計算ツール
化学分析滴定JIS準拠

ヨウ素滴定 計算ツール|Na₂S₂O₃標準液・デンプン指示薬・還元剤定量・水質分析対応

ヨウ素滴定(iodometric titration)を、Na₂S₂O₃標準液0.1Nの滴定量から瞬時に計算する無料電卓。I₂ + 2Na₂S₂O₃ → 2NaI + Na₂S₄O₆の当量関係で、酸化剤・還元剤・活性塩素・銅・過酸化水素・亜硫酸イオンの濃度を算出。水道水残留塩素の測定(JIS K 0101/0102)、食品添加物の亜硫酸試験(食品添加物公定書)、めっき液の銅定量(JIS H 8617)など幅広い実務用途に対応します。

最終更新:2026-08-05/監修:計算ツールズ編集部

ヨウ素滴定 計算機

計算式と反応論

基本反応

I₂ + 2 Na₂S₂O₃ → 2 NaI + Na₂S₄O₆

1モルのI₂に対して2モルのNa₂S₂O₃(チオ硫酸ナトリウム)が消費されます。これはヨードメトリー(iodometric method)の基本反応で、ヨウ素の還元によって等量関係が成立します。この反応は水溶液中でほぼ定量的に進み、19世紀後半のBunsen(1853)以来、酸化剤・還元剤定量の標準法として利用されてきました。

ヨウ素濃度の計算

n(I₂) = (V × C × f) / 2 [mmol]

[I₂] = n(I₂) / V_sample [mol/L]

V: Na₂S₂O₃滴下量(mL)、C: Na₂S₂O₃濃度(mol/L)、f: 力価ファクター、V_sample: 試料体積(mL)。ヨウ素の分子量は253.81 g/mol。

対応する物質の量的関係

ヨウ素滴定は間接法でも使え、目的物質(酸化剤)と過剰のKIを反応させて生成したI₂をNa₂S₂O₃で滴定します。

  • 活性塩素(Cl₂/HClO):Cl₂ + 2 KI → 2 KCl + I₂ ⇒ n(Cl₂) = n(I₂)
  • 銅(II):2 Cu²⁺ + 4 I⁻ → 2 CuI + I₂ ⇒ n(Cu) = 2 × n(I₂)
  • 過酸化水素:H₂O₂ + 2 I⁻ + 2 H⁺ → I₂ + 2 H₂O ⇒ n(H₂O₂) = n(I₂)
  • 亜硫酸(直接法):SO₃²⁻ + I₂ + H₂O → SO₄²⁻ + 2 I⁻ + 2 H⁺ ⇒ n(SO₃²⁻) = n(I₂)

ヨウ素滴定の原理

ヨウ素滴定は酸化還元滴定(oxidation-reduction titration)の一種で、I₂/I⁻対の可逆的な電子移動を利用します。標準電位はE°(I₂/I⁻) = +0.535 V、E°(S₄O₆²⁻/S₂O₃²⁻) = +0.080 V。両電位差からS₂O₃²⁻がI₂を還元する反応は自発的で、平衡定数K ≈ 10¹⁵と非常に大きく、定量的です。

直接ヨードメトリー(iodimetry)

還元剤(SO₃²⁻・Sn²⁺・アスコルビン酸等)を、ヨウ素標準液で直接滴定する方式。試料を強く酸化しない場合に有効。指示薬はデンプン(青→無色または無色→青)。

間接ヨードメトリー(iodometry)

酸化剤(ClO⁻・H₂O₂・Cu²⁺・MnO₄⁻等)に過剰のKI溶液を加え、生成したI₂をNa₂S₂O₃で戻し滴定する方式。ヨウ素滴定の主流。試料中の酸化剤濃度が n(I₂) = n(Na₂S₂O₃)/2 から求まります。

試薬と標準液調製

ヨウ素滴定で使用する主要試薬とその調製方法です。

試薬濃度調製手順備考
Na₂S₂O₃・5H₂O0.1 mol/L25 g/1L水で溶解し1日放置後、KIO₃/K₂Cr₂O₇で標定標準液(JIS K 8637)
ヨウ素標準液0.05 mol/LI₂ 13 g + KI 20 g/1L水KI過剰でI₃⁻として安定化
KI試薬10 %10 g/100 mL水用時調製・冷暗所保管
デンプン指示薬1 %可溶性デンプン1 g/100 mL熱水用時調製・防腐剤HgI₂微量
硫酸(酸性化)1 mol/L市販1Nを使用間接法で必要
酢酸(緩衝)1 mol/L市販1Nを使用銅定量で使用

Na₂S₂O₃標準液の力価(ファクター)は、KIO₃または重クロム酸カリウム(K₂Cr₂O₇)を一次標準に、月1回以上の頻度で標定・確認するのが実務上の推奨です。

デンプン指示薬の使い方

デンプン-ヨウ素反応はアミロース螺旋にヨウ素が包接されて濃青色の錯体を作る反応で、10⁻⁵ mol/L 程度の低濃度I₂まで検出可能です。実務上のポイント:

滴定終盤で加える

滴定初期に加えるとデンプンが高濃度I₂と強く結合し、終点付近で色の変化が鈍くなります。試料の色が薄い黄色になった時点(=I₂濃度が下がった時)にデンプンを加え、濃青色から無色への変化を鋭敏に観察します。

1%可溶性デンプン水溶液

可溶性デンプン(soluble starch)1 gを冷水少量で懸濁後、沸騰水100 mLに投入して溶解。防腐のため塩化亜鉛・HgI₂ 少量添加が伝統的な処方。冷蔵で1ヶ月程度保持可能ですが、用時調製が最も安定した色調が得られます。

終点の見極め

直接法は「無色→青(1滴で持続)」で終点。間接法は「青→無色(1滴で消失)」で終点。持続時間は30秒以上を目安に。空気酸化で徐々に青色復帰する場合はブランク補正が必要です。

低温での使用

デンプン-I₂錯体は50℃以上で解離し感度が落ちます。試料は室温以下(15〜25℃)で滴定。冬季の低温環境でも、透明感のある青色が最も鮮明に見えます。

代表的な適用例と反応式

用途反応式換算
水道水の残留塩素Cl₂ + 2 KI → 2 KCl + I₂Cl₂ mg/L = I₂ mmol × 70.9
次亜塩素酸ナトリウムNaClO + 2 KI + 2 HCl → I₂ + NaCl + 2 KCl + H₂OClO⁻ mmol = I₂ mmol
過酸化水素(オキシドール等)H₂O₂ + 2 KI + 2 HCl → I₂ + 2 KCl + 2 H₂OH₂O₂ mmol = I₂ mmol
銅めっき液(Cu定量)2 Cu²⁺ + 4 I⁻ → 2 CuI↓ + I₂Cu mmol = I₂ mmol × 2
亜硫酸ナトリウムSO₃²⁻ + I₂ + H₂O → SO₄²⁻ + 2 I⁻ + 2 H⁺SO₃²⁻ mmol = I₂ mmol
アスコルビン酸(ビタミンC)C₆H₈O₆ + I₂ → C₆H₆O₆ + 2 HIVit.C mmol = I₂ mmol
ヨウ素価(油脂)不飽和結合 + IBr → 加成生成物油脂100g当たりのI₂等価量
過酸化物価(POV)ROOH + 2 KI + 2 H⁺ → ROH + H₂O + I₂油脂1kg当たり meq

水道水残留塩素の測定

水道法第4条・水道水質基準に基づき、末端給水栓での遊離残留塩素は0.1 mg/L以上維持することが義務付けられています。ヨウ素滴定法(JIS K 0101 33.4)は、正確な残留塩素定量の公定法の一つです。

手順の概要

  1. 試料水100 mLをコニカルビーカーに採取
  2. KI 1 g + 硫酸(1+9) 5 mL 添加、5分間暗所静置
  3. デンプン指示薬2 mL 添加(青色発現)
  4. Na₂S₂O₃ 0.01 mol/L で青色消失まで滴定
  5. Cl₂(mg/L) = V(mL) × f × 0.3545 × (1000/試料mL)

ここでの0.3545 = 0.01 × 70.906/2(半反応より、S₂O₃²⁻ 1mmolがCl₂ 0.5 mmol=35.45 mgに対応)。プールや浴槽の高濃度塩素(1〜5 mg/L)測定にも同じ原理を適用可能で、簡易試験紙・DPD法よりも高精度です。

標準的な滴定手順

間接ヨードメトリー(酸化剤定量)の標準手順です。

  1. 試料採取:正確に測り取り(通常10〜50 mL)、コニカルビーカーへ移す
  2. 酸性化:硫酸(1+5)を5〜10 mL 添加してpH 1〜3に調整
  3. KI添加:10% KI水溶液を5〜10 mL 添加、褐色ヨウ素が発現
  4. 暗所静置:5分間、光を遮って反応を完結させる
  5. 粗滴定:Na₂S₂O₃で黄色が薄くなるまで滴定
  6. 指示薬添加:デンプン指示薬2 mL、青色が発現
  7. 本滴定:Na₂S₂O₃で青色が消えるまで慎重に滴下(1滴ずつ)
  8. 終点判定:30秒間青色が復帰しないことを確認
  9. ブランク:試料なしで同手順を実施し、指示薬・試薬の汚染分を減算
  10. 並行測定:最低2回の並行測定で相対標準偏差5%以下を確認

実務での計算例

典型的な分析例を、化学量論と単位換算を含めて解説します。

例1:水道水の残留塩素測定

試料100 mL・Na₂S₂O₃ 0.01 mol/L・f=1.005・滴定量2.35 mL の場合:
n(I₂) = (2.35 × 0.01 × 1.005) / 2 = 0.01181 mmol
n(Cl₂) = n(I₂) = 0.01181 mmol
Cl₂ 質量 = 0.01181 × 70.906 = 0.837 mg
濃度 = 0.837 mg / 0.1 L = 8.37 mg/L(プール上限5 mg/L 超過)

例2:オキシドールの H₂O₂ 濃度

試料1 mL 希釈100 mL 分取10 mL に KI+硫酸添加、Na₂S₂O₃ 0.1 mol/L で滴定量17.30 mL、f=0.9985:
n(I₂) = (17.30 × 0.1 × 0.9985) / 2 = 0.8637 mmol
n(H₂O₂) = 0.8637 mmol(in 10 mL)
希釈補正 = 0.8637 × 10 = 8.637 mmol/mL
質量% = 8.637 × 34.015 / 1000 × 100 = 2.94 %(公定基準2.5〜3.5%内)

例3:CuSO₄めっき液のCu定量

試料25 mL・KI過剰・Na₂S₂O₃ 0.1 mol/L で滴定量18.45 mL、f=1.000:
n(I₂) = (18.45 × 0.1) / 2 = 0.9225 mmol
n(Cu) = 2 × n(I₂) = 1.845 mmol
Cu 濃度 = 1.845 × 63.546 / 25 = 4.69 g/L(標準銅めっき浴20〜30 g/L には未達 → 補充)

よくある間違い・注意点

  • デンプンを早く加える — 高濃度I₂と結合したデンプンは終点付近での色変化が鈍くなります。試料が薄い黄色になるまで待って加えるのが鉄則。
  • 空気酸化を無視 — KI水溶液は空気中の酸素で徐々にI₂を生じ、ブランク値が上がります。必ずブランク補正を実施してください。
  • Na₂S₂O₃の劣化 — チオ硫酸ナトリウム溶液は微生物・CO₂・光で経時変化。1〜2週間ごとに一次標準(KIO₃/K₂Cr₂O₇)で標定・力価修正を。
  • 強酸性下での長時間放置 — I⁻は強酸性で酸素と反応し I₂を生じます。KI添加後は5分以内に滴定開始が推奨。
  • 試料温度が高すぎる — 50℃以上ではデンプン-I₂錯体が解離し感度低下。室温以下(15〜25℃)で滴定。
  • 力価ファクターの入れ忘れ — Na₂S₂O₃の力価fは通常0.98〜1.02の範囲。1.0で計算すると2%誤差になります。
  • ビュレット読み取り誤差 — 通常ビュレット(50 mL)の読取り誤差は±0.05 mL。滴定量は10〜40 mLの範囲に収まるよう試料量を調整すると精度良好。

関連する規格・JIS

  • JIS K 8637 ― チオ硫酸ナトリウム五水和物(試薬)。0.1 mol/L標準液の調製・標定方法。
  • JIS K 8913 ― ヨウ化カリウム(試薬)。KI試薬の純度・調製規格。
  • JIS K 8659 ― でんぷん(可溶性、指示薬用)。指示薬用可溶性デンプンの品質。
  • JIS K 0101 33 ― 工業用水試験方法 塩素。工業用水中の遊離塩素・全塩素のヨウ素滴定法。
  • JIS K 0102 44 ― 工場排水試験方法 塩素。排水中の塩素定量。
  • 水道法施行規則(厚労省令) ― 水道水の遊離残留塩素0.1 mg/L以上の維持義務。
  • 食品衛生法・食品添加物公定書 ― 亜硫酸塩の定量法(酸化・還元滴定を含む)。
  • JIS H 8617 ― 電気銅めっき浴の分析方法。銅濃度のヨードメトリー定量。
  • ASTM E200 ― Standard Practice for Preparation, Standardization, and Storage of Standard and Reagent Solutions for Chemical Analysis(米国標準)

参考文献・公的資料

より詳細な手順・データは、以下の公的機関・学会の資料を参照してください。

※本ページの計算結果は、化学量論に基づく理論値です。実際の分析では試料マトリクス・妨害物質の影響、標準液の力価変動、器具の校正誤差などを考慮してください。取引・証明・規制対応(水道水質検査・食品分析等)に用いる場合は、JIS/公定法に基づく認証標準物質(CRM)による校正済み分析機関での実測結果を優先し、必要に応じて分析化学の専門家(技術士(化学部門)・環境計量士等)にご相談ください。

よくある質問(FAQ)

指示薬にデンプンを使う理由は?

アミロースの螺旋構造にヨウ素分子(I₃⁻)が包接され、濃青色の錯体を形成するため。10⁻⁵ mol/L の微量I₂まで検出できる高感度指示薬です。青→無色の変化は非常に鋭敏で、他の酸化還元指示薬より終点判定が容易。伝統的に19世紀から使われてきた古典的手法です。

直接法と間接法の違いは?

直接法(iodimetry)は還元剤(SO₃²⁻・アスコルビン酸等)をヨウ素標準液で直接滴定。間接法(iodometry)は酸化剤(ClO⁻・H₂O₂・Cu²⁺等)に過剰KIを加え、生成したI₂をNa₂S₂O₃で戻し滴定。実務では間接法が圧倒的に多く使われます。

水道水の残留塩素はどう測定する?

試料100 mLにKI 1 g・硫酸を加えて発生したI₂を、0.01 mol/L Na₂S₂O₃で滴定。Cl₂(mg/L) = 滴定量(mL) × f × 0.3545 × (1000/試料mL)。JIS K 0101・水道法施行規則で公定されており、末端給水栓で0.1 mg/L以上維持が義務。

Na₂S₂O₃標準液の力価は必要?

必須です。チオ硫酸ナトリウム溶液は微生物・CO₂・光で経時変化し、実濃度が0.1 mol/L から数%ズレます。KIO₃(0.01667 mol/L)や重クロム酸カリウム(K₂Cr₂O₇)を一次標準に、月1回以上の頻度で標定・力価修正を行うのが実務基準です。

ブランク補正の必要性は?

試薬(特にKI)・水・空気酸素の影響で、試料なしでも微量の滴定量が出ます。試料の実滴定量からブランク滴定量を差し引くことで、真の分析値が得られます。低濃度域(0.1 mg/L水準)では必須の補正です。

過酸化水素(オキシドール)の濃度はどう測る?

試料に硫酸・KIを加えて生成I₂をNa₂S₂O₃で滴定。H₂O₂(mmol) = I₂(mmol) = 滴定量 × f × C / 2。市販オキシドール(3% H₂O₂)は約0.88 mol/L。日本薬局方の含量規格2.5〜3.5%の適合確認に使用されます。

銅めっき液の銅濃度はどう定量する?

Cu²⁺ + 4 I⁻ → 2 CuI + I₂ の反応で生成したI₂をNa₂S₂O₃で滴定。Cu(mmol) = 2 × I₂(mmol)。JIS H 8617の電気銅めっき浴分析の公定法。1 mL滴定 ≒ Cu 6.35 mgに相当し、めっき浴管理に多用されます。

過酸化物価(POV)の測定は?

油脂試料をクロロホルム-酢酸に溶解し、KIを加えて発生したI₂を0.01 mol/L Na₂S₂O₃で滴定。POV(meq/kg) = 滴定量(mL) × f × 10 / 試料g。食品油脂の酸化劣化指標として食品添加物・食用油の規格試験で使用。

デンプン指示薬はいつ加える?

滴定初期に加えるとデンプンが高濃度I₂と強く結合し、終点付近で色変化が鈍くなります。試料が薄い黄色(=I₂濃度が下がった時)になった時点で加え、青色→無色の1滴変化で終点を捉えるのが最も精度が高い方法です。

ヨウ素標準液を直接使わない理由は?

I₂は光・熱・空気酸化で経時変化し、Na₂S₂O₃より安定性が劣ります。KIを加えてI₃⁻として溶解させても、長期保存では濃度変化が大きいため、実務ではNa₂S₂O₃を主標準液とし、I₂は用時調製が推奨されます。

妨害物質は何がある?

強い還元剤(Fe²⁺・Sn²⁺・アスコルビン酸等)・強い酸化剤(NO₂⁻・MnO₄⁻・Cr₂O₇²⁻等)は妨害となります。マトリクス複雑な試料では、前処理(蒸留・イオン交換・分光光度法との併用)が必要になる場合があります。

個人・家庭で試験できる?

試薬入手・器具校正・法令知識が必要なため、家庭での定量分析は現実的ではありません。市販のDPD法試験紙・電気化学式塩素計(POC-40)等の簡易測定器具を推奨。取引・証明・法規対応が必要な場合は、計量証明事業者(環境計量士)へ依頼してください。