QALY・DALY計算ツール|医療経済評価の質調整生存年・障害調整生存年を即算出
QALY(質調整生存年)とDALY(障害調整生存年)を、生存年数・QOL値・障害重み・YLL/YLDから瞬時に計算。医療技術評価(HTA)の費用対効果比較、ICER(増分費用効果比)算定、日本の500万円/QALY閾値、EQ-5D-5L・SF-6D等の効用値尺度、WHO GBD Study・IHME Global Burden of Disease、日本の費用対効果評価制度(C2H)まで、医療経済学者・保険者・製薬企業・厚生行政・臨床研究者の実務向けに解説します。
QALY・DALY 計算機
計算式と定義
QALY(Quality-Adjusted Life Year)
QALY = 生存年数 × QOL値(効用値、0〜1)
QALYは生存期間の「量」と「質」を統合した健康指標です。1年間を完全健康(QOL=1.0)で生存すれば1 QALY、10年間をQOL 0.7で生存すれば7 QALY。医療技術評価(HTA)の国際標準指標で、新薬承認・保険適用判断・治療戦略選択の根拠となります。
DALY(Disability-Adjusted Life Year)
DALY = YLL(早死損失年) + YLD(障害生存年)
YLL = 死亡年齢の平均余命との差 × 死亡人数
YLD = 罹病期間 × 障害重み(Disability Weight, 0〜1)
DALYはWHOが1990年代に開発した疾病負荷指標。QALYが「獲得健康年」を測るのに対し、DALYは「失われた健康年」を測ります。値が大きいほど疾病負荷が大きいことを意味し、WHO Global Burden of Disease Study(GBD)で世界の疾病負荷比較に使用されます。
ICER(Incremental Cost-Effectiveness Ratio)
ICER = 追加費用 ÷ 追加QALY
新技術Aと従来技術Bを比較するとき、A導入で追加される費用を追加獲得QALYで割った値。1 QALY獲得のためのコスト効率を示す指標で、費用対効果閾値との比較で新技術の採用可否を判断します。
QALYとDALYの違い
両者はいずれも健康アウトカムを定量化する指標ですが、視点と用途が異なります。
| 項目 | QALY | DALY |
|---|---|---|
| 視点 | 獲得(プラス) | 損失(マイナス) |
| 単位方向 | 大きいほど良い | 小さいほど良い |
| QOL/障害重み | 0(死亡)〜1(完全健康) | 1(死亡相当)〜0(無障害) |
| 主な用途 | HTA・新薬評価・保険適用 | 疾病負荷・公衆衛生・国際比較 |
| 開発機関 | 米国・英国NICE・カナダ・豪州 | WHO・IHME・世界銀行 |
| 基準人口 | 個人・患者集団 | 国・地域・世界人口 |
| 年齢重み | 通常なし(等価) | 過去に採用、現行GBD 2010以降廃止 |
| 時間割引 | 3%割引(日本・英国) | 3%割引(従来)、GBD 2010以降なし |
実務ではQALYが医療技術評価(HTA)の主指標、DALYが公衆衛生・国際疾病負荷比較の主指標として使い分けられています。
QOL値(効用値)の目安
各健康状態のQOL値(効用値、Utility)の代表例を示します。日本国内では厚生労働省「医療経済評価分析ガイドライン」でEQ-5D-5L日本版効用値の使用が推奨されています。
| 健康状態 | QOL値(EQ-5D) | 備考 |
|---|---|---|
| 完全健康 | 1.000 | QALYの上限 |
| 軽度慢性疾患(高血圧治療中) | 0.90〜0.95 | 症状ほぼなし |
| 糖尿病(合併症なし・血糖良好) | 0.85〜0.90 | ADL自立 |
| 糖尿病(網膜症・腎症進行) | 0.65〜0.75 | 合併症の負担大 |
| 脳卒中軽度後遺症 | 0.60〜0.70 | ADL部分介助 |
| がん治療中(化学療法) | 0.50〜0.65 | QOL大幅低下 |
| 関節リウマチ活動期 | 0.55〜0.70 | 疼痛・関節機能低下 |
| 末期心不全(NYHA IV) | 0.30〜0.50 | 症状重度 |
| 植物状態 | 0.10〜0.20 | 意識・ADL全介助 |
| 死亡 | 0.000 | QALYの下限 |
| 死亡より悪い状態 | 負値も可 | 末期激痛・意識ありの拘束状態等 |
効用値測定尺度(EQ-5D等)
患者から効用値を測定する標準化質問票(Preference-Based Measure, PBM)には以下があります。
| 尺度 | 特徴 | 採用国 |
|---|---|---|
| EQ-5D-5L | 5項目5段階、簡便で汎用性高い。日本版値集あり | 日本・英国NICE・多くの国 |
| EQ-5D-3L | 5項目3段階、旧版。日本版値集あり | 日本・多国 |
| SF-6D | SF-36から派生、6項目 | 英国・米国 |
| HUI3(Health Utilities Index Mark 3) | 8項目、認知機能を含む | カナダ |
| AQoL | 豪州開発、15項目 | 豪州 |
| 15D | 15項目、フィンランド開発 | 北欧 |
| 疾患特異的QOL尺度 | 特定疾患用(例:がんEORTC QLQ-C30) | 研究用途 |
日本国内では厚生労働省が2019年より運用する「費用対効果評価制度」で、原則EQ-5D-5L日本版値集の使用が推奨されています。
ICERと閾値(500万円/QALY)
新技術の費用対効果は、ICERを閾値と比較して判定します。日本・海外の主要閾値は以下の通りです。
| 国・機関 | 閾値 | 備考 |
|---|---|---|
| 日本(厚生労働省C2H) | 500万円/QALY | 標準閾値。抗がん剤等は750万〜1,000万円 |
| 英国(NICE) | 20,000〜30,000ポンド/QALY | 約380〜570万円(1£=190円換算) |
| 米国(ICER-Review) | 50,000〜150,000ドル/QALY | 約700万〜2,100万円(1$=140円換算) |
| カナダ(CADTH) | 50,000カナダドル/QALY | 約540万円 |
| 豪州(PBAC) | 公式閾値なし | 実務的に50,000豪ドル/QALY程度 |
| WHO推奨(発展途上国用) | GDP/人×1〜3倍 | 日本適用なら約450万〜1,350万円 |
ICER<閾値の場合「費用対効果良好」、閾値の1〜1.5倍で「条件付き」、1.5倍超で「費用対効果不良」と判定されます。日本では小児疾患・希少疾患・アンメットニーズの高い領域では閾値が緩和されます。
日本の費用対効果評価制度(C2H)
日本では2019年4月から、中央社会保険医療協議会(中医協)が新規収載医薬品・医療機器を対象に費用対効果評価制度を運用しています。
制度の概要
- 対象: 市場規模350億円以上または類似薬から著しく高い薬価となる新薬・新医療機器
- 評価主体: 国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センター(C2H)
- 閾値: 500万円/QALYが標準、抗がん剤・小児疾患・希少疾患は750万〜1,000万円
- 結果適用: ICERが閾値超なら価格調整(最大15〜30%引き下げ)
評価プロセス
- 新薬承認・保険収載
- 企業がC2Hに費用対効果分析報告書を提出
- C2Hが専門家パネルによる公的分析を実施
- 中医協で価格調整の要否を審議
- 調整後薬価の告示
これまでオプジーボ・キムリア・ゾルゲンスマ等の高額薬剤が評価対象となり、一部で価格引き下げが実施されています。
業界での応用
💊 製薬企業・医療機器メーカー
新薬・新医療機器の開発戦略にHTA視点を組込む。臨床試験段階からQOL評価(EQ-5D-5L)を組込み、市販後の費用対効果分析に備える。C2H提出用の分析報告書、モデル分析(マルコフモデル・部分生存モデル)作成を医療経済学者・コンサル会社に委託。
🏥 医療経済学者・研究者
大学・研究機関で臨床研究データとQOLデータを結合したモデル分析を実施。日本医療経済学会(JHEA)・国際医薬経済アウトカム研究学会(ISPOR)等で成果を発表。厚労科研費・AMED研究費の重要テーマ。
🏛️ 厚生労働省・中医協・C2H
費用対効果評価制度の運営、価格調整判断、ガイドラインの改訂。国立保健医療科学院C2Hが公的分析を担当、専門家パネル・企業対応・国際比較まで一元管理。
🏢 保険者・健康保険組合
特定健診・疾病予防プログラム・データヘルス計画の費用対効果評価にQALYを活用。生活習慣病対策・糖尿病重症化予防・禁煙支援などの介入効果を測定し、予算配分の根拠に。
🌏 WHO・国際保健機関
DALYを用いてGlobal Burden of Disease(GBD)を測定。世界の疾病負荷ランキング、SDGs健康指標、UHC達成度評価、途上国支援優先度決定に活用。IHME(保健指標評価研究所)がデータ収集・公開。
🩺 臨床医・治療戦略決定
治療選択肢の患者説明にQALY指標を活用。手術と保存療法、化学療法と緩和ケア等の比較で「延命年数だけでなくQOLも含めた総合的な生存年」を提示。ACP(Advance Care Planning)にも応用。
よくある間違い・注意点
- QOL値の主観的推定 — 効用値は標準化尺度(EQ-5D-5L等)で患者本人から測定する必要があります。医師や研究者の主観推定では信頼性が低く、C2H提出資料として不十分。
- QALY値だけで治療選択を判断 — QALYは有力指標ですが、倫理的配慮(患者意思・尊厳・公平性)、社会的価値、疾患特性(希少疾患・小児疾患)等の要素も併せて判断すべき。
- 時間割引の未適用 — 将来の健康アウトカムは通常3%(日本・英国)で割引します。10年後のQALYは現在価値で0.744倍。割引未適用で長期治療効果を過大評価。
- 費用の範囲設定ミス — 分析視点(社会的視点・公的支払者視点)で費用範囲が変わる。日本C2Hは公的医療費のみ、社会視点なら生産性損失も含む。
- 間接効果・第三者効果の無視 — 患者本人以外への影響(家族介護負担、感染症の集団免疫、公衆衛生効果)を含めない狭い分析では、社会全体の便益を過小評価。
- 効用値尺度の不統一 — 一つの分析でEQ-5D-5LとSF-6Dを混在させると比較不能。国別の値集も異なるため、対象国のvalue setを使用する。
- DALY年齢重み・時間割引の旧新混在 — DALY計算はGBD 2010以降で年齢重み廃止・時間割引0%が国際標準。2010年以前の値と直接比較不可。
関連する規格・ガイドライン
- 中央社会保険医療協議会「医薬品・医療機器等の費用対効果評価に関するガイドライン」 ― 日本のHTA公式ガイドライン。分析視点・時間割引率・費用範囲・アウトカム指標を規定。
- NICE Guide to the methods of technology appraisal(英国) ― 世界的に参照される英国NICEの評価方法論。ICER閾値、QOL測定、モデル分析の標準。
- ISPOR Good Practices Task Force Reports ― 国際医薬経済アウトカム研究学会の実務ガイド。モデル分析・不確実性分析・報告様式の国際標準。
- CHEERS 2022(Consolidated Health Economic Evaluation Reporting Standards) ― 医療経済評価論文の報告基準チェックリスト。査読誌投稿の必須要件。
- WHO CHOICE(CHOosing Interventions that are Cost-Effective) ― WHOによる公衆衛生介入の費用対効果評価プロジェクト。DALY・QALYベースの国際比較。
- GBD Study Methodology(IHME) ― Global Burden of Diseaseの計算方法論。DALY・YLL・YLDの標準算定法。
- EuroQol Group EQ-5D User Guide ― EQ-5D-5L・EQ-5D-3L公式ユーザーガイド。日本語版値集の公式配布元。
参考文献・公的資料
より詳細な分析方法や最新の閾値情報は、以下の公的機関・専門機関の一次資料を参照してください。
- 厚生労働省 費用対効果評価制度 ― 日本の費用対効果評価制度の公式情報。中医協答申、対象品目、価格調整結果を公開。
- 国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センター(C2H) ― 日本のHTA公的分析機関。ガイドライン、分析報告書、教育資料を公開。
- 国立保健医療科学院 ― 厚生労働省所管の研究・研修機関。C2Hの母体組織。
- 英国 NICE Guide to the methods of technology appraisal ― 世界的に参照される英国国立医療技術評価機構のHTA方法論。QALY・ICER計算の国際基準。
- WHO Global Burden of Disease ― WHOによる世界疾病負荷データ。DALYベースの国別・疾病別統計。
- IHME(Institute for Health Metrics and Evaluation) ― GBD Studyを実施する米国研究機関。無料で世界のDALYデータを提供。
- EuroQol Group(EQ-5D公式サイト) ― EQ-5D-5L・EQ-5D-3L効用値尺度の公式配布元。日本版値集(Shiroiwa et al.)もここから入手。
- ISPOR(国際医薬経済アウトカム研究学会) ― 医療経済評価の世界最大学会。Good Practices Reports、CHEERS基準の発行元。
- 日本医療経済学会(JHEA) ― 国内の医療経済研究学会。学術大会・研究会・教育プログラム。
- AMED(日本医療研究開発機構) ― 医療経済評価関連研究の主要ファンディング機関。研究成果公開。
よくある質問(FAQ)
QALYとDALYの違いは?
QALY(質調整生存年)は「獲得された健康年」をプラス方向で測定、DALY(障害調整生存年)は「失われた健康年」をマイナス方向で測定します。QALYはHTA・新薬評価(英国NICE・日本C2H等)で、DALYは公衆衛生・国際疾病負荷比較(WHO GBD)で主に使われます。両者は視点が反対で数値方向も逆ですが、健康アウトカム定量化という点で相補的な指標です。
10年生存でQOL 0.7のQALYは?
7 QALYです。計算式は「生存年数 × QOL値」で、10 × 0.7 = 7 QALY。ただし将来の年を割引(通常3%)する場合はもう少し小さくなり、10年後のQALYの現在価値は0.744倍で計算し累積すると約6.0 QALY相当となります。日本のC2H分析でも年3%割引が標準です。
日本のICER閾値500万円/QALYの根拠は?
2019年制度開始時に中医協が採択した値で、日本の一人当たり名目GDP(約450万円)を参考に、支払意思額(WTP)調査結果・国際的な閾値との比較を踏まえ設定されました。抗がん剤・小児疾患・希少疾患・感染症等では750万〜1,000万円/QALYへ緩和されることもあります。今後、経済状況・国民意識に応じて見直しが検討されています。
QOL値はどうやって測る?
患者本人に標準化質問票(Preference-Based Measure, PBM)を実施して測定します。日本ではEQ-5D-5L(Shiroiwa et al.日本版値集)が推奨基準。SF-6D、HUI3も研究用途で使用。臨床試験のPRO(患者報告アウトカム)評価、C2H提出用データ収集で必須です。医師・研究者による主観推定は認められません。
ICERの計算例を教えて
新薬Aと従来薬Bを比較。A: 追加費用200万円/患者、追加QALY 0.5獲得の場合、ICER = 200万円 ÷ 0.5 QALY = 400万円/QALY。日本の閾値500万円/QALYを下回るため「費用対効果良好」と判定され、価格調整不要となる可能性が高いです。
費用対効果評価制度(C2H)の対象品目は?
①市場規模350億円以上、②類似薬から著しく高価な新薬・新医療機器、③特に高額な希少疾患薬(オプジーボ、キムリア、ゾルゲンスマ等)が対象です。開始5年で30品目以上が評価され、一部で最大15〜30%の価格引き下げが実施されました。今後対象拡大の可能性があります。
WHO閾値「GDP/人×3倍」の意味は?
WHOが2001年に提示した発展途上国向け閾値の目安。GDP/人×1倍以下なら「非常に費用対効果良好」、1〜3倍で「費用対効果良好」、3倍超で「費用対効果不良」とされます。ただし2016年以降、WHOは単一閾値の使用を推奨しなくなり、各国が独自の閾値設定を促しています。
マルコフモデルとは?
患者の健康状態が時間とともに複数の状態(健康・疾病・死亡等)を確率的に遷移すると仮定した数理モデルです。QALY・DALY計算に頻用され、長期的な治療効果・費用を予測。TreeAge Pro・Excel・R(heemodパッケージ)等で分析実施。ISPOR Good Practices準拠が必要です。
感度分析はなぜ必要?
QALY・費用計算の入力値には不確実性(QOL値の測定誤差、費用推定の幅、割引率設定等)があるため、入力値を変動させたときの結果への影響を確率的感度分析(PSA)・確定的感度分析(DSA)で検証します。ICERの信頼区間・費用対効果受容曲線(CEAC)を提示することが国際標準の報告要件。
QALYで小児疾患・希少疾患が不利になる問題は?
患者数の少ない希少疾患は臨床試験規模が小さく、投資回収期間の観点から製剤価格が高くなりがち。単純にQALY×閾値で判断すると採用不可となり、患者アクセスが阻害される問題があります。日本C2Hでは希少疾患・小児疾患・アンメットニーズ疾患には閾値を緩和(750万〜1,000万円/QALY)、公平性・倫理性を配慮した運用がされています。
DALYはどこで見られる?
IHME(Institute for Health Metrics and Evaluation)のGBD Compareで無料公開されています。国別・疾病別・年別のDALY・YLL・YLD・死亡数がインタラクティブに閲覧可能。学術論文・行政資料・ジャーナリズムで頻繁に参照される信頼性の高いデータソースです。
QALYへの批判と代替指標は?
QALYへの批判として、①QOL測定の主観性、②高齢者・障害者に不利、③公平性の欠如、④集約による情報損失等があります。代替・補完指標として、DALY、健康寿命(HALE)、能力アプローチ(Capability Approach)等が提案されていますが、実務レベルで標準化されているのはQALY・DALYが主流です。単一指標ではなく複数指標による総合評価が推奨されます。