溶接予熱温度
鋼種・板厚・炭素当量・拘束条件から予熱温度と保持時間を算出。高強度鋼・厚板溶接の低温割れ防止、鉄骨・橋梁・圧力容器のWPS(溶接施工要領書)作成に対応します。
建設業労働安全衛生規則・JIS Z 3040・WES 3003準拠の運用ノウハウを収録。溶接技能者・監督技術者・品質保証担当者の実務教育にもご活用ください。
溶接予熱温度ツール
基本式・予熱温度の考え方
予熱温度 T = 基本予熱(鋼種依存) + 補正項(板厚・拘束・湿度)
炭素当量 Ceq = C + Mn/6 + (Cr+Mo+V)/5 + (Ni+Cu)/15 (IIW式)
予熱の主目的は「HAZ(熱影響部)の冷却速度を緩和し、低温割れ(水素誘起割れ)を防止すること」です。鋼種の炭素当量(Ceq)が高いほど焼入れ性が強く、急冷でマルテンサイト変態が起き、拡散性水素と拘束応力が加わると低温割れが発生します。予熱で冷却速度を下げ、水素の拡散離脱時間を確保することで割れリスクを低減します。
WES 3003(高張力鋼溶接施工基準)およびJIS Z 3040(溶接施工方法の確認試験方法)では、鋼種強度・板厚・拘束度から必要予熱温度を求める指針が提示されています。実務ではCE数式による計算予熱と、鋼材メーカーが提供するミルシート上の推奨予熱を照合し、上位値を採用するのが安全側の運用です。
鋼種別 基本予熱温度(板厚別)
| 鋼種 | t≦20mm | t=20〜40mm | t=40〜60mm | t≧60mm |
|---|---|---|---|---|
| SS400 | 不要 | 不要〜50℃ | 50〜80℃ | 80〜100℃ |
| SM490 | 50℃ | 50〜80℃ | 80〜100℃ | 100〜125℃ |
| SN490 | 50〜75℃ | 75〜100℃ | 100〜125℃ | 125〜150℃ |
| HT590 | 75〜100℃ | 100〜125℃ | 125〜150℃ | 150〜175℃ |
| HT690 | 100〜125℃ | 125〜150℃ | 150〜175℃ | 175〜200℃ |
| HT780 | 125〜150℃ | 150〜175℃ | 175〜200℃ | 200〜225℃ |
| HT950 | 150〜175℃ | 175〜200℃ | 200〜225℃ | 要専門判定 |
炭素当量(Ceq)による予熱の目安
| Ceq (IIW式) | 難易度 | 予熱の要否 |
|---|---|---|
| ≦0.35 | 易 | 基本不要(20mm厚以下) |
| 0.35〜0.45 | 中 | 板厚に応じ50〜100℃ |
| 0.45〜0.55 | やや難 | 100〜150℃、パス間管理 |
| 0.55〜0.65 | 難 | 150〜200℃、後熱推奨 |
| ≧0.65 | 非常に難 | 200℃以上・低水素系溶接材料必須・PWHT検討 |
溶接予熱温度の詳しい解説
溶接予熱は、母材および周辺部を溶接前および溶接中に一定温度以上に維持することで、HAZ(熱影響部)の急冷を防ぎ、低温割れ・遅れ割れを抑制する施工技術です。低温割れ(コールドクラック、水素誘起割れ)は、溶接凝固後の200℃以下で発生する脆性的な割れで、①拡散性水素、②マルテンサイト等の硬い組織、③引張応力(拘束応力)の3要素が揃うと生じます。予熱はこのうち①と②を同時に抑制する最も効果的な対策で、100年以上前から実用化されている基本手法です。
鋼種と予熱の関係は炭素当量(Ceq)で整理されます。SS400(Ceq≒0.30)は20mm以下なら予熱不要ですが、SM490(Ceq≒0.42)は20mm厚で50℃、40mm厚で80℃程度の予熱が推奨されます。HT780(Ceq≒0.55前後)になると20mm厚でも125〜150℃、厚板で200℃以上が必要になり、加熱手段も電気ヒーターやガスバーナーによる本格的な設備が必要です。特に高炭素・高合金の機械構造用鋼(S45C・SCM440等)は焼入れ性が非常に高く、通常の構造用鋼と別基準で管理します。
板厚と予熱の関係は、質量効果(mass effect)によって説明されます。厚板ほど溶接部の周囲に大量の低温母材があり、溶接熱が周囲に急速に逃げるため冷却速度が上昇します。同じ入熱量でも、20mm板と50mm板では冷却速度が2倍近く違い、HAZの硬さと割れリスクが跳ね上がります。板厚が15〜20mm増えるごとに、予熱を25〜50℃引き上げるのが一般的な運用です。日本建築学会・日本鋼構造協会のガイドラインでも、板厚と鋼種のマトリクスで最低予熱温度が規定されています。
拡散性水素と予熱の関係は、低温割れ防止の核心です。溶接時に大気中の水分や溶接材料からの水素がHAZに侵入し、拘束応力下で拡散して脆性破壊を引き起こします。予熱により冷却速度を下げると、水素が拡散離脱する時間が増え、割れリスクが大幅に低下します。低水素系被覆アーク溶接棒(LB系)や、水分管理を徹底したフラックス入りワイヤ(FCW)を使うことで、拡散性水素量そのものを低減する対策も併用されます。降雨後・高湿度環境では追加予熱25〜50℃を上乗せするのが実務の定番です。
パス間温度の管理も予熱と同等に重要です。多層盛溶接では、1層目より前に予熱、次層以降は前層の温度が下がりすぎる前に次の溶接を開始する「パス間温度」を維持します。一般的な上限は250〜300℃で、これを超えるとHAZの結晶粒粗大化や靱性低下が起きます。予熱下限と上限の両方を接触式温度計(K熱電対)・赤外線温度計で確認し、温度チョーク(テンプルスティック)で簡易点検するのが現場運用です。
加熱手段の選定は、板厚と施工場所で決まります。屋内工場では電気抵抗ヒーター(ラバーヒーター・セラミックヒーター)を巻き付ける方式が主流で、温度制御が精密で作業性が良好。屋外・現場では液化石油ガスを用いたガスバーナー(トーチ加熱)が使われ、機動性は高いものの温度ムラや局所加熱による変形リスクがあります。厚板・重要度の高い部材では、電気式のバンドヒーターと熱電対制御を組み合わせた自動加熱システムが用いられます。
後熱・PWHT(溶接後熱処理)との組み合わせも実務では重要です。高強度鋼・厚肉圧力容器・原子力機器などでは、予熱と併せて溶接後200〜350℃の低温後熱(水素放出処理)を行い、その後550〜650℃のPWHT(応力除去焼鈍)で残留応力を低減します。PWHT対象部材は、予熱・パス間・後熱の履歴を溶接記録(WPQ・WPS・PQR)として保存し、施工品質を追跡可能にすることが必須です。
業界・現場での使い方
鉄骨製作・建築構造
SN490・SM490の柱梁溶接。板厚16〜40mmの通しダイアフラム・ノンスカラップ工法などで、鋼種と板厚に応じた予熱を実施。建築基準法の指定建築材料(認定鋼材)は、鋼材メーカーの推奨予熱条件が優先されます。
H形鋼・BOX柱の組立溶接では、拘束度の高い十字継手・T継手で予熱25〜50℃を上乗せするのが実務の定石です。
橋梁・道路構造物
橋梁桁のSM490Y・SM570等の高張力鋼溶接。日本道路協会「道路橋示方書」・日本鉄道車輌工業会「鋼橋設計指針」に基づき、予熱と入熱管理が厳格に規定されています。
屋外施工が多く降雨・湿度の影響を受けやすいため、標準予熱に25〜50℃を上乗せするのが安全側運用です。
圧力容器・タンク製作
ASME BPVC・JIS B 8265等に基づく圧力容器の胴板・鏡板溶接。高圧ガス保安法対象の第一種圧力容器では、予熱・パス間・後熱の履歴が施工記録として保存義務化されています。
厚肉圧力容器はPWHT前提の設計が多く、予熱→溶接→低温後熱→PWHTの4段階を連続管理します。
プラント配管・機械据付
石油化学・発電プラントのカーボン鋼配管(P235GH・STPG370等)、クロモリ鋼(P22・SCM440)配管の突合せ溶接。ASME B31.3等の配管規格で予熱・後熱温度が定義されています。
屋外現地施工が多く、電気バンドヒーター+熱電対制御が標準装備です。
船舶・海洋構造物
船体構造の高張力鋼(D級・E級・F級)溶接、海洋プラットフォームの厚板高強度鋼溶接。日本海事協会(NK)・ロイド船級協会等の船級規則で予熱基準が規定されます。
塩害・湿度環境下での溶接となるため、除湿と水素管理を徹底します。
建設機械・重機部材
建機ブーム・フレームの高張力鋼(HT490・HT590)溶接、耐摩耗鋼板(HARDOX等)の補修溶接。溶接技能者資格(JIS Z 3801・3841)に基づく施工と、メーカー独自の予熱基準が併用されます。
耐摩耗鋼板は特に予熱管理を怠ると割れやすく、板厚に応じた厳密な温度管理が必要です。
ケーススタディ:現場での実務計算
ケース1:SM490 30mm厚 通常環境
- 鋼種:SM490(Ceq≒0.42)、板厚30mm、屋内工場
- 基本予熱:50℃、板厚補正:+(30-20)×2 = +20℃
- 結果:予熱70〜80℃、パス間上限250℃
- 加熱:電気ラバーヒーター+K熱電対で自動制御
ケース2:HT780 40mm厚 高拘束
- 鋼種:HT780(Ceq≒0.55)、板厚40mm、厚板多層盛(高拘束)
- 基本予熱:150℃、板厚補正:+40℃、拘束補正:+25℃
- 結果:予熱215℃、パス間上限250℃
- 低水素系溶接材料(H5・H10)使用必須、後熱250℃×2h推奨
ケース3:橋梁SM570 50mm厚 屋外雨後
- 鋼種:SM570、板厚50mm、屋外・降雨翌日
- 基本予熱:100℃、板厚補正:+60℃、湿度補正:+25℃
- 結果:予熱185℃、乾燥処理(母材50℃×30分)
- ガスバーナー+電気バンドヒーター併用、K熱電対3点測定
ケース4:圧力容器P22クロモリ 25mm厚
- 材料:ASME SA-335 P22(2.25Cr-1Mo)、板厚25mm
- ASME BPVC推奨:予熱200℃・パス間300℃上限
- 結果:予熱200℃・後熱300℃×2h・PWHT 690℃×1h
- 拡散性水素放出のため、溶接直後→後熱→冷却→PWHTの一貫管理
ケース5:SCM440機械構造用
- 材料:SCM440(Ceq≒0.75)、板厚20mm、シャフト補修
- 基本予熱:250℃、パス間上限300℃、後熱350℃×2h
- 結果:予熱250℃・低水素系ワイヤ・後熱必須
- 機械構造用鋼は焼入れ組織のリスクが高く、専門溶接士による施工が原則
ケース6:SS400 12mm厚 一般構造
- 鋼種:SS400、板厚12mm、屋内・通常環境
- 基本予熱:0℃、板厚補正なし
- 結果:予熱不要(気温5℃以下なら霜取り目的で50℃程度)
- 寒冷地・冬季施工では低温脆性を避けるため簡易加熱が推奨
よくある間違い・注意点
-
予熱不足による低温割れ
破壊試験(JIS Z 3060 超音波探傷等)で初めて発覚するケースが多く、割れは溶接後24〜72時間経過して発生することもある(遅れ割れ)。SS400感覚でHT鋼を溶接すると典型的な失敗例。
-
過剰予熱による靱性低下
予熱・パス間温度が上限(300℃程度)を超えると、HAZの結晶粒粗大化で靱性が低下し、シャルピー衝撃値が規格を割ることがある。「上限管理」も予熱下限管理と同等に重要。
-
局所加熱による変形
ガスバーナーで狭い範囲だけ急加熱すると熱変形が生じ、角変形・歪みの矯正コストが増える。加熱範囲は溶接線の両側で最低75mm、板厚の4倍以上を目安に均等加熱するのが原則。
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接触式温度計の測定点ミス
K熱電対を溶接線から近すぎる位置(50mm以内)に貼ると溶接熱の影響でオーバー測定、遠すぎる位置(150mm以上)だと予熱温度を過小評価する。溶接線から75〜100mmが標準測定点。
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降雨・高湿度対応漏れ
屋外現場で降雨後・霧発生時に、母材表面の凝縮水を除去せず溶接すると、拡散性水素が急増して割れリスクが跳ね上がる。乾燥処理(母材50〜100℃×30分)は必須工程。
-
溶接材料の水分管理不足
被覆アーク溶接棒(特に低水素系)の吸湿は割れの直接原因。開封後は乾燥炉100〜150℃で保管し、使用時はポータブル乾燥機に入れて携行するのが正しい運用。
関連する規格・法規
- WES 3003「高張力鋼溶接施工基準」— 日本溶接協会が発行する高張力鋼の予熱・後熱・入熱管理の実務基準。鉄骨・橋梁業界のデファクトスタンダード。
- JIS Z 3040「溶接施工方法の確認試験方法」— WPQ(溶接施工方法承認)取得に必要な試験項目と手順を規定。
- JIS Z 3801・3841「溶接技能者評価試験」— 手溶接・半自動溶接の技能資格。予熱・パス間管理の実技評価を含む。
- ASME BPVC Section IX— 米国機械学会のボイラー・圧力容器規格。予熱・PWHTの温度・保持時間を材料規格ごとに規定。
- ASME B31.3「Process Piping」— プロセス配管の予熱・後熱基準。カーボン鋼・クロモリ鋼・ステンレス鋼まで網羅。
- 建築基準法・鋼構造設計規準(日本建築学会)— 建築鉄骨のSN鋼材の予熱要否と施工品質管理基準。
- 道路橋示方書・鋼橋編— 橋梁の溶接施工要領書(WPS)作成の指針。予熱・パス間温度の下限・上限が定義される。
※本ツールは公的基準・業界指針に基づく参考計算です。実際の設計・施工・法令適用は、鋼材メーカーのミルシート推奨条件、認証機関(NK・LR等)の承認、および所轄官庁・監理技術者の判断に従ってください。溶接施工は有資格者(JIS Z 3801等)による実施が原則です。
予熱温度の測定・記録方法
| 測定手段 | 精度 | 用途 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 接触式温度計(K熱電対) | ±2℃ | WPS要求品質 | マグネット式が主流 |
| 赤外線放射温度計 | ±5℃ | 現場即測 | 放射率補正が必要 |
| 温度チョーク(テンプルスティック) | ±10℃ | 簡易点検 | 溶ける温度で判定 |
| 示温シール(サーモラベル) | ±5℃ | ロット全数管理 | 色変化で温度履歴保存 |
| データロガー付き熱電対 | ±2℃ | PQR記録用 | 時系列トレース保管 |
WPS/PQR記録に必要な項目
- 予熱温度(下限)・パス間温度(上限)・後熱温度・保持時間
- 測定位置(溶接線からの距離)・測定回数
- 加熱手段・使用機器・校正記録
- 環境条件(気温・湿度・降雨・風速)
- 溶接材料の乾燥履歴・水分管理状況
よくある質問(FAQ)
HT780 25mm板の予熱温度は?
約150〜160℃。板厚30mm超なら+25℃、屋外・湿潤環境なら+25℃を追加。低水素系溶接材料(H5系)の使用が必須で、施工前に鋼材メーカーのミルシート推奨予熱を確認するのが安全側運用。
予熱温度はどこで測る?
溶接線から75〜100mm離れた母材表面。接触式温度計(K熱電対)またはマグネット式温度計を貼付し、溶接直前と溶接中の値を記録。赤外線温度計は放射率補正が必要で、鋼材の酸化度合いで値がぶれる点に注意。
パス間温度の上限管理はなぜ必要?
パス間温度が上限(250〜300℃程度)を超えると、HAZの結晶粒粗大化で靱性が低下し、シャルピー衝撃値の規格割れが起きる。低温割れ防止のために予熱を高めに設定するのは正しいが、上限を超えないよう次パスの前に温度を下げる管理も必要。
降雨後の溶接はどう対応する?
母材表面の凝縮水・霜を必ず乾燥処理してから溶接開始。ガスバーナーで表面を50〜100℃×30分程度加熱し、目視で完全乾燥を確認。予熱温度も通常時より25〜50℃上乗せするのが実務の定番。降雨中の露天溶接は原則禁止。
低水素系溶接材料とは?
被覆アーク溶接棒のうち、被覆剤中の水分含有量を極限まで下げた棒(LB系、H5・H10グレード)。拡散性水素量が5〜10 mL/100gと極めて低く、高強度鋼・厚板・寒冷地施工に必須。開封後は乾燥炉100〜150℃で保管する運用が原則。
後熱と予熱の違いは?
予熱は溶接前・溶接中に母材を昇温する処理、後熱は溶接直後に200〜350℃で保持する処理。後熱は拡散性水素を溶接部から放出させる目的で、割れ発生リスクをさらに低減する。PWHT(応力除去焼鈍、550〜650℃)とは別の低温後熱処理として位置づけられる。
SS400は本当に予熱不要?
板厚20mm以下・通常環境なら基本不要。ただし板厚40mm超、気温0℃以下、拘束度の高いT継手・十字継手では50〜80℃の予熱を推奨。SS400でも大板・低温・高拘束では低温割れが発生した事例があるため「全く不要」と決めつけず、条件に応じた判断が重要。
建築鉄骨のSN鋼と橋梁のSM鋼はどう違う?
SN490は建築構造用で降伏強度と靱性を保証、SM490は溶接構造用で溶接性と靱性を保証。両者とも溶接前提の鋼材だが、SN490の方が建築特有の耐震性能要求(降伏比・シャルピー値)がより厳しく、予熱基準も日本建築学会の指針に従う。
ガスバーナー加熱と電気ヒーターどちらが良い?
屋内工場・重要度高部材は電気ラバーヒーター(温度制御精密・記録可)、屋外現場・機動性重視はガスバーナー(即応性高・大面積対応)。厚板・重要構造物ではガス+電気の併用や、電気バンドヒーター+熱電対の自動制御が標準。
予熱記録はどのくらい保存する必要がある?
建築鉄骨は完成後20年以上(建物の使用期間)、橋梁は50年以上、圧力容器は事業所閉鎖まで保存が原則。WPS・PQR・WPQ・溶接記録は品質保証の根拠書類で、事故・不具合発生時の遡及調査に使用される。電子化して長期保管する事業所が増えている。
用語集
- 予熱(preheat)
- 溶接前・溶接中に母材を昇温し、HAZの急冷を防ぐ処理。
- パス間温度(interpass temperature)
- 多層盛溶接で、次パス開始時の母材温度。下限・上限管理が必要。
- 低温割れ(cold crack)
- 溶接後200℃以下で発生する脆性割れ。水素誘起割れとも呼ぶ。
- 拡散性水素
- 溶接金属中を拡散する水素。低温割れの主要因。低水素系材料で低減。
- 炭素当量(Ceq)
- 合金元素を炭素相当に換算した指標。IIW式が国際標準。焼入れ性の目安。
- HAZ(熱影響部)
- 溶接熱で組織変化する母材の領域。硬化・粗粒化しやすい。
- WPS(Welding Procedure Specification)
- 溶接施工要領書。材料・電流・電圧・予熱・パス間・後熱等を規定。
- PQR(Procedure Qualification Record)
- 溶接施工方法確認記録。WPSの妥当性を試験で裏付ける文書。
- WPQ(Welder Performance Qualification)
- 溶接技能者資格。JIS Z 3801等で規定。
- PWHT(Post Weld Heat Treatment)
- 溶接後熱処理。550〜650℃で応力除去、後熱と区別。
- 低水素系溶接材料
- 被覆剤の水分を極少化した溶接材料。LB系、H5/H10グレード。
- 質量効果
- 板厚が大きいほど溶接熱が周囲に逃げやすく冷却速度が上がる現象。
まとめ・実務ポイント
溶接予熱は「HAZ低温割れ防止の基本対策」であり、鋼種・板厚・拘束度・環境条件を総合判断して最適温度を決定します。予熱下限・パス間上限・水素管理・記録保管の4つを徹底することで、高品質な溶接施工と法定品質保証が両立できます。
WPS作成では、鋼材メーカーのミルシート推奨条件、WES 3003・JIS Z 3040等の業界基準、認証機関(NK・LR等)の要求事項を照合し、上位値を採用するのが安全側運用です。溶接部の不具合は完工後長期経過してから発覚することもあり、施工時の予熱・パス間・後熱の記録は建物・設備の寿命期間を通じて保存することが原則です。
参考文献・公的リソース
- 日本溶接協会「WES 3003 高張力鋼溶接施工基準」jwes.or.jp
- 日本産業標準調査会「JIS Z 3040 溶接施工方法の確認試験方法」jisc.go.jp
- 日本建築学会「鋼構造設計規準」aij.or.jp
- 日本鋼構造協会「建築鉄骨工事の管理指針」jssc.or.jp
- 日本道路協会「道路橋示方書・鋼橋編」road.or.jp
- 厚生労働省「労働安全衛生法・アーク溶接作業」mhlw.go.jp
- 日本海事協会「船級規則」classnk.or.jp