不動産投資 IRR 計算ツール|内部収益率・NPV・キャッシュフロー・売却益・投資判断まで完全解説
不動産投資のIRR(内部収益率)を、購入価格・諸費用・年間家賃・経費・空室損・家賃下落率・売却価格・売却費用から反復法で算出。NPV(正味現在価値)・単純利回り・実質利回り・回収期間を同時に表示し、投資判断の基本指標を一括で確認できます。DCF法、税引後IRR、レバレッジIRR、リスクプレミアムの考え方まで、不動産証券化協会・国土交通省・(一社)不動産流通推進センターの一次資料に基づき解説します。
不動産投資 IRR 計算機
IRRの位置づけと役割
IRR(Internal Rate of Return、内部収益率)は、投資の初期支出と将来キャッシュフロー(CF)の現在価値を等しくする割引率で、投資の年率換算リターンを表します。株式・債券・事業投資と共通の指標のため、不動産投資と他のアセットクラスを同じ物差しで比較できるのが最大のメリットです。
単純利回り(表面利回り=年間家賃÷購入価格)は最も普及した指標ですが、購入諸費用・運用費用・空室率・家賃下落率・売却損益を反映せず、実態と大きく乖離します。IRRはこれらの全キャッシュフローを織り込むため、投資判断の中核指標として(公社)不動産流通推進センターやARES(不動産証券化協会)の実務でも標準化されています。
IRR・NPV・利回りの算式
IRRの定義
Σ CFt / (1+IRR)^t = 0 となる割引率 IRR
t年目のCF(初期はマイナス、運用中はプラス、最終年は運用CF+売却純額)をすべて足し合わせた現在価値がゼロになる割引率がIRRです。解析的な閉じた解はなく、二分法・ニュートン法等の反復法(イテレーション)で近似します。本ツールは二分法で100回反復し、精度0.01万円以内で収束させています。
NPVの算式
NPV = Σ CFt / (1+r)^t
rは投資家が要求する割引率(機会費用、資本コスト、リスクプレミアム込み)。NPVがプラスなら投資価値あり、マイナスなら逆ザヤです。IRRが割引率rを上回ればNPVはプラスになるため、IRR≥rが投資採択の基本ルールです。
単純利回りと実質利回り
- 単純利回り(表面利回り) ― 年間家賃 ÷ 購入価格。物件価格の指標としては使えるが投資判断には不向き。
- 実質利回り(ネット利回り、NOI利回り) ― (年間家賃 − 年間経費) ÷ (購入価格 + 諸費用)。実務ではこちらを重視。
- キャッシュ・オン・キャッシュ利回り ― 年間手取りCF ÷ 自己資金。借入活用時の実質リターン。
IRRの評価基準と目安
| IRR水準 | 評価 | 典型例 |
|---|---|---|
| 3%未満 | 投資価値低い(銀行預金・国債以下) | 都心一等地の低利回り物件、税・修繕未考慮 |
| 3〜5% | 市場平均、保守的投資 | 都心築浅ワンルーム、REIT等の間接投資水準 |
| 5〜8% | 標準的な投資物件 | 首都圏中古区分、地方主要都市の一棟物件 |
| 8〜12% | 優良物件・レバレッジ効果込み | 地方築古一棟、リノベ再生案件 |
| 12%以上 | 高利回りだがリスク要注意 | 地方築古・空室率高・修繕費未計上等 |
「IRR12%以上」は魅力的に見えますが、①家賃下落率を過小評価、②空室率を織り込み不足、③売却価格を楽観、④修繕費・大規模修繕費を計上漏れ、のいずれかが原因になっているケースが実務では頻発します。前提条件の妥当性確認が最重要です。
DCF法の考え方
DCF(Discounted Cash Flow)法は、将来の各年のキャッシュフローを割引率で現在価値化して合計する評価手法で、不動産鑑定評価基準でも収益価格の中核手法として位置付けられています。国土交通省の不動産鑑定評価基準では、DCF法と直接還元法(キャップレート法)が収益還元法の2手法として明記されています。
直接還元法
収益価格 = NOI ÷ キャップレート。1年目のNOIをキャップレート(還元利回り)で割る簡便法。単年度の指標のため、家賃下落や大規模修繕は反映しにくい。
DCF法
各年のCFを個別に見積り、割引率で現在価値化して合計。保有期間中の変動を反映でき、売却価格(復帰価格)も加算。ARESの実務標準。
キャップレート
還元利回り。都心A級オフィスで3〜4%、地方賃貸マンションで5〜7%、地方築古で8〜10%が実勢。ARESのJ-REIT実勢キャップレートが参照可能。
復帰価格
保有期間終了時の売却価格。将来のNOI÷ターミナル・キャップレート(購入時+0.5〜1%)で算定するのが実務標準。
レバレッジIRR(借入活用時)
不動産投資では自己資金と借入を組み合わせるため、レバレッジ後のIRRを計算する必要があります。借入金利がキャップレート未満なら、レバレッジで自己資金IRRが引き上がります(プラス・レバレッジ)。金利がキャップレート超なら逆に自己資金IRRが下がります(ネガティブ・レバレッジ)。
レバレッジ後IRR ≈ 無借入IRR + (無借入IRR − 借入金利) × (借入額 / 自己資金)
物件IRRが7%、借入金利2%、自己資金比率30%(借入比率70%)なら、簡易近似で自己資金IRRは約7% + (7%−2%) × (70/30) ≒ 19% になります。実際は元利返済・金利変動・繰上返済で複雑化するため、キャッシュフロー表からIRRを直接算出するのが正確です。
税引後IRRと減価償却
個人投資家の場合、家賃収入は不動産所得として総合課税されます。所得税・住民税の限界税率が20〜55%と幅広く、税引後IRRは税引前IRRから2〜4%程度低下するのが標準的です。
減価償却
建物取得価額を法定耐用年数(RC47年、重量鉄骨34年、木造22年)で按分して費用計上。築古物件は簡便法(法定耐用年数−経過年数×0.8等)で短期償却でき、節税効果が高い。国税庁タックスアンサーNo.1370を参照。
不動産所得の損益通算
減価償却で会計上の赤字を出し、給与所得と損益通算して所得税・住民税を還付する戦略が高所得者で有効。ただし土地取得の借入金利は損益通算対象外。
売却時の譲渡所得税
5年超保有で長期譲渡(税率20.315%)、5年以下で短期譲渡(税率39.63%)。売却タイミングでIRRが大きく変わるため、5年経過後の売却が定石。
消費税課税事業者
年間売上1,000万円超で課税事業者。住居用家賃は非課税だが、事業用(オフィス・店舗)は課税。インボイス制度も影響。
リスクプレミアムと割引率
NPV計算の割引率は、①無リスク金利(10年国債利回り、2026年5月時点で約1.4%前後)+②リスクプレミアム、で決めるのが理論的です。不動産投資のリスクプレミアムは、都心A級で1〜2%、地方築古で3〜5%、開発型で5〜10%が実務レンジです。
「割引率3%」で計算した場合、地方築古物件のNPVは楽観的な数値になりがちです。物件のリスク特性に応じて、5〜8%程度の割引率で保守的に評価するのが実務的な作法です。
感度分析(シナリオ分析)の実務
IRRは前提値の変動に対して非常に敏感で、家賃下落率・空室率・売却価格の各シナリオでIRRがどう変化するかを検証する感度分析(センシティビティ・アナリシス)が実務の必須手順です。
楽観シナリオ
家賃下落率0.3%、空室率5%、売却価格を購入価格の90%で維持。開発余地・再開発地区・人口増加地域の想定。IRRは1〜2%程度上ブレする可能性。
標準シナリオ(中央値)
家賃下落率0.5〜1%、空室率10%、売却価格を購入価格の70%で減衰。都市部の一般的な想定。感度分析の基準ケース。
悲観シナリオ
家賃下落率1.5〜2%、空室率20%、売却価格を購入価格の40%で減衰。地方衰退地域・人口減少地区の想定。IRRが2〜3%以上下ブレするケース。
ストレステスト
金利上昇、大規模修繕発生、家賃相場急落等の極端シナリオでIRR・CFがマイナスにならないか確認。融資条件の見直し余地も検討。
単純利回りの落とし穴
- 諸費用未計上 ― 購入時の諸費用(仲介手数料・登記費用・不動産取得税・印紙税)は物件価格の7〜10%。実質利回りベースでは表面利回りより0.5〜1%低下。
- 空室率未反映 ― 東京23区で5〜8%、地方主要都市で10〜15%、地方郊外で15〜25%。空室率10%を織り込むと年間家賃は10%減。
- 家賃下落率 ― 築年数経過とともに賃料は年0.5〜1.5%下落。10年で5〜15%の家賃下落を織り込むのが実務的。
- 大規模修繕費 ― 15〜20年ごとに数百万円〜千万円単位の修繕が発生。修繕積立金だけでは不足するケース多い。
- 売却損 ― 木造築古は建物ゼロ評価で土地のみ、RC築古も購入価格の30〜60%まで下落するのが標準。売却損の織り込みが不足するとIRRが実態と乖離。
よくある間違い・注意点
- 表面利回りだけで物件を選ぶ — 「表面利回り10%」の地方築古は、実質利回りベースで5〜6%、税引後・修繕費織込みで3〜4%まで下がるのが実態。IRRベースで判断すれば都心5%物件の方が実質リターンで上回るケースは多い。
- 売却価格を楽観視 — 「10年後も購入価格の90%で売れる」という前提でIRRを高く見せる業者資料は要注意。年1〜3%の下落率を前提に、複数の売却シナリオでIRRを算出しましょう。
- 空室率と家賃下落率をゼロで計算 — 満室・家賃据置の前提は非現実的。想定家賃×稼働率(0.85〜0.95)で入金想定し、家賃下落率も年0.5〜1.5%で織り込みます。
- 大規模修繕費の計上漏れ — 15〜20年周期の外壁塗装・防水・給排水管更新で数百万円単位の支出が発生。修繕積立金+別枠で年10〜15万円の準備が必要。
- レバレッジIRRだけで判断 — 借入活用でIRR20%と見せかけても、金利上昇や空室率悪化でネガティブ・レバレッジに転じるとキャッシュフローが赤字化。無借入IRRとレバレッジIRRを両方確認しましょう。
- 税引前IRRで比較 — 個人投資家の税引後IRRは税引前より2〜4%低下。REITや投資信託の分配金利回りと比較する際は税引後で揃えて比較します。
関連する法令・基準
- 不動産の鑑定評価に関する法律 ― 不動産鑑定士・鑑定評価の根拠。DCF法・キャップレート法の位置付け。
- 不動産鑑定評価基準(国交省告示) ― 収益価格の算定手法として直接還元法とDCF法を規定。
- 不動産特定共同事業法 ― 小口化不動産商品の規制。IRR・NPVの投資家への説明義務。
- 金融商品取引法 ― J-REITや不動産ファンドの規制。運用報告書の開示基準。
- 宅地建物取引業法 ― 重要事項説明、瑕疵担保責任、想定利回り表示の広告規制。
- 租税特別措置法・所得税法・法人税法 ― 不動産所得の課税、減価償却、譲渡所得税の根拠。
- 消費税法 ― 住居用家賃の非課税、事業用の課税、インボイス制度。
- 建築基準法・都市計画法 ― 用途地域・容積率・建蔽率による将来価値への影響。
参考文献・公的資料
IRR・NPV計算の前提となる相場・利回り・空室率は、公的機関・業界団体の公表データを参照してください。
- 国土交通省 不動産鑑定評価基準 ― DCF法・直接還元法の公的な位置付けと算定手順。
- 国土交通省 地価公示・都道府県地価調査 ― 全国の地価水準、変動率の一次データ。
- (一社)不動産証券化協会(ARES) ― J-REIT実勢キャップレート、リスクプレミアム、投資家調査結果。
- (一財)日本不動産研究所 ― 不動産投資家調査、キャップレート統計、鑑定評価情報の公表機関。
- (一財)不動産適正取引推進機構 ― 不動産取引トラブル事例と行政処分情報。
- (公財)不動産流通推進センター ― REINSデータ、不動産取引情報、宅建業実務資料。
- 国税庁 タックスアンサーNo.1370 不動産所得の必要経費 ― 減価償却費・借入金利子・修繕費の必要経費算入ルール。
- 国税庁 タックスアンサーNo.3202 譲渡所得の計算 ― 不動産売却時の長期・短期譲渡所得の税率と計算方法。
- 財務省 国債金利情報 ― 割引率算定の基礎となる無リスク金利(10年国債利回り)の一次データ。
- (公社)全日本不動産協会 ― 実務情報、宅建業者検索、不動産取引の相談窓口。
- (公社)全国宅地建物取引業協会連合会 ― 業界統計、市場動向レポート、実務ガイド。
- 日本FP協会 ― 不動産投資を含む資産運用相談。CFP・AFPによる個別相談。
よくある質問(FAQ)
IRRとNPVはどう違う?
IRRは「投資の年率換算リターン(%)」、NPVは「割引率で現在価値化した正味利益(円)」。IRRは複数物件・複数資産の比較に便利で、NPVは「この投資でいくら儲かるか」の絶対額を示します。IRR≥要求利回りならNPVはプラスで、両方確認して投資判断するのが実務標準です。
IRRの目安は?何%あれば投資すべき?
都心築浅で3〜5%、首都圏中古区分・地方主要都市で5〜8%、地方築古で8〜12%が実勢レンジ。要求IRRは個人の資本コストで異なりますが、無リスク金利(10年国債1.4%)+リスクプレミアム3〜5%=4.4〜6.4%が最低ラインの目安です。12%以上は高利回りだが前提条件の妥当性を要確認。
単純利回りとIRRの違いは?
単純利回り=年間家賃÷購入価格(表面利回り)。諸費用・経費・空室・家賃下落・売却損益を反映せず、実態と乖離。IRRは購入から売却までの全キャッシュフローの現在価値をゼロにする割引率で、これらすべてを織り込みます。物件比較・投資判断はIRRベースで行うのが実務的。
NPV計算の割引率は何%を使えばいい?
①無リスク金利(10年国債1.4%前後)+②リスクプレミアム、で決めます。都心A級で1〜2%、地方築古で3〜5%、開発型で5〜10%のリスクプレミアムが実務レンジ。物件の立地・築年数・空室リスクに応じて、5〜8%程度で保守的に評価するのが定石です。
DCF法とは?
Discounted Cash Flow法。将来の各年のキャッシュフローを割引率で現在価値化して合計する評価手法。国交省の不動産鑑定評価基準でも収益価格の中核手法として位置付け。IRRの計算基盤で、家賃下落・大規模修繕・売却損益を反映できます。
レバレッジIRRとは?
借入を活用した場合の自己資金に対するIRR。借入金利がキャップレート未満ならプラス・レバレッジで自己資金IRRが引き上がり、逆なら下がる(ネガティブ・レバレッジ)。物件IRR7%・借入金利2%・自己資金比率30%なら自己資金IRR約19%が近似値。金利上昇リスクの検証必須。
税引後IRRはどれくらい下がる?
個人投資家の税引後IRRは、限界税率(20〜55%)に応じて税引前より2〜4%程度低下。減価償却で会計上の赤字を出し給与所得と損益通算する戦略で節税可能。ただし土地取得の借入金利は損益通算対象外。REITの分配金と比較する際は税引後で揃えます。
家賃下落率はどれくらいで見積もる?
都心新築で年0.3〜0.5%、都心中古で年0.5〜1%、地方主要都市で年1〜1.5%、地方築古で年1.5〜3%が実勢。築年数・立地・競合物件の供給量で変動。DCF計算では保守的に年1〜1.5%で織り込むケースが実務では多いです。
空室率はどれくらいで見積もる?
東京23区で5〜8%、地方主要都市で10〜15%、地方郊外で15〜25%が実勢。単身向け・ファミリー向けでも異なります。想定家賃×稼働率(0.85〜0.95)で入金想定するのが実務的。(一財)日本不動産研究所の統計や、SUUMO・LIFULL HOME'Sの地域別空室率データが参考になります。
売却価格の予測はどうする?
①10年後の想定NOI÷ターミナル・キャップレート(購入時+0.5〜1%)で算定、②年1〜3%の下落率で単純減価、の2手法が実務標準。木造築古は建物ゼロ評価で土地のみ、RC築古は購入価格の30〜60%まで下落。複数シナリオ(楽観・標準・悲観)でIRRを算出しましょう。
IRRが計算できないケースは?
キャッシュフローの符号が複数回変わる(例:大規模修繕で単年度赤字)場合、複数のIRR解が存在します。この場合はMIRR(修正内部収益率)を使用します。反復法で収束しないケースも、初期投資が回収不能な赤字投資の場合に発生。NPVで補完判断するのが実務的です。
REITと不動産直接投資、IRRで比較するには?
J-REITの分配金利回りは4〜5%(2026年5月時点)、キャピタルゲインを含む長期IRRは6〜8%程度が実勢。個別物件のIRRと比較する際は、①流動性(REITは高、直接投資は低)、②レバレッジ(REITは低、直接投資は高)、③管理負担(REITは不要、直接投資は必要)、④税率(REITは分離課税20.315%、直接投資は総合課税)を揃えて比較します。