プルアップ抵抗値の選定計算
電源電圧・通信速度・バスの静電容量から、プルアップ抵抗の上限と下限、推奨値と立ち上がり時間を算出します。
プルアップ抵抗値の選定計算ツール
バスの総容量は基板の容量+デバイス数×10pF+配線長×0.8pF/cmで、既定値では200+40+24=264pFです。400kHzでの立ち上がり時間の上限は300nsなので、抵抗値の最大値は300ns÷(0.8473×264pF)=1.34kΩ。最小値は(3.3V−0.4V)÷3mA=0.97kΩとなります。両者の相乗平均1.14kΩに近いE12系列の値として1.20kΩを選ぶと、立ち上がり時間は268ns、流れる電流は2.75mAです。
通信速度と立ち上がり時間の上限
| 速度 | 立ち上がり時間の上限 | 264pF時の抵抗上限 |
|---|---|---|
| 100kHz以下 | 1000ns | 約4.5kΩ |
| 400kHzまで | 300ns | 約1.3kΩ |
| 1MHzまで | 120ns | 約0.54kΩ |
| 配線が長い場合 | 同上 | 容量増でさらに低下 |
よく使われる抵抗値と用途
| 抵抗値 | 向く条件 | 消費電流(3.3V) |
|---|---|---|
| 10kΩ | 低速・省電力・短い配線 | 0.33mA |
| 4.7kΩ | 100kHzの標準的な構成 | 0.70mA |
| 2.2kΩ | 400kHzで容量が中程度 | 1.50mA |
| 1.0kΩ | 高速・多デバイス・長い配線 | 3.30mA |
※参考計算です。機材の仕様・規格・法令は改定されるため、実機の仕様書と最新の告示を確認してください。
プルアップ抵抗値の選定計算の詳しい解説
プルアップ抵抗の値に幅があるのは、上限と下限を決める条件がまったく別だからです。上限はバスの容量と抵抗で決まる充電の時間から来ます。信号が低い状態から高い状態へ戻るとき、抵抗を通してしか電流が流れないため、抵抗が大きいほど波形の立ち上がりが鈍り、規定の時間に間に合わなくなります。下限は出力側が引き込める電流の限界で、抵抗が小さすぎると低い状態の電圧を規定値まで下げられません。
判断が分かれるのは、この範囲のどこを選ぶかです。省電力を優先するなら上限寄り、波形の余裕を優先するなら下限寄りになります。相乗平均をとって中央に置く方法は無難ですが、実際には基板が完成してから容量が想定より大きいと分かることが多く、余裕を見て小さめを選ぶ設計者も少なくありません。試作段階では抵抗を交換できるようにしておくと、波形を見て決められます。
見落とされやすいのが容量の見積もりです。デバイス1個あたりの入力容量は数pFから10pF程度ですが、基板の配線パターン、コネクタ、引き回しの線材がそれぞれ容量を持ちます。数十cmのケーブルで引き回すと配線だけで数十pFになり、上限が半分近くまで下がることもあります。分岐が多い配線ほど容量は増えるため、幹線から短く引き出す配置のほうが有利です。
条件による違いもあります。電源電圧が高いほど同じ抵抗でも流れる電流が増え、下限は上がります。複数の基板にそれぞれプルアップが付いていると並列になって合成値が下がり、意図せず下限を割ることがあります。長い配線や電気的に汚い環境ではバッファや専用の中継回路を挟むほうが確実で、抵抗値の調整だけで解決しようとすると動作が不安定なまま残ります。
試作から量産へ移る段階で見直しが必要になることもあります。試作基板と量産基板では配線長やコネクタの構成が変わり、容量が増減するためです。部品を減らしたいという要求から抵抗をまとめる提案が出ることもありますが、線ごとに条件が異なるなら分けたほうが安定します。波形を実測して低い状態の電圧と立ち上がりの時間を両方確認しておくと、後の不具合の切り分けが楽になります。
業界・現場での使い方
基板設計の定数決め
接続予定のデバイス数と配線長から容量を見積もり、抵抗値の範囲を決めます。
通信不良の切り分け
波形が鈍る症状に対し、容量と抵抗の関係から原因を数値で確認します。
センサモジュールの増設
デバイスを追加したときに上限がどこまで下がるかを試算します。
教育・実習
立ち上がり時間と抵抗・容量の関係を、実測波形と対比して説明します。
よくある間違い・注意点
- 定番の値をそのまま使う — 配線が長い構成では容量が増え、上限を超えて波形が鈍ります。
- 配線の容量を数えない — 数十cmの引き回しだけで数十pFになり、上限が大きく下がります。
- 複数基板のプルアップを重ねる — 並列になって合成値が下がり、下限を割って消費電流が増えます。
- 電源電圧を変えたのに抵抗を見直さない — 電圧が上がると同じ抵抗でも電流が増え、下限の条件が変わります。
- 抵抗値の調整だけで長距離を通そうとする — 数メートルを超える配線では中継回路を挟むほうが確実です。
関連する規格・公的資料
- 日本産業標準調査会 (JISC) — JIS規格
- 電子情報技術産業協会 (JEITA) — 電子部品・機器
- 日本電機工業会 (JEMA) — 電気機器
- 電気学会 — 電気工学
- 日本機械学会 — 機械工学
- 日本電気協会 — 電気設備の技術基準
- 産業技術総合研究所 — 計量標準
- 製品評価技術基盤機構 (NITE) — 製品安全
- 経済産業省 — 電気用品・産業政策
- 日本ロボット工業会 — 産業用ロボット
※本ツールは公的基準に基づく参考計算です。医療・法務・税務の判断は最新の告示・規格および専門家の判断に従ってください。
よくある質問(FAQ)
3.3V・400kHz・264pFでは何kΩが適切ですか?
上限1.34kΩ、下限0.97kΩの範囲となり、E12系列では1.20kΩが推奨値です。
抵抗値の上限は何で決まりますか?
バスの容量との積で決まる立ち上がり時間です。規定の時間に間に合う範囲が上限になります。
下限は何で決まりますか?
出力側が引き込める電流です。抵抗が小さすぎると低い状態の電圧を規定値まで下げられません。
バスの容量はどう見積もりますか?
デバイス1個あたり10pF程度、配線は1cmあたり0.8pF程度を目安に積み上げます。
デバイスを増やすとどうなりますか?
容量が増えて上限が下がります。個数が多い構成では抵抗を小さめに選び直します。
速度を上げるには抵抗を小さくすればよいですか?
立ち上がりは速くなりますが消費電流が増え、下限を割ると低い状態の電圧が保てません。
片方の線だけ抵抗を変えてもよいですか?
通常は同じ値に揃えます。容量が大きく異なる場合に限り、個別に調整することがあります。
内蔵のプルアップは使えますか?
数十kΩと大きいことが多く、高速や多デバイスの構成では外付けが必要になります。