ボルトトルク計算機|M3-M36×強度区分4.8/8.8/10.9/12.9の推奨締付トルク
ボルト締付トルクを、M3〜M36の呼び径・強度区分(4.8/8.8/10.9/12.9)・トルク係数から瞬時に算出。JIS B 1083「ねじの締付け通則」、JIS B 1071「トルク係数試験方法」に準拠し、軸力・許容範囲・角度法補正まで対応。鉄鋼・ステンレス・アルミ・チタン40材質の早見表、自動車JIS D 0301、建築BCJ・SS400、電力・化学プラントの締付管理基準、トルクレンチ校正まで網羅します。
ボルト締付トルク計算ツール
計算式と物理背景
基本式
T = K × F × d
T:締付トルク(N·m)、K:トルク係数(無次元)、F:軸力(N)、d:ねじ呼び径(m)。JIS B 1083「ねじの締付け通則」で規定される最も基本的な式です。
軸力の計算
F = σ × As =(保証荷重応力 × 締付率)× 有効断面積
σは応力(N/mm²)、Asはねじの有効断面積(JIS B 1082 附属表)。保証荷重(Proof Load)に対する締付率70%が機械標準です。90%以上に上げると降伏応力を超え塑性域に入るため、繰返し使用や振動下では危険。
有効断面積 As(並目ねじ)
| M | As (mm²) | M | As (mm²) | M | As (mm²) |
|---|---|---|---|---|---|
| M3 | 5.03 | M12 | 84.3 | M24 | 353 |
| M4 | 8.78 | M14 | 115 | M27 | 459 |
| M5 | 14.2 | M16 | 157 | M30 | 561 |
| M6 | 20.1 | M18 | 192 | M33 | 694 |
| M8 | 36.6 | M20 | 245 | M36 | 817 |
| M10 | 58.0 | M22 | 303 | — | — |
強度区分の意味
ISO 898-1/JIS B 1051 に基づく強度区分表示。数字の意味を理解することが締付トルク計算の起点です。
| 強度区分 | 引張強さ σB | 降伏点 σy | 主用途 |
|---|---|---|---|
| 4.6 | 400 N/mm² | 240 N/mm² | DIY・低荷重 |
| 4.8 | 400 N/mm² | 320 N/mm² | SS400相当・一般 |
| 5.8 | 500 N/mm² | 400 N/mm² | 中負荷用 |
| 6.8 | 600 N/mm² | 480 N/mm² | 中強度機械部品 |
| 8.8 | 800 N/mm² | 640 N/mm² | 機械標準・自動車 |
| 10.9 | 1000 N/mm² | 900 N/mm² | 建築高力・産業機械 |
| 12.9 | 1200 N/mm² | 1080 N/mm² | 工作機械・工具 |
「10.9」の意味 ― 引張強さ 10 = 1000 MPa、降伏比 0.9(=900 MPa)。同じ M12 でも 8.8 と 10.9 でトルクが1.4倍違うため、必ずボルト頭部の刻印を確認してください。
トルク係数Kの選び方
K は摩擦条件で0.10〜0.35まで変動し、締付トルクに直接同じ倍率で影響します。JIS B 1071 に測定方法規定あり。
| ねじ・座面条件 | K目安 | 備考 |
|---|---|---|
| MoS₂グリス塗布 | 0.10-0.12 | 航空機・レース仕様 |
| スピンドル油潤滑 | 0.13-0.15 | 精密機器 |
| 機械油塗布 | 0.15-0.18 | 一般機械 |
| 三価クロメート処理 | 0.17-0.22 | 自動車部品 |
| 乾燥・無処理(標準) | 0.20 | JIS B 1083 デフォルト |
| 亜鉛メッキ | 0.20-0.25 | 建材・電気設備 |
| ステンレス同士 | 0.25-0.35 | かじり注意 |
| 赤錆発生 | 0.30-0.50 | 締付NG(要交換) |
ステンレスは要注意 ― SUS304同士の締付では焼付き(かじり)が発生し、K が0.35以上に急上昇することがあります。専用の焼付き防止剤(銅ペースト等)が必要です。
推奨トルク早見表(K=0.20・締付率70%)
JIS B 1083 に基づく標準締付トルク。単位はすべて N·m。
| M | 4.8 | 8.8 | 10.9 | 12.9 |
|---|---|---|---|---|
| M3 | 0.5 | 1.3 | 1.8 | 2.2 |
| M4 | 1.1 | 3.0 | 4.1 | 5.0 |
| M5 | 2.2 | 6.0 | 8.4 | 10.0 |
| M6 | 3.8 | 10.4 | 14.6 | 17.5 |
| M8 | 9.2 | 25 | 36 | 43 |
| M10 | 18 | 50 | 72 | 85 |
| M12 | 32 | 86 | 125 | 145 |
| M14 | 51 | 135 | 200 | 235 |
| M16 | 80 | 210 | 310 | 360 |
| M18 | 110 | 300 | 425 | 500 |
| M20 | 155 | 420 | 600 | 700 |
| M22 | 210 | 570 | 820 | 960 |
| M24 | 270 | 720 | 1050 | 1230 |
| M27 | 400 | 1080 | 1550 | 1800 |
| M30 | 540 | 1450 | 2100 | 2450 |
| M33 | 735 | 1970 | 2850 | 3330 |
| M36 | 950 | 2530 | 3660 | 4280 |
材質別補正表
ボルト強度区分だけでなく、母材側の強度・熱膨張・電食条件で締付トルクを調整します。
| 母材 | 推奨強度区分 | K目安 | 特記事項 |
|---|---|---|---|
| SS400(一般構造用鋼) | 4.8-8.8 | 0.20 | 建築標準 |
| S45C(機械構造用炭素鋼) | 8.8-10.9 | 0.18-0.20 | 機械標準 |
| SCM440(クロモリ鋼) | 10.9-12.9 | 0.15-0.18 | 高強度部品 |
| SUS304(ステンレス) | A2-70(ステンレス強度) | 0.25-0.35 | 焼付き注意 |
| SUS316(耐食ステンレス) | A4-70 | 0.25-0.35 | 海水・化学 |
| A5052(アルミ合金) | 4.8-6.8 | 0.18 | 母材ネジ山破損注意 |
| A6061 | 4.8-8.8 | 0.18 | ヘリサート推奨 |
| チタン Ti-6Al-4V | 専用チタンボルト | 0.20 | 電食・熱膨張差注意 |
| マグネシウム合金 | 4.8-6.8 | 0.15 | 電食対策必須 |
| FRP・CFRP | 4.8-8.8 | 0.20 | 座金必須・締付率50%以下 |
| 木材(構造材) | 4.8 | 0.20 | 建築基準法SD規定に従う |
異種金属の組み合わせ(例:アルミ母材+ステンレスボルト)では電食(ガルバニック腐食)のリスクがあり、絶縁ワッシャ・防食処理が必要です。
トルク単位換算
JISは N·m ですが、旧単位や海外規格では kgf·cm、ft·lb、in·lb 表記があります。
| 単位 | 換算 | 用途 |
|---|---|---|
| 1 N·m | 10.20 kgf·cm | SI・JIS 標準 |
| 1 N·m | 0.7376 ft·lb | 米国・自動車 |
| 1 N·m | 8.851 in·lb | 米国・航空機小径 |
| 1 kgf·m | 9.807 N·m | 旧JIS・整備手帳 |
| 1 kgf·cm | 0.0980665 N·m | 自転車・精密機器 |
| 1 ft·lb | 1.356 N·m | 米国自動車整備 |
| 1 in·oz | 0.007062 N·m | 電子機器・時計 |
業界別締付管理基準
自動車(JIS D 0301)
ホイールナット M12/M14 で 100〜130 N·m、シリンダーヘッドは角度法(塑性域締付)。整備業界ではメーカー整備手帳の値を最優先します。国土交通省の車検基準にも準拠。
建築(鉄骨・BCJ)
高力ボルトM20 F10T(強度区分10.9相当)で標準締付軸力165 kN、トルク480〜510 N·m。国交省告示・建築基準法適合品を使用。BCJ・国交省の第三者検査必須。
電力プラント
発電所配管フランジはASME B16.5準拠でボルト材質・締付順序・トルク値がすべて図面指示。原発関連はさらに追加規制。日本電気工業会(JEMA)・JEAG 基準あり。
化学プラント
配管フランジ締付はHPI(高圧ガス保安法)対象。労安法プラント安全評価基準に基づく締付順序(対角十字→周方向)と再締付管理が義務化。
航空機(AS/AN規格)
NAS/AN規格の航空機ボルトは強度区分の代わりに材質・処理コードで管理。トルク値はメーカー整備マニュアル(AMM)のみが唯一の正解。校正済みトルクレンチ必須。
鉄道車両(JIS E 4204)
台車・ブレーキ関連は保守周期が定められた重要保安部品。指示トルクの±5%以内の厳しい管理が求められ、JR・私鉄各社で追加規定があります。
トルクレンチと校正
トルクレンチの種類
- プリセット型(クリック式) ― 設定値到達で「カチッ」と音・触感で通知。整備業界の標準機。
- 直読式(プレート型・ダイヤル型) ― 目視で数値確認。校正検査用に使う。
- デジタル式 ― 電子表示。ピーク値記録・データ通信可能。品質管理向け。
- アングル式(角度法) ― トルク+角度で塑性域締付。ヘッドボルト・産業機械用。
- 油圧式(大径用) ― M30以上の高トルク領域。橋梁・大型プラント用。
校正周期
JIS B 4652「トルクレンチ」・JIS B 4650「トルク計」で校正管理が規定されています。年1回の校正が業界標準。ISO 9001認証工場では校正証明書付き機器のみ使用可能。
よくある間違い・注意点
- 潤滑・乾燥を無視して同じトルクで締める — 潤滑油塗布時のトルクを乾燥時と同じ値で締めると、軸力が20〜30%過大になりボルト降伏のリスク。オイル塗布時はK=0.15〜0.18で再計算してください。
- 強度区分刻印を確認しない — 見た目が同じでもM12 4.8とM12 10.9では締付トルクが3倍違います。必ずボルト頭部の刻印(4.8/8.8/10.9等)を確認。
- 並目・細目を混同 — 同じ M12 でも並目(1.75ピッチ)と細目(1.5ピッチ)で有効断面積・締付トルクが異なります。JIS B 0205(並目)・B 0207(細目)を参照。
- ワッシャ・座金を省略 — 平座金は面圧を分散し軸力の安定化に必須。省略すると母材陥没で軸力が損失します。JIS B 1256参照。
- 締付後の再締めなし — 熱膨張・振動・座面クリープで軸力は初期の70〜85%に低下。重要部位は24時間後・1週間後の再締付が推奨されます。
- ステンレス同士でグリスを塗らない — SUS304同士は焼付き(かじり)が発生し、途中で回らなくなります。専用の銅ペースト・二硫化モリブデングリスを使用。
- アルミ母材にM4以下を高トルク締付 — 小径ボルトでアルミねじ山が破損。ヘリサート(リコイル)でスチール製ねじ山を挿入する対策が定石です。
- 使い古しトルクレンチで新品同様の精度を期待 — トルクレンチは校正切れで±30%誤差が出る例も。年1回の校正が必須です。
関連するJIS・ISO規格
- JIS B 1083 ― ねじの締付け通則。締付トルク・軸力の計算式、締付管理方法の基準。
- JIS B 1071 ― 締結用部品-ボルト、小ねじ及び植込みボルトのトルク係数試験方法。
- JIS B 1051 ― 炭素鋼及び合金鋼製締結用部品の機械的性質-ボルト、小ねじ及び植込みボルト。強度区分の規定。
- JIS B 1082 ― ねじの有効断面積及び保証荷重、破断荷重。
- JIS B 4652 ― トルクレンチ。プリセット・直読式の精度規定。
- JIS B 4650 ― トルク計。校正用機器の規定。
- ISO 898-1 ― Mechanical properties of fasteners made of carbon steel and alloy steel. 強度区分の国際規格。
- ISO 16047 ― Fasteners – Torque/clamp force testing.
- DIN 267 ― ドイツ規格。欧州機械の設計標準。
- JIS D 0301 ― 自動車用締付ボルトの締付方法。整備業界標準。
- 建築基準法・BCJ ― 鉄骨造の高力ボルト締付管理(国交省告示)。
参考資料・公的機関
- 日本産業標準調査会(JISC) ― JIS規格の公式索引。JIS B 1083・1071・1051 等が検索可能。
- ISO 国際標準化機構 ― ISO 898-1・16047 の国際標準規格。
- 経済産業省 ― 産業製品規格の所管官庁。工業標準化法。
- 国土交通省 ― 建築基準法・車両整備基準・BCJ 建築告示。
- 厚生労働省 労働安全衛生法 ― 化学プラント・機械設備の締付管理義務規定。
- 日本自動車整備振興会連合会(JASPA) ― 自動車整備業界の技術基準・整備士資格。
- 自動車技術会(JSAE) ― 自動車の締付管理理論・研究発表。
- 日本建築センター(BCJ) ― 建築物の高力ボルト認定・型式適合認定。
- 東日製作所テクニカルガイド ― 国内トルクレンチメーカー最大手の技術資料。
- カネテック 技術資料 ― 締付管理機器の教育資料。
よくある質問(FAQ)
トルクレンチは必須?
重要部位では必須。自動車整備・鉄骨組立・プラント配管ではJIS/建築基準法/労安法により校正済みトルクレンチの使用が義務化されています。DIY用の非重要部位はスパナで手感覚締付でも可ですが、緩み・過大締付リスクを承知した上で使用してください。
オイルを塗ると変わる?
変わります。トルク係数Kが0.20から0.15〜0.18に下がるため、同じ軸力を得るためのトルク値は20〜30%減らす必要があります。逆に乾燥時の値のまま塗油して締めると、軸力が過大になりボルト降伏の原因に。
カチッと音がなるトルクはどう使う?
プリセット型(クリック式)トルクレンチの設定値到達合図です。それ以上回すと過大トルクとなるため、音が出た瞬間に手を離します。連続で「カチカチ」と回すのは間違いで、1回1締付が原則。
強度区分の見分け方は?
ボルト頭部の刻印を確認。「4.8」「8.8」「10.9」「12.9」と数字が打刻されているのが強度区分。プラス「メーカー刻印」もあります。刻印なしのボルトは強度不明のため重要部位には使用不可です。
ステンレスボルトの締付は?
強度区分の代わりにA2-70/A4-80等(材質-最小引張強度×10)で表示。SUS304同士は焼付き(かじり)が発生しやすく、専用焼付き防止剤(銅ペースト等)が必要。トルク値は同径鉄ボルトの70〜80%が目安。
アルミ・チタンは?
アルミ合金母材はねじ山破損リスクがあるため、締付トルクを鉄より20〜30%減らすかヘリサート(リコイル)でスチール製ねじ山を挿入します。チタンは電食対策(絶縁ワッシャ)と熱膨張差を考慮した設計が必要。
塑性域締付(角度法)とは?
初期トルクで着座させた後、指定角度(例:90°)追加回転させる方法。トルク法より均一な軸力が得られる利点があります。自動車のシリンダーヘッドボルト、産業機械の主軸ボルト等の重要部位で採用。ISO 16047参照。
ボルトの再使用は可能?
強度区分8.8以下・弾性域締付なら再使用可能ですが、10.9以上の高力ボルト・塑性域締付ボルトは1回限りの使い切りが原則。建築鉄骨の高力ボルトは再使用禁止(BCJ規定)。
締付後の緩み対策は?
①ダブルナット、②ばね座金・皿座金、③スプリングピン・割ピン、④接着剤(ロックタイト等)、⑤ハードロックナット(緩み止めナット)、⑥スチール系スタッドボルト熱間締付 の6手法。用途・振動条件で選定します。
トルクレンチの校正周期は?
JIS B 4652 では明確な周期規定はありませんが、年1回の校正が業界標準。ISO 9001認証工場・整備工場では校正証明書付き機器の年次校正が必須。使用頻度が高い場合は6ヶ月ごとの校正も。
締付順序はなぜ重要?
フランジ等の複数ボルト締付では、対角十字→周方向の順で3回に分けて(初期30%→60%→100%)締め上げます。片締めするとガスケット・シール面が偏変形し、漏れ・座屈の原因になります。ASME B16.5に順序図あり。
DIYで注意することは?
①強度区分刻印確認、②潤滑条件明確化、③目安トルクの70〜90%までで様子見、④重要部位は必ずトルクレンチ使用、⑤ステンレスは焼付き防止剤塗布、⑥再締付を1週間後に実施。自転車・オートバイのブレーキ・ステム等の保安部品は必ず整備手帳の値で。