真空パッド吸着力計算
【ご注意】このページの計算結果・情報は参考値です。正確性・最新性は保証できません。税務・法務・お金・設計・施工・安全などに関わる判断は、公式の資料と専門家の確認のうえ、ご自身の責任で行ってください。免責事項
パッド径・真空圧・パッド数を入れると、理論吸着力と、水平吊り・垂直吊りそれぞれで安全に搬送できる質量、ワーク質量から逆算した必要パッド径を算出します。ピック&プレースやロボットハンドの選定に使います。
真空パッド吸着力計算ツール
計算式
理論吸着力は F=真空圧(kPa)×パッド面積(mm²)÷1000 で N になります。既定値のφ40・−60kPa では面積 1,256.6mm² から1個あたり 75.4N、2個で 150.8N です。搬送できる質量は、パッド面と平行に持ち上げる水平吊りでは W=F/(安全率×9.80665)、ワークがずり落ちる方向に荷重が掛かる垂直吊りでは摩擦係数を掛けて W=F×μ/(安全率×9.80665) です。
既定値では水平で 150.8/(4×9.80665)=3.84kg、垂直で 150.8×0.5/(8×9.80665)=0.96kg になります。3kg のワークを2個のパッドで水平に持つには1個あたり 58.8N が要り、必要パッド径は √(4×58.8/(π×0.06))=35.3mm、垂直なら 70.7mm です。
パッド径×真空圧 理論吸着力(1個・N)
| パッド径 | 面積 | −40kPa | −60kPa | −80kPa |
|---|---|---|---|---|
| φ10 | 78.5mm² | 3.1 | 4.7 | 6.3 |
| φ16 | 201mm² | 8.0 | 12.1 | 16.1 |
| φ20 | 314mm² | 12.6 | 18.8 | 25.1 |
| φ25 | 491mm² | 19.6 | 29.5 | 39.3 |
| φ32 | 804mm² | 32.2 | 48.3 | 64.3 |
| φ40 | 1,257mm² | 50.3 | 75.4 | 100.5 |
| φ50 | 1,963mm² | 78.5 | 117.8 | 157.1 |
| φ63 | 3,117mm² | 124.7 | 187.0 | 249.4 |
| φ80 | 5,027mm² | 201.1 | 301.6 | 402.1 |
| φ100 | 7,854mm² | 314.2 | 471.2 | 628.3 |
吊り方と安全率の目安
| 吊り方・条件 | 安全率 | 理由 |
|---|---|---|
| 水平吊り(パッド面が上向き・低速) | 4 以上 | 真空圧の変動・リークを吸収する |
| 垂直吊り(ワークが滑る方向・低速) | 8 以上 | 摩擦だけで保持し、加速で滑りやすい |
| 高速搬送・急停止がある | 上記に加えて 1.5〜2倍 | 慣性力が吸着力に対して働く |
| 多孔質・粗面のワーク | 実測で決める | リークで真空圧が到達しない |
ワーク材質と摩擦係数の目安(乾燥・ゴムパッド)
| ワーク表面 | 摩擦係数 μ | 備考 |
|---|---|---|
| 鋼板・アルミ板(乾燥) | 0.5 | 基準値 |
| 鋼板(防錆油付き) | 0.1〜0.2 | 垂直吊りは避ける |
| ガラス・樹脂板 | 0.4〜0.5 | 平滑で密着しやすい |
| 段ボール・紙 | 0.5〜0.6 | リークが大きく真空圧が上がりにくい |
| 木材(無塗装) | 0.5 | 面粗さで変わる |
※本ツールは理論式による参考計算です。機器の選定は各メーカーのカタログ値と安全率、および JIS・ISO と労働安全衛生法令の要求事項に従ってください。
真空パッド吸着力計算の詳しい解説
真空パッドの吸着力は、パッドの内側と外側の圧力差に面積を掛けた値です。真空圧を −60kPa と表すのは大気圧より 60kPa 低いという意味で、kPa は 0.001N/mm² なので、面積を mm² で掛ければ答えは N になります。ここで重要なのは、到達できる真空圧が真空発生器の能力だけで決まるわけではないことです。ワーク表面の粗さや多孔質のリーク、パッドのリップの変形、配管の抵抗によって実際の圧力は下がり、カタログの −90kPa がそのまま使えることは少ないため、実務では −60kPa 前後で計算し、真空スイッチで実圧を監視します。
水平吊りと垂直吊りで式が変わるのは、荷重の受け方が違うからです。パッド面を上向きにしてワークを持ち上げる水平吊りでは、吸着力がそのまま荷重に対抗します。パッドを側面に当てて持つ垂直吊りでは、ワークは吸着面に沿って滑り落ちようとし、それを止めるのはパッドとワークの摩擦力だけです。摩擦係数 0.5 なら吸着力の半分しか使えず、しかも滑りは加速や振動で突然起きるため、安全率も水平の4倍に対して8倍と厳しく取ります。油の付いた鋼板や粉塵の多い環境では摩擦係数が 0.1〜0.2 まで落ちるので、垂直吊りは原則として避け、どうしても必要なら機械的なストッパを併用します。
安全率にはいくつかの役割が詰まっています。真空圧の変動、搬送中の加減速による慣性力、パッドの経年劣化、ワークの偏心による一部パッドの浮きです。とくにロボットで高速に動かす場合、加速度が 1G に近づくと慣性力が自重と同じ大きさになり、水平吊りでも実質的に横方向の荷重が加わります。高速搬送では安全率をさらに 1.5〜2倍取るか、加速度を落として対応します。パッドを複数使うときは、ワークの重心を囲むように配置し、どれか1個が浮いても残りで保持できる余裕を持たせます。
パッド径を決める手順は逆算です。ワーク質量に重力加速度と安全率を掛けて必要吸着力を出し、パッド数で割って1個あたりの必要力を求め、真空圧で割った面積から直径を出します。既定値の 3kg を2個で水平に持つ場合は 35.3mm が計算値で、標準品の φ40 で足りることが確認できます。垂直に持つなら 70.7mm が必要で、φ80 以上か、パッド数を4個に増やす判断になります。径を大きくすると吸着力は二乗で増えますが、ワークの平面部の大きさとリップの追従性に限界があるため、小さいパッドを複数使う方が安定することも多くあります。
真空発生器側の選定も忘れてはいけません。エジェクタの吸込流量はリークのあるワークほど多く必要で、段ボールや木材のような多孔質では真空圧が到達しないことがあります。その場合は真空ポンプや大流量エジェクタに切り替えるか、パッドの材質をリップが柔らかいものに変えます。吸着力の計算はあくまで理想的な密着を前提にしているので、実機では真空スイッチの設定圧を計算に使った真空圧以上にし、到達しなければ動作を止めるインターロックを組むことが安全設計の基本です。
別の条件での計算例
0.5kg の樹脂トレイを φ16 のパッド4個・−50kPa で水平に搬送する場合、1個の吸着力は 0.05×201.1=10.05N、4個で 40.2N です。水平吊りの許容質量は 40.2/(4×9.807)=1.03kg なので余裕をもって運べますが、同じトレイを側面から垂直に持つと、摩擦係数 0.4 として 40.2×0.4/(8×9.807)=0.20kg までしか保持できず不可になります。ロボットで 5m/s²(約0.5G)の加速をかける場合は、慣性力が自重の半分に達するので水平でも安全率を 1.5 倍の 6 に上げ、許容質量は 0.68kg まで下がります。パッド径を φ20 に上げれば面積が1.56倍になって 1.07kg に戻り、真空圧を −70kPa にすれば同じ φ16 でも 0.96kg です。径・個数・真空圧・加速度のどれを動かすかは、ワークの平面部の大きさとエジェクタの能力で決めます。
業界・現場での使い方
ロボットハンド・ピック&プレースの設計
ワーク質量と加速度から必要吸着力を求め、パッド径と個数を決めます。重心を囲む配置と真空スイッチの設定圧まで合わせて検討します。
板金・ガラスの搬送
平滑で密着しやすい反面、質量が大きいので大径パッドを複数使います。油付き鋼板は摩擦係数が低く垂直吊りに向きません。
段ボール・包装ラインのケース搬送
リークが大きく真空圧が上がりにくいため、真空圧を低めに見積もり、大流量のエジェクタを選びます。
設備保全・落下トラブルの診断
落下が起きたら、実測の真空圧・摩擦の変化・加速度の増加のどれが原因かを、計算上の余裕と照らして切り分けます。
よくある間違い・注意点
- カタログの最大真空圧で計算する — リークやパッドの変形で実圧は下がります。−60kPa 前後で計算し、真空スイッチで実圧を確認します。
- 垂直吊りを水平と同じ式で計算する — 垂直では摩擦力だけで保持します。摩擦係数を掛け、安全率も8以上に取ります。
- 安全率を1〜2で済ませる — 真空圧の変動・慣性力・劣化を吸収するため、水平4・垂直8が最低ラインです。
- kPa を MPa と混同する — −60kPa は −0.06MPa です。単位を間違えると吸着力が1000倍ずれます。
- 多孔質ワークで理論値を信じる — 段ボールや木材は真空圧が到達しないことがあります。実測で真空圧を確かめてから設計します。
関連する規格・公的資料
- 日本産業標準調査会(JISC) — JIS規格の検索と閲覧。空気圧・油圧の各規格番号はここで確認できる
- 日本フルードパワー工業会(JFPA) — 油圧・空気圧機器の業界団体。技術資料と機器の安全基準
- 日本フルードパワーシステム学会 — 油空圧の学術団体。基礎理論と最新の研究
- ISO(国際標準化機構) — ISO 6358・ISO 15552・ISO 3320 などの原規格
- 厚生労働省 — 労働安全衛生法と圧力容器・空気圧機器の安全規制
- e-Gov 法令検索 — ボイラー及び圧力容器安全規則・労働安全衛生法施行令の条文
- 高圧ガス保安協会(KHK) — 高圧ガス保安法の解説。1MPa以上の圧縮ガスの扱い
- 産業技術総合研究所 計量標準総合センター — 圧力・流量・温湿度の国家計量標準
- 日本機械学会 — 流体工学・機械設計の学術資料
- 日本規格協会(JSA) — JIS規格票の発行と規格の解説
- 労働安全衛生総合研究所 — 産業安全の研究機関。機械災害の防止
- 経済産業省 — 産業保安と省エネルギー施策。コンプレッサの省エネ指針
- JIS B 8370(空気圧システム通則) — 真空用機器を含む空気圧システムの一般規則
- ISO 4414(空気圧システムの安全要求事項) — JIS B 8370 の元規格
- 労働安全衛生規則(機械による危険の防止) — 搬送装置・ロボットの安全対策の根拠
- JIS B 8433-1(産業用ロボット 安全要求事項) — ロボットハンドを含むシステムの安全設計
※本ツールは公的基準に基づく参考計算です。医療・法務・税務の判断は最新の告示・規格および専門家の判断に従ってください。
よくある質問(FAQ)
吸着力はどう計算しますか?
真空圧(kPa)×パッド面積(mm²)÷1000 で N です。φ40・−60kPa で1個 75.4N です。
水平吊りと垂直吊りで何が違いますか?
水平は吸着力がそのまま荷重を支え、垂直は摩擦力だけで支えます。垂直は摩擦係数を掛け、安全率も8以上に取ります。
安全率はいくつにすればよいですか?
水平吊り4以上、垂直吊り8以上が目安です。高速搬送や急停止があればさらに1.5〜2倍取ります。
3kg のワークを2個のパッドで持てますか?
既定値の φ40・−60kPa なら水平で3.84kg まで持てるので可能です。垂直では0.96kg までなので不可です。
必要なパッド径はどう逆算しますか?
ワーク質量×9.80665×安全率÷パッド数で1個の必要力を出し、真空圧で割った面積から直径を求めます。
真空圧はどのくらいで計算しますか?
実機ではリークで下がるため、−60kPa 前後で計算し、真空スイッチで到達を確認するのが一般的です。
摩擦係数はどのくらいですか?
乾燥した鋼板やガラスで0.5前後、油付き鋼板で0.1〜0.2 です。垂直吊りでは摩擦係数が直接効きます。
パッドを増やすのと大きくするのはどちらがよいですか?
吸着力は径の二乗で増えますが、平面部の大きさとリップの追従性に限界があります。重心を囲むように複数配置する方が安定します。
多孔質のワークはどうしますか?
真空圧が上がらないことがあります。大流量エジェクタや真空ポンプ、柔らかいリップのパッドを検討し、実測で確認します。