電気分解 質量計算ツール|ファラデーの法則で析出量・電気量・所要時間を相互計算
電気分解における金属析出量・ガス発生量を、電流(A)・通電時間(s)・原子量・イオン価数から即算出。ファラデー定数F = 96,485 C/molを用いたファラデーの電気分解の法則に基づき、銅めっき・アルミニウム精錬(ホール・エルー法)・水電解による水素製造・NaOH電解製造・電解精錬の実務値まで対応。国際単位系(SI)2019年改定の定義に準拠。
電気分解 計算機
ファラデーの法則と計算式
ファラデーの電気分解の第一法則
「電気分解によって電極で析出する物質の質量は、通じた電気量に比例する」
電気量 Q = 電流 I × 時間 t (C クーロン)
電子のモル数 = Q ÷ F (F = 96,485 C/mol)
ファラデーの第二法則
「同じ電気量で析出する物質の質量は、その物質の化学当量(原子量/価数)に比例する」
析出物のモル数 = Q ÷ (n × F)
析出質量 w = (Q × M) ÷ (n × F) = (I × t × M) ÷ (n × F) (g)
変数の意味
- Q:電気量(クーロン、C)
- I:電流(アンペア、A)
- t:通電時間(秒、s)
- M:原子量または式量(g/mol)
- n:反応で移動する電子数(イオンの価数)
- F:ファラデー定数 = 96,485 C/mol(≒96,500 C/mol)
実務での電流効率補正
実際の析出質量 = 理論質量 × 電流効率(η)
電流効率は工業実務で85〜99%の範囲。副反応(水素発生・酸化物形成等)により100%にならず、めっき浴・電解液の管理指標です。
ファラデー定数の意味
ファラデー定数 F = 96,485.33212... C/mol(2019年SI改定後の厳密値)は、電子1モル(6.022×10²³ 個)が持つ電気量です。
F = NA × e = 6.022×10²³ × 1.602×10⁻¹⁹ C = 96,485 C/mol
ここで NA はアボガドロ定数、e は素電荷。国際単位系(SI)の2019年5月改定でアボガドロ定数と素電荷が定義値として固定され、ファラデー定数も厳密値になりました。工学・化学の実務・入試ではF = 96,500 C/molと近似することが多いですが、精密測定では96,485.33212 C/molを使用します。
ファラデー定数を用いた「電子1モル」の実感
1Aの電流を1時間流すと電気量Q = 3,600C、これは電子3,600/96,485 = 約0.0373 mol(2.24×10²² 個)に相当します。銅めっき(Cu²⁺, n=2)なら 0.0373/2 × 63.5 = 1.19 gの銅が析出。この直感を掴めば実務判断がスムーズです。
主要金属・ガスの計算表(1Ah = 1時間 1A通電時の析出量)
電流1Aで1時間(3600秒)通電した場合の理論析出量。実務では電流効率をこれに乗じます。
| 物質 | 原子量M | 価数n | 1Ahあたり質量 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 銅 Cu (硫酸浴) | 63.5 | 2 | 1.185 g | 電解精錬・銅めっき |
| 銀 Ag (シアン浴) | 107.9 | 1 | 4.026 g | 装飾めっき |
| 金 Au (シアン浴) | 197.0 | 3 | 2.451 g | 装飾・電子端子 |
| アルミニウム Al | 27.0 | 3 | 0.336 g | ホール・エルー法(氷晶石融解) |
| 亜鉛 Zn (硫酸浴) | 65.4 | 2 | 1.220 g | 亜鉛めっき・防錆 |
| ニッケル Ni | 58.7 | 2 | 1.095 g | ワット浴・装飾めっき |
| クロム Cr (硬質) | 52.0 | 6 | 0.323 g | 硬質クロムめっき |
| 鉛 Pb | 207.2 | 2 | 3.866 g | 鉛蓄電池関連 |
| スズ Sn | 118.7 | 2 | 2.215 g | ブリキ・はんだ |
| 水素 H₂ (発生) | 2.016 | 2 | 0.0376 g (=418 mL@STP) | 水電解 |
| 酸素 O₂ (発生) | 32.0 | 4 | 0.298 g (=209 mL@STP) | 水電解 |
| 塩素 Cl₂ (発生) | 71.0 | 2 | 1.324 g | NaCl電解・食塩電解 |
電流効率と実務ポイント
ファラデーの法則は「理想値」を与えます。実際の電気分解では、副反応・電極反応の不完全性により電流効率(η)が100%にならず、以下の値が業界目安。
| 電解プロセス | 電流効率 | 主な副反応 |
|---|---|---|
| 銅電解精錬(硫酸浴) | 95〜98% | 不純物金属の共析 |
| 亜鉛めっき(硫酸浴) | 85〜95% | 水素発生 |
| ニッケルめっき(ワット浴) | 93〜97% | 水素発生 |
| 硬質クロムめっき | 10〜25%(非常に低い) | 水素発生・クロム酸還元 |
| アルミニウム精錬(ホール・エルー) | 85〜95% | 副生成物・炭素電極消耗 |
| 水電解(アルカリ) | 60〜80% | 過電圧・熱損失 |
| 水電解(PEM 固体高分子) | 80〜95% | 過電圧 |
| 食塩電解(イオン交換膜法) | 93〜97% | 酸素発生 |
硬質クロムめっきは電流効率が10〜25%と極めて低く、めっき膜1μm堆積に大量の電力を要します。近年は環境負荷の高い6価クロムから3価クロム・PVD代替への転換が進んでいます。
工業応用
銅電解精錬
粗銅を陽極、純銅板を陰極、硫酸銅水溶液を電解液として、99.99%純銅(電気銅)を得る。日本の主要な非鉄精錬プロセス。JX金属・住友金属鉱山・パンパシフィックカッパー等が国内3位の電気銅生産量を持つ。ファラデー計算で1日あたり生産可能量を予測。
アルミニウム精錬(ホール・エルー法)
氷晶石(Na₃AlFe6)にアルミナ(Al₂O₃)を溶解し、約960℃の融解塩を電気分解。アルミ1トンあたり約13,000〜15,000 kWhの電力が必要で、「電気の缶詰」と呼ばれる。ファラデー計算では理論値2,980 kWh/tだが、実務効率85%と過電圧で実測が高くなる。
グリーン水素製造(水電解)
再生可能エネ電力で水を電気分解し水素を製造。PEM電解では1kg H₂に約50〜55 kWh。ファラデー計算での理論値は39.4 kWh/kg。効率75〜85%が現行水準。カーボンニュートラル戦略の中核技術。
電気めっき(装飾・防錆)
ニッケル・クロム・亜鉛・銅・金・銀めっきで自動車部品、家電、電子基板、装飾品を処理。膜厚制御にファラデー計算が必要で、実装工場では電流・時間の管理でμm単位のめっき厚を得る。
食塩電解(NaOH・Cl₂製造)
塩化ナトリウム水溶液を電気分解し、水酸化ナトリウム・塩素ガス・水素を同時製造。イオン交換膜法が主流で、日本のソーダ工業の基幹プロセス。年間NaOH生産量約380万トン。
電池・充電
リチウムイオン電池の充放電、鉛蓄電池の充電も内部反応はファラデーの法則に従う。EV車の電池容量はAh(アンペア時)で表現され、走行距離予測に必須の指標。
大学入試・共通テスト対策
電気分解は高校化学・大学入試の頻出テーマ。以下のポイントを押さえておくと本番で得点しやすいです。
典型計算パターン
- 電流I(A)・時間t(s)から電気量Q = I × tを求める
- Q ÷ F で電子のモル数を求める(F = 96,500 C/mol近似)
- イオン価数nで割って析出物のモル数を求める
- モル数 × 原子量Mで析出質量を求める
例題:CuSO₄水溶液を1.93Aで500秒間電気分解した際の銅析出量は?
Q = 1.93 × 500 = 965 C
電子mol = 965 ÷ 96,500 = 0.010 mol
Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu なので、Cuは電子の1/2 = 0.005 mol
銅の質量 = 0.005 × 63.5 = 0.3175 g
実際の入試では「陰極でCu、陽極で酸素が発生」など複数電極の同時反応を扱う出題も。両電極の電気量は等しいことを利用します。
例題2:水電解による水素製造の基礎計算
PEM水電解セルを5.00Aで1時間駆動した場合の水素発生量:
Q = 5.00 × 3600 = 18,000 C
電子mol = 18,000 ÷ 96,485 = 0.1866 mol
2H⁺ + 2e⁻ → H₂ なので水素は電子の1/2 = 0.0933 mol
水素の質量 = 0.0933 × 2.016 = 約0.188 g
標準状態(0℃・1気圧)での体積 = 0.0933 × 22.4 = 2.09 L
実務では電流効率(PEMで80〜95%)を掛けた値が実測値となります。
例題3:複数電解槽の直列接続
硫酸銅水溶液(A)と硝酸銀水溶液(B)を直列につなぎ、Aで銅0.635 g析出したとき、Bで析出する銀の質量は?
直列なので両電解槽の電気量は等しい。
Aでの銅のmol = 0.635 ÷ 63.5 = 0.010 mol
Cu²⁺+2e⁻→Cuなので電子mol = 0.020 mol、電気量 = 0.020 × 96,485 = 1,929.7 C
Bでは Ag⁺+e⁻→Ag なので銀のmol = 電子mol = 0.020 mol
銀の質量 = 0.020 × 107.9 = 2.158 g
よくある間違い・注意点
- 電流効率を100%と仮定する — 理論計算は上限値。実務では85〜95%が一般的。硬質クロムでは20%前後まで下がります。設計時に効率を掛け忘れると、実際の製品重量・膜厚が理論値より大幅に少なくなります。
- 時間の単位ミス(秒/分/時間) — Q = I × tの時間tは秒(s)を使うのが基本。分・時間で計算すると60倍・3600倍のズレが出ます。1時間なら3,600秒。
- 価数n(電子数)の誤り — Cu²⁺なら2、Al³⁺なら3、Ag⁺なら1。「原子価」ではなく「その反応で電子が何個移動するか」で判断。例:Cr³⁺→Crなら3、Cr⁶⁺→Crなら6。
- ファラデー定数の桁ミス — F = 96,485 C/mol。実務では96,500と近似することが多い。9,648とか964,850など桁を間違えるとオーダーが変わります。
- 陽極と陰極を混同 — 電気分解では陰極(カソード)で金属が析出、陽極(アノード)で酸化(気体発生・電極溶解)。銅精錬では陽極も溶けて陰極に移動、その電気量は等しい。
- ガス発生量を体積で答えない — 水素・酸素発生の入試計算では標準状態(STP: 0℃・1気圧)での体積(mol × 22.4 L)まで求める設問が多い。質量だけでなく体積答案を用意。
- 複数電極の並列/直列を混同 — 並列回路では電流が分岐、直列回路では同じ電流が全電解槽を流れる。工業設備で複数電解槽の稼働時、電気量計算に注意が必要です。
関連する法則・定数
- ファラデーの電気分解の第一法則 ― 析出質量は電気量に比例。イギリスの科学者マイケル・ファラデーが1834年に発表。
- ファラデーの電気分解の第二法則 ― 同じ電気量で析出する質量は化学当量に比例。ファラデー定数導出の基礎。
- SI基本単位系(2019年改定) ― 素電荷e = 1.602176634×10⁻¹⁹ C、アボガドロ定数NA = 6.02214076×10²³ /molが定義値化。これによりF = 96,485.33212... C/molが厳密値化。
- ネルンストの式 ― 電極電位と溶液濃度の関係。標準電極電位の温度・濃度補正で使用。
- タフェル式 ― 電流密度と過電圧の関係。実務効率を予測するツール。
- JIS H 8501 ― めっきの厚さ試験方法。ファラデー計算からの理論厚と実測厚を比較する場合の規格。
- JIS H 8617 ― ニッケルめっき及びニッケル-クロムめっき。実務規格。
参考文献・公的資料
- 産業技術総合研究所 計量標準総合センター(NMIJ) ― SI単位系の日本国家標準を管理。ファラデー定数・アボガドロ定数の定義値情報。
- 国際度量衡局(BIPM) SI定義定数 ― 2019年改定のSI基本7定数の公式定義値。
- NIST(米国国立標準技術研究所) 物理定数データベース ― CODATA最新値によるファラデー定数・素電荷等の物理定数。
- IUPAC(国際純正・応用化学連合) ― 電気化学の国際命名・表記法・定義の一次資料。
- 日本化学会 化学便覧 ― 化学定数・電気化学データの標準的な引用元。
- 電気化学会 ― 電気化学分野の学術団体。技術情報・研究発表。
- 日本産業標準調査会(JISC) ― JIS H 8501等めっき関連規格の公式索引。
- 経済産業省 水素・アンモニア政策 ― 水電解水素製造の政策文書。効率目標値。
- 環境省 ― 電気化学関連の環境政策(排水・廃液)。
よくある質問(FAQ)
ファラデー定数はなぜ96,485なの?
ファラデー定数F = 96,485.33212 C/molは、電子1モル(6.022×10²³個)が持つ電気量です。F = NA × e = 6.022×10²³ × 1.602×10⁻¹⁹ Cで計算されます。2019年のSI改定で素電荷eとアボガドロ定数NAが定義値化されたため、Fも厳密な値となりました。入試や実務では96,500 C/molと近似することが多いです。
電気分解でどれだけの物質が得られるか計算するには?
ファラデーの法則を使います。析出質量 w = I × t × M / (n × F)。ここでI=電流(A)、t=時間(s)、M=原子量、n=価数、F=96,485 C/mol。例えば10Aで1時間(3600s)銅を電解すると、10×3600×63.5/(2×96,485) = 11.85g析出します。
電流効率とは何?
ファラデー計算(理論値)に対する実際の析出質量の比率です。副反応(水素発生等)により100%未満になり、銅精錬で95〜98%、亜鉛めっきで85〜95%、硬質クロムでは10〜25%と大きく異なります。工程管理の重要指標で、電解液組成・温度・攪拌で改善します。
陽極と陰極でどちらに金属が析出する?
陰極(カソード)で金属が析出します。金属イオン(Cu²⁺等)が電子を受け取って還元されるため。陽極(アノード)では酸化反応(気体発生や電極自身の溶解)が起こります。銅電解精錬では両電極が銅で、陽極から溶けた銅が陰極で純度99.99%として析出します。
水電解で水素はどれくらい発生する?
2H₂O + 2e⁻ → H₂ + 2OH⁻ の反応で、電子2モルあたりH₂ 1モル発生。1A×1時間の電気量3,600Cでは、電子3,600/96,485=0.0373mol、H₂は0.0187mol = 約0.038 g = 標準状態で418 mL発生します。実務ではPEM水電解効率75〜85%を掛けます。
硬質クロムめっきの電流効率が低いのはなぜ?
クロム酸(CrO₃)からCrへの還元は6電子を要する上、電解液中で水素発生・クロム酸への逆酸化などの副反応が競合するため、電流効率が10〜25%と極めて低くなります。膜厚1μmを得るのに必要な電気量が多く、電力消費・処理時間が長いプロセスです。
アルミニウムはなぜ電気で作る?
アルミニウムは電気陰性度が高くイオン化傾向が大きいため、酸化アルミニウム(Al₂O₃)を炭素還元では作れません。ホール・エルー法で氷晶石(Na₃AlF₆)に溶解して融解塩電気分解(約960℃、Al³⁺+3e⁻→Al)により製造します。1トンのアルミ製造に13,000〜15,000kWhの電力が必要で「電気の缶詰」と呼ばれます。
入試問題のよくある形式は?
「A液(硫酸銅)とB液(水酸化ナトリウム)を直列に電気分解した際の各電極の変化と、Cu析出量からNaOH中の陽極で発生する酸素の体積を求めよ」等の複数電解槽の連鎖問題が頻出。同じ電気量が全部の電解槽を通ることを利用し、Q値から各電極の反応量を計算します。
1Ahって何?
1Ah(アンペア時)=1Aの電流を1時間流した電気量=3,600C(クーロン)。電池の容量表記でも使われ、モバイルバッテリー10Ahなら36,000Cの電気量を蓄えていることになります。EV車の電池は50〜100kWhで、これも内部反応でファラデーの法則が成立します。
電気分解と一次電池の違いは?
電気分解は外部電源で電気エネルギーを化学エネルギーに変換(強制反応)、一次電池・二次電池は自発的な酸化還元反応から電気エネルギーを取り出す(発電)。方向が逆ですが、いずれもファラデーの法則に従い電気量と反応量の関係が成立します。
複数電解槽を直列につないだ場合、電気量は?
直列接続では全ての電解槽に同じ電流が流れるため、通電時間が同じなら全電解槽で同じ電気量になります。工業設備では複数電解槽を直列にした「バンク運転」で電力効率を高めています。並列接続では各槽への電流が分岐し電気量が異なる点に注意。
グリーン水素の製造コストは?
PEM水電解で電力代を主とし、水素1kgあたり50〜55kWh必要。電力単価20円/kWhとすると1,000〜1,100円/kgが電力コスト。設備償却・保守を含めると1,500〜3,000円/kg。日本政府は2030年までに330円/kg、2050年に220円/kgを目標としています(水素基本戦略)。