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半導体熱抵抗合成 計算ツール|Rth(j-c)+(c-s)+(s-a)と最大許容損失・冷却設計判断

パワー半導体の熱抵抗合成 Rth(j-a) = Rth(j-c) + Rth(c-s) + Rth(s-a)を、接合-ケース・ケース-ヒートシンク・ヒートシンク-空気の各要素から瞬時計算。最大許容損失(P_max)・接合温度予測・ヒートシンク選定判断まで対応。EV/太陽光PCS/データセンター/産業モータインバータの冷却設計に必要な指標を、JEDEC JESD51・JIS C 60747などの公的規格に基づき解説します。

最終更新:2026-08-08/監修:計算ツールズ編集部

半導体熱抵抗合成ツール

計算式と単位系

合成熱抵抗(直列合成)

Rth(j-a) = Rth(j-c) + Rth(c-s) + Rth(s-a) (℃/W または K/W)

3要素の直列合成で、電気回路の直列抵抗と同じ考え方です。単位はいずれも ℃/W(=K/W)。合計値のうち最大要素がボトルネックとなり、冷却改善の優先度もそこから決まります。並列冷却(両面冷却)の場合は電気回路の並列抵抗と同様に計算します。

最大許容損失

P_max = (Tj_max − Ta) / Rth(j-a)

接合温度上限(Si 150℃, SiC 175-200℃, GaN 150-175℃)と周囲温度Taの差を、合成熱抵抗で割るとデバイスに許される最大損失が求まります。実運用ではこの70-80%を上限とするのが安全設計の慣習です。

実運用時の接合温度予測

Tj = Ta + P_loss × Rth(j-a)

実際の損失P_lossから接合温度が予測できます。損失計算はスイッチング損失ツールを参照。

3要素の物理的意味

熱抵抗合成の3要素は、それぞれ物理的にまったく異なる熱伝達現象です。

要素熱伝達現象設計変数
Rth(j-c) 接合-ケースダイからパッケージ底面までの固体内熱伝導ダイサイズ・パッケージ構造(TO220/TO247/D2PAK等)
Rth(c-s) ケース-ヒートシンクパッケージ底面から放熱器までの界面熱抵抗TIM(グリス・シート・PCM)・面粗さ・押付力
Rth(s-a) ヒートシンク-空気放熱器から周囲への対流+輻射フィン形状・風速・表面積・黒色化

Rth(j-c) デバイス別目安

パッケージRth(j-c) 典型値
SOT-23(小信号)200-500 ℃/W
DPAK / D2PAK1.5-3 ℃/W
TO-2200.5-2 ℃/W
TO-2470.3-1 ℃/W
TO-263 / TOLL0.5-1.5 ℃/W
SiC MOSFETディスクリート0.4-1.2 ℃/W
IGBTモジュール 100A級0.15-0.4 ℃/W
大容量IGBTモジュール 1000A級0.03-0.1 ℃/W
プレスパックGCT/IGCT0.005-0.02 ℃/W

Rth(c-s) 絶縁材/TIM別目安

ケースとヒートシンクの間には、絶縁と熱伝導を両立させるTIM(サーマルインターフェイスマテリアル)を挟みます。素材選定でRth(c-s)は大きく変わります。

絶縁材/TIM熱伝導率Rth(c-s)目安(TO-220相当)
直接接触(金属ベア)0.5-1.5 ℃/W
シリコーングリス0.7-3 W/mK0.1-0.5 ℃/W
高性能グリス(金属フィラ)3-8 W/mK0.05-0.2 ℃/W
マイカ絶縁0.4 W/mK1-3 ℃/W
シリコーンシート1-6 W/mK0.5-2 ℃/W
グラファイトシート10-100 W/mK0.05-0.3 ℃/W
Phase Change Material(PCM)3-6 W/mK0.05-0.15 ℃/W
液体金属(Ga-In)13-70 W/mK0.01-0.05 ℃/W

Rth(s-a) ヒートシンク・冷却方式別目安

冷却方式Rth(s-a) 範囲用途例
自然空冷 小型フィン(50-100cm²)5-15 ℃/W小信号回路・LED電源
自然空冷 中型フィン(200-500cm²)1.5-4 ℃/WAC-DCアダプタ・小型モータ
自然空冷 大型フィン(1000cm²+)0.5-1.5 ℃/W屋外設置・防塵性重視
強制空冷 小型ファン0.3-1 ℃/WPCサーバ電源・PLC電源
強制空冷 大型ファン+高性能フィン0.05-0.3 ℃/W大型インバータ・PCS
水冷プレート(1L/min)0.03-0.1 ℃/WEV/HEVインバータ
両面冷却+水冷0.01-0.05 ℃/W高性能EV・鉄道車両
ヒートパイプ複合0.1-0.5 ℃/W電源装置・車載

過渡熱抵抗 Zth(j-c)

定常状態の熱抵抗Rthに対し、短パルス動作では過渡熱抵抗Zth(j-c)を用います。パルス幅1msでは Zth ≈ Rthの1/3〜1/10まで下がり、短時間の高負荷(モータ始動時のインラッシュ電流等)に対応可能。データシートには通常「単発パルス熱インピーダンス曲線」が掲載されています。

Tj_peak = Ta + P_pulse × Zth(j-c, tpulse) + P_avg × Rth(j-a)

連続損失P_avgによる定常温度上昇に、パルス損失P_pulseによる過渡温度上昇を重ね合わせます。

パルス幅別 Zth(j-c) の目安(TO-247の典型例)

パルス幅Zth/Rth 比率用途例
10μs0.02-0.05短絡保護動作(SCFOC)
100μs0.05-0.15PWM制御サイクル
1ms0.15-0.3モータ始動サージ
10ms0.4-0.6電源ON時ラッシュ
100ms0.7-0.85系統事故時対応
1s以上≈1.0(定常近似)連続運転

短パルス動作(モータ始動・短絡保護・スパイク電流)では過渡熱抵抗を活用することで、実効損失を大きく削減した設計が可能です。逆に、定常Rth前提の設計は過大冷却系となりコストUP要因となります。

次世代冷却技術の動向

SiC/GaNの高熱流束密度化(>300 W/cm²)に対応するため、従来型フィン+空冷を超える次世代冷却技術が急速に商用化しています。

技術特徴実用化状況
両面冷却SiCモジュールチップ上下から冷却EV量産採用(BYD・テスラ・トヨタ)
直接液冷(ダイレクトウォーターコンタクト)ダイ直下に冷却水路ハイパースケール電源で採用開始
液体金属TIM(Ga-In-Sn)Rth 0.01℃/W級ゲーミングPC・産業機器で普及中
マイクロチャネル冷却ダイ直上に幅数十μmの流路実験室・一部データセンター
相変化冷却(浸漬冷却)絶縁液に浸漬データセンター・ビットコインマイニング
ヒートパイプアレイ大量ヒートパイプで熱拡散ノートPC・車載機器で普及
Vapor Chamber面全体で熱拡散スマホ・高性能グラボで標準

データセンター分野では2020年代後半に浸漬冷却が主流化する予測もあり、Rth(s-a) 0.01℃/W以下の超低熱抵抗設計が現実的な選択肢となりつつあります。

業界・現場での使い方

パワエレ設計技術者

冷却系選定の初期見積り。損失計算→熱抵抗設計→ヒートシンク選定の順で回路熱設計を進め、Tj_max到達までのマージン20%以上を目標に設計します。

EV車載インバータ

限られた車載空間で高効率冷却を実現するため、両面水冷+SiC MOSFET+液体金属TIMを組み合わせ、Rth(j-a) 0.05-0.1 ℃/W級を実現。テスラ・トヨタ・ホンダ等が採用。

データセンター・サーバ電源

電力密度10-100 W/cm²のGaN電源で、Vapor Chamber・ヒートパイプ+強制空冷+液冷ハイブリッドで対応。GoogleやAWS等ハイパースケーラで熱設計標準化。

太陽光PCS(屋外設置)

周囲温度Ta最大60℃条件でも動作維持のため、フィン強化+密閉冷却+ヒートパイプ複合で対応。定格50-500kW級PCSでRth設計が寿命(20年)を左右します。

鉄道車両インバータ

Tj_max 125℃厳格運用、走行風冷却+補助ファン+熱容量設計で車両下部搭載。JIS E 5006規格対応、東京メトロ・JR・海外都市鉄道で更新中。

試験研究・信頼性評価

パワーサイクル試験(ΔTj 100-150℃ 数百万回)、熱サイクル試験の設計値算定、はんだクラック・ボンドワイヤリフトオフ寿命の予測にRth値が必須。JEDEC/AECQ規格。

ケーススタディ:冷却設計例

ケース1:EV車載インバータSiC 4kW損失

Rth(j-c) 0.15℃/W(SiCモジュール6個並列合成0.025)、Rth(c-s) 0.02℃/W(液体金属TIM)、Rth(s-a) 0.008℃/W(両面水冷1.5L/min)。合計Rth(j-a) 0.053℃/W。Ta 65℃(車内)条件でTj = 65 + 4000×0.053 = 277℃と過熱→水冷強化 or 並列数増設が必要。実際は8並列化+3L/min水冷でTj 145℃達成。

ケース2:太陽光PCS 30kW SiC・空冷

Rth(j-c) 0.5℃/W×6個並列 = 0.083℃/W、Rth(c-s) 0.1℃/W、Rth(s-a) 0.2℃/W(強制空冷大型ヒートシンク)。合計0.38℃/W。損失410W時Tj = 55 + 410×0.38 = 211℃ → 過熱、ヒートパイプ複合Rth(s-a) 0.1℃/Wに強化してTj 150℃達成。

ケース3:USB-PD GaN 38W損失

Rth(j-c) 4℃/W(GaN小型PKG)、Rth(c-s) 1℃/W(グリス)、Rth(s-a) 15℃/W(PCB放熱)。合計20℃/W。Ta 40℃で1デバイス9.35W負担ならTj = 40 + 9.35×20 = 227℃→過熱。銅箔厚2oz化+ヒートシンク小型追加でRth(s-a) 5℃/W達成、Tj 130℃で運転可能に。

よくある間違い・注意点

  • グリスの塗り過剰 — 厚膜化で熱抵抗が増加します。TO-220で理想は10-30μm、ヘラで均一塗布後、規定トルク(通常0.5-1Nm)で締付けると余剰分が押し出され最薄化されます。過剰グリスは絶縁不良の原因にもなります。
  • ヒートシンクの過剰選定 — フィン面積4倍にしてもRth(s-a)は半分程度にしか下がりません。費用対効果が悪く、風路設計・強制空冷検討のほうが有効な場合が多いです。
  • Tj_maxをフル活用 — Si-150℃、SiC-175℃をそのまま設計上限にすると信頼性寿命が短縮。パワーサイクル寿命はΔTjに強く依存(通常ΔTjの4-5乗に反比例)、常用125℃以下推奨。
  • Rth(c-s)を過小評価 — 手締めTO-220で規定押付力の1/3しか出ておらず、Rth(c-s)が2-3倍悪化する例あり。トルクレンチ使用と定期増締めが重要です。
  • 定常Rthのみで過渡評価 — モータ始動時・短絡時等の過渡負荷では、過渡熱抵抗Zth(j-c)を使用しないと過大冷却設計となります。
  • 周囲温度Taの想定不足 — 屋外PCSでは筐体内温度が外気+20-30℃、車載では+40-60℃になる場合もあり、実測ベースの設計が必要です。
  • 放熱経路の重複計算 — 両面冷却・並列パス配置では並列合成の考慮が必要。単純直列で計算すると過大な熱抵抗となります。
  • 環境条件の季節変動を無視 — 屋外PCSでは夏冬でTa差50-60℃。設計は最悪条件(夏の炎天下+定格運転)ベースで実施し、冬季は余裕率が上がる想定で判断します。
  • 冷却系メンテナンスを考慮しない — フィン汚れ・グリス劣化・ファン故障で経年劣化。設計マージン+定期メンテナンス計画が寿命維持の要です。

関連する規格・法規

  • JEDEC JESD51-1〜14 ― 半導体パッケージの熱抵抗測定方法シリーズ。国際的な標準測定手順を規定。
  • JEDEC JESD24-13 ― IGBTの熱測定方法。
  • ISO 7345 ― 熱絶縁性能・物理量測定の基本規格。
  • JEDEC JESD51-14 ― Transient Dual Interface Measurement Method for Rth(j-c)。TDIM法として広く採用。
  • JIS C 60747-15 ― 半導体パワーモジュール絶縁性能・熱特性の要求事項。
  • IEC 60747-9 ― IGBTの電気的特性・試験方法(熱抵抗を含む)。
  • MIL-STD-750 ― 米国防省規格。過酷環境用半導体の試験方法規定。
  • AEC-Q101 ― 車載用ディスクリート半導体の信頼性規格。パワーサイクル・熱サイクル試験を規定。
  • JIS E 5006 ― 鉄道車両用電力変換装置の一般要件。
  • JIS C 8965 ― 太陽光PCSの温度特性・過負荷試験。
※本ツールは公的基準に基づく参考計算です。実際の熱設計・冷却器選定・信頼性評価は最新のデバイスデータシート、JEDEC/JIS/AEC-Q規格および所轄官庁・認証機関の判断に従ってください。EV・鉄道・産業機器等の設計は電気主任技術者・機械設計者の判断を仰いでください。

参考文献・公的資料

よくある質問(FAQ)

Rth 0.5+0.1+1.5の合成は?

2.1℃/W。Tj_max 150℃・Ta 40℃条件で最大許容損失は(150-40)/2.1≈52W。実運用30W想定ではTj≈103℃、マージン47℃で安全設計です。

グリスとシート、どちらが熱抵抗低い?

グリスのほうが密着性で有利。高性能グリス(3-8 W/mK)で0.05-0.2 ℃/W、シリコーンシート(1-6 W/mK)で0.5-2 ℃/W。ただしシートは絶縁性・作業性で優位、量産では選ばれることも多いです。

Tj_maxとTj設計値の関係は?

Tj_max(絶対上限)150℃なら、常用は125℃以下、最大でも135-140℃程度を設計値とするのが業界慣習。パワーサイクル寿命はΔTjの4-5乗に反比例するため、Tjを下げることが長寿命化に直結します。

両面冷却でRthはどう計算する?

電気回路の並列抵抗と同じ扱いで、Rth_bothsides = (Rth_top × Rth_bottom) / (Rth_top + Rth_bottom)。理想的には片面のみの半分にできますが、実際は封止材やモールドの熱抵抗が加わるため、片面の50-70%程度になります。

過渡熱抵抗Zthはどこで使う?

モータ始動時のインラッシュ電流、短絡保護動作時、高負荷パルス駆動時など。パルス幅1msでZth≈Rth/5、100μsでRth/10程度が典型値。データシートの単発パルス曲線を読み取り設計します。

ヒートシンクは大きいほど良い?

Rth(s-a)は面積の平方根に反比例的な関係で、面積4倍でも半分程度にしか下がりません。強制空冷併用・熱設計最適化・冷却方式変更(空冷→水冷)のほうがコスパ良好な場合が多いです。

SiCとSi、熱設計で有利なのは?

SiCは高温動作可能(Tj 200℃)で許容ΔTjが大きく、同じ冷却系でも高損失運用可。またSiC自体の損失が小さいため冷却系のダウンサイジング効果もあり、EV/PCSで両立利益が大きい。

Rth(c-s)を下げる最善策は?

グリスからPCM(相変化材)、Ga-In液体金属、グラファイトシートへの置換が有効。ただし液体金属はAl電食問題があり、GaN/SiC電極では化学的相性の確認が必要です。

周囲温度Taはどう想定?

屋内25℃、屋外条件40-60℃(直射日光考慮)、車載70-85℃、産業機器盤内50-70℃、鉄道車両下部70℃程度が業界慣習。実測ベースが望ましく、周囲温度を含む筐体内温度で設計します。

ヒートパイプの効果は?

熱源と放熱部の距離が離れている場合、ヒートパイプで熱を移送するとRth(s-a)を実効的に0.1-0.5℃/Wまで下げられます。ノートPC・小型サーバ電源・車載機器で活用。

熱抵抗測定はどうする?

JEDEC JESD51-14のTDIM法(過渡二重界面測定)が国際標準。デバイスにパルス電力を印加し、Vf感温を利用してTj応答を測定→熱抵抗を分離抽出。専用測定装置(T3Ster等)が必要です。

信頼性寿命との関係は?

パワーサイクル寿命 Nf ∝ ΔTj^(-4〜-5)、熱サイクル寿命 Nf ∝ ΔTa^(-2〜-3)の関係。冷却強化でΔTjを下げると寿命が指数的に伸びます。EV/鉄道等15-20年寿命要求品では熱設計マージンが決定的です。

グリスの塗り方は?

ヘラで薄く均一に、TO-247では10-30μm厚を目安に塗布→規定トルク(0.5-1Nm)で締付。締付後はグリスが均一に押し広がり、余剰分が押し出されるのが理想。過剰塗布は絶縁不良・熱抵抗増の原因です。

浸漬冷却は現実的?

データセンター・暗号通貨マイニング分野で採用拡大中。フッ素系絶縁液(3M Novec等)や合成炭化水素にサーバー全体を沈める方式で、Rth(s-a)を極限まで下げPUE 1.03-1.05実現。ただし液漏れ・保守性・環境問題への配慮が必要です。