L) | 分類 | 症状の目安 |
|---|---|---|
| <115 | 超重症低Na血症 | けいれん・昏睡・脳浮腫 |
| 115-119 | 重症低Na血症 | 意識障害・嘔吐 |
| 120-129 | 中等症低Na血症 | 頭痛・悪心・易疲労 |
| 130-134 | 軽症低Na血症 | 集中力低下・軽度倦怠 |
| 135-145 | 正常 | — |
| 146-149 | 軽症高Na血症 | 口渇・多尿 |
| 150-159 | 中等症高Na血症 | 興奮・傾眠 |
| 160-169 | 重症高Na血症 | 意識障害・けいれん |
| ≥170 | 超重症高Na血症 | 昏睡・脳出血・死亡 |
症状は絶対値だけでなく変化速度にも依存。急性(48時間以内)なら軽度でも症状が強く、慢性(48時間超)では130前後でも無症状のケースがあります。
原因別分類
低Na血症の原因
- SIADH(抗利尿ホルモン不適切分泌症候群) — 中枢神経疾患、肺疾患、悪性腫瘍、SSRI等の薬剤性。
- 利尿剤過剰(特にサイアザイド) — 高齢女性の外来低Naの最頻原因。
- 心不全・肝硬変・ネフローゼ — 有効循環血液量低下→AVP分泌増加。
- 副腎不全 — 副腎皮質ステロイド不足で腎からのNa喪失。
- 甲状腺機能低下 — 心拍出量低下、AVP感受性増加。
- 水中毒 — 精神疾患患者の多飲、マラソン選手の水分過剰摂取。
- 下痢・嘔吐 — Na喪失を上回る水の補給。
高Na血症の原因
- 水分摂取不足 — 高齢者・寝たきり・意識障害での口渇認識低下。
- 不感蒸泄増加 — 発熱・熱中症・気道乾燥。
- 下痢(浸透圧性) — 乳児・経管栄養。
- 尿崩症(中枢性・腎性) — AVP分泌不全または尿細管応答不全。
- ループ利尿剤・浸透圧利尿(高血糖・マンニトール)。
- 過剰なNa負荷 — 食塩過剰摂取、高張食塩水静注、誤ったミルク調製。
血漿浸透圧の意義
血漿浸透圧(正常275-295 mOsm/kg)はNa・血糖・BUNの寄与で決まります。低Na血症でも浸透圧が正常/高値なら、偽性低Na(高中性脂肪・高蛋白)や高血糖性(高血糖で水が血管内に移動)の可能性があります。
浸透圧ギャップ
浸透圧ギャップ = 実測浸透圧 − 計算浸透圧
10 mOsm/kg超のギャップはメタノール・エチレングリコール・アルコール中毒を疑うサインです。
こんな場面におすすめ
健康診断の異常値相談
Naの軽度異常(133や148など)がどの程度心配かの参考に。臨床症状・薬剤・食事内容の見直しポイントを把握できます。
高齢者ケア・在宅介護
脱水・熱中症・水分摂取不足の判定に。特に夏場は高Na血症、利尿剤内服中は低Na血症のリスクが高くなります。
マラソン・トライアスロン参加者
持久系スポーツでは水過剰摂取による運動関連低Na血症(EAH)の危険。競技前の摂取量計画に。
臨床看護学生・研修医の学習
正常値・重症度・原因鑑別・補正速度の学習ツール。国家試験・臨床実習の暗記補助に。
糖尿病治療中の高血糖時
血糖200-400 mg/dLでは補正Naが必要。実測Naで安心せず、補正値で真の状態を評価しましょう。
SSRI等の内服中の患者
SSRI・SNRIはSIADHを誘発しやすく、開始2週間以内のNa低下に注意。定期採血フォローを。
補正の原則と危険性
低Na血症の補正上限
慢性低Na血症の補正速度は10 mEq/L/24時間、6 mEq/L/8時間以内が原則。急速補正は浸透圧性脱髄症候群(ODS/CPM)を起こし、脳橋中心髄鞘崩壊による四肢麻痺・嚥下障害・意識障害の後遺症を残します。
急性低Na血症の緊急対応
けいれん・昏睡等の重篤症状があれば3%高張食塩水を100mL/10分静注、症状改善または5mEq/L上昇まで。ICU管理下で頻回採血。
高Na血症の補正上限
慢性高Na血症も10 mEq/L/24時間以内で下げる。急速補正で脳浮腫のリスクがあります。5%ブドウ糖液または経口水分負荷で緩徐に補正。
よくある間違い・注意点
- Na値だけで診断 — 尿Na・尿浸透圧・体液量評価がなければ原因鑑別できません。血液検査に加えて尿検査も必須。
- 「低Na=塩分不足」と誤解 — 大半は水過剰(SIADH等)。塩分補給ではなく水制限が第一選択のケースが多い。
- 急速補正で脱髄症候群 — 慢性低Naの急速上昇でCPM/ODSを起こし後遺症を残す。24時間で10mEq/L以内が絶対原則。
- 高血糖時の補正Naを忘れる — 血糖500mg/dLでは実測Naに+6〜7mEq/Lの補正が必要。実測だけでは低Naと誤診しがち。
- マラソン中の水分過剰 — レース中の水/スポーツドリンク過剰摂取で運動関連低Na血症を発症、致死例あり。時速500mL以下を目安に。
- 高齢者の水分制限 — 心不全等での過度な水制限は脱水・高Na血症を招く。個々の体重・尿量で調整。
- 乳児のミルク濃度誤り — 粉ミルクを濃く調製すると高Na血症、薄すぎると低Na血症のリスク。指定濃度を守る。
関連ガイドライン
- 低Na血症診療ガイドライン(欧州) ― European Society of Endocrinology等2014。世界標準の低Na血症診療。
- 体液・電解質輸液ガイド ― 日本救急医学会・日本集中治療医学会。
- SIADH診断基準 ― Bartter-Schwartz基準。日本内分泌学会にも準拠。
- 熱中症診療ガイドライン ― 日本救急医学会。高Na/低Na熱中症の鑑別と補液。
- 透析患者の電解質管理 ― 日本透析医学会。血液透析Na処方の目安。
- 小児脱水症診療 ― 日本小児救急医学会。乳児高Na血症の予防と補液計算。
参考文献・公的資料
- 日本腎臓学会 診療ガイドライン ― 電解質異常・体液管理の国内標準ガイドライン。
- 日本内分泌学会 診療指針・ガイドライン ― SIADH・尿崩症・副腎不全の診療基準。
- CKD診療ガイド ― 日本腎臓学会。慢性腎臓病患者の電解質管理。
- 日本救急医学会 熱中症診療ガイドライン ― 熱中症の電解質・輸液プロトコル。
- 日本集中治療医学会 ガイドライン ― 急性期輸液・電解質管理。
- 厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2025年版) ― Na(食塩相当量)推奨量。
- WHO Salt Reduction Guidelines ― 世界基準の食塩摂取推奨量(5g/日未満)。
- European Clinical Practice Guidelines on Hyponatraemia ― 欧州の低Na血症診療ガイドライン(2014)。
- 厚生労働省 熱中症予防対策 ― 熱中症予防・水分摂取指針。
- J-STAGE 電解質異常関連論文 ― 日本の電解質・浸透圧研究文献。
よくある質問(FAQ)
低Na血症の原因は?
SIADH(抗利尿ホルモン過剰)、サイアザイド系利尿剤過剰、心不全・肝硬変・ネフローゼ、副腎不全、甲状腺機能低下、水中毒、下痢・嘔吐など多岐にわたります。外来では利尿剤過剰とSIADHが最頻。SSRI・SNRIも要注意薬剤です。
高Na血症の原因は?
水分摂取不足(高齢者・意識障害)、発熱・熱中症、下痢、尿崩症、浸透圧利尿(高血糖)、過剰なNa負荷(食塩・輸液)など。高齢者では口渇認識低下による水摂取不足が特に多い原因です。
症状はどんなもの?
低Naでは頭痛・悪心・意識障害・けいれん、高Naでは口渇・興奮・傾眠・けいれん。急性(48時間以内)は軽度でも症状強く、慢性は無症状のことも多いため注意が必要です。
正常値は?
血清Na135〜145 mEq/Lが正常範囲。130-134は軽症低Na、146-149は軽症高Na、120未満または160超は入院加療が必要な重症域です。
補正速度の上限は?
慢性低Naでは10 mEq/L/24時間、6 mEq/L/8時間以内が原則。急速補正で浸透圧性脱髄症候群(ODS/CPM)を起こし、四肢麻痺・嚥下障害の後遺症を残します。急性なら緊急補正可。
高血糖時のNa補正は?
Katz補正式で実測Na + 0.016×(血糖-100)。血糖500mg/dLなら+6.4mEq/L、血糖1000mg/dLなら+14mEq/L加算。実測だけでは低Naと誤診しがちなので必ず補正Naで評価します。
SIADHの診断基準は?
①正常/低い血漿浸透圧、②不適切に濃縮された尿(尿浸透圧>100)、③循環血液量正常、④尿Na>40mEq/L、⑤甲状腺・副腎機能正常、⑥利尿剤未使用の6項目(Bartter-Schwartz基準)。
マラソン中の低Na血症は?
運動関連低Na血症(EAH)は水分過剰摂取が主因。時速500mL以下、体重減少3%以内を目安に。ゴール後の意識障害・けいれんは低Na血症を疑い救急対応が必要です。
塩分摂取の目安は?
厚労省2025基準で成人男性7.5g/日未満、女性6.5g/日未満、WHOは5g/日未満を推奨。日本人平均は10g前後で過剰。高血圧・慢性腎臓病では6g/日未満が推奨されます。
熱中症で塩は必要?
大量発汗時はNa喪失があるため水だけでなく塩分補給が必要。ただし過剰な塩分は逆に高Na血症のリスク。0.1-0.2%食塩水またはORSが推奨されます。
高齢者の脱水対策は?
体重×30-40mL/日の水分を目安に、こまめな摂取を促す。口渇認識が低下しているため「喉が渇いた」と感じる前の予防的摂取が重要。尿量・尿色チェックも指標。
子供のNa異常は?
乳児では粉ミルク濃度誤り(濃すぎて高Na、薄すぎて低Na)、下痢による脱水が主な原因。指定濃度でのミルク調製、下痢時のORS補水が基本。急性重症は緊急受診を。