ドクターヘリ
ドクターヘリの搬送距離から飛行時間の目安を計算し、運航費と診療費のどちらに自己負担が生じるのかを整理する無料電卓です。
ドクターヘリツール
計算式と前提
本ツールは搬送距離を一定の巡航速度で割るだけの単純な式です。所要時間として表示されるのは飛行そのものにかかる時間で、要請から離陸までの準備や、着陸後に病院へ搬入するまでの時間は含みません。
飛行時間(分)= 搬送距離(km)÷ 180(km/h)× 60 = 搬送距離 ÷ 3
費用の表示 = 運航費は都道府県の事業費で賄われ、患者に請求されない
既定値の搬送距離50kmでは 17分(50÷3=16.7を四捨五入)と表示されます。速度を時速180kmに置いているのは、実機の巡航速度がおよそ時速200kmであるのに対し、離着陸の加減速・旋回・向かい風を織り込んで控えめに見積もるためです。費用欄は運航費についての表示であり、同乗した医師の診療や搬送先での治療は保険診療として自己負担が発生します。
距離別の飛行時間と費用の負担先
本ツールに距離を入力したときの表示値です。右端は、同じ距離を救急車が平均時速40kmで走った場合の目安で、地上搬送との差を見るための参考値です。
| 搬送距離 | 本ツールの飛行時間 | 離陸準備5分を足した目安 | 救急車の目安(時速40km想定) |
|---|---|---|---|
| 20km | 7分 | 約12分 | 約30分 |
| 50km(既定値) | 17分 | 約22分 | 約75分 |
| 100km | 33分 | 約38分 | 約150分 |
| 150km | 50分 | 約55分 | 約225分 |
| 200km | 67分 | 約72分 | 約300分 |
| 300km | 100分 | 約105分 | 約450分 |
費目ごとの負担先
| 費目 | 誰が負担するか | 患者の窓口負担 |
|---|---|---|
| 機体・燃料・操縦士・整備の運航費 | 都道府県の事業費(国庫補助あり) | なし |
| 同乗医師が搬送中に行う診療 | 医療保険(救急搬送診療料 1,300点) | 3割負担なら3,900円 |
| 搬送先での初診・検査・処置・手術 | 医療保険 | 加入する制度の負担割合どおり |
| 入院時の食事・差額室料 | 一部が保険外 | 定額または実費 |
| 消防機関の救急車 | 市町村の消防費 | なし |
ドクターヘリの詳しい解説
運航費が患者に請求されないのは、これが医療サービスの売買ではなく都道府県の事業として組み立てられているからです。救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療の確保に関する特別措置法(平成19年法律第103号)を根拠に、都道府県が基地病院と運航会社に事業費を支払い、国がその一部を補助します。1機あたりの年間運航経費はおよそ2億5,000万円とされ、出動回数で割れば1回あたり数十万円規模になりますが、その負担は事業費の側で完結します。無料なのは「飛ぶこと」であって、治療そのものではありません。搬送中に医師が診療を行えば救急搬送診療料が算定され、搬送先での検査や手術も通常どおり保険診療として扱われます。
実務で判断が分かれるのは要請のタイミングです。消防が119番の通報内容だけで出動を決める覚知同時要請と、救急隊が現場を見てから呼ぶ現場要請では、医師が患者に接触するまでの時間が10分以上変わることがあります。覚知同時要請は結果的に不要だった出動、いわゆるオーバートリアージを増やしますが、重症を取りこぼす損失のほうが大きいという考え方から、多くの地域が一定の空振りを織り込んだ要請基準を採っています。要請の判断は住民ではなく消防と基地病院が行うため、利用者側が選べるものではない点も押さえておいてください。
見落とされやすいのは、本ツールが出すのが飛行時間だけだという点です。要請から離陸までに数分、離陸後もランデブーポイントと呼ばれる着陸場所まで飛び、そこへ救急車が患者を運び、医師が乗り込むまでの時間が別に積み上がります。搬送先の病院に直接降りられるとは限らず、屋上ヘリポートがなければ再び救急車に乗り換えます。加えて多くの機体は有視界飛行方式で運航するため、原則として日の出から日没までに限られ、濃霧・強風・落雷では飛べません。夜間や悪天候では本ツールの数字はそもそも成立しません。
条件による違いも大きく出ます。平野部で救命救急センターが近い地域では、地上搬送のほうが早いことも珍しくありません。ヘリが力を発揮するのは、山間部・離島・高速道路上など、救急車では1時間以上かかる場面です。本ツールは一定速度で直線距離を飛ぶという単純化をしており、実際の運航では風向や空域の制約で経路が伸びます。距離感をつかむ目安として使い、搬送手段の選択や医学的な必要性の判断は、消防と医師に委ねてください。
よくある間違い・注意点
- 「ドクターヘリは無料」を治療費まで含めて理解する — 無料なのは運航費です。搬送中の診療も搬送先の治療も保険診療で、加入する制度の負担割合どおりに窓口負担が生じます。
- 表示された飛行時間を到着時刻と読む — 要請から離陸までの準備、着陸場所までの地上搬送、病院への搬入がそれぞれ加わります。実際に医師の治療が始まるまでの時間はこれより長くなります。
- 本人や家族が直接呼べると考える — 要請するのは消防機関や医療機関であり、住民が指名して呼ぶ仕組みではありません。急病やけがのときはまず119番に連絡してください。
- 24時間いつでも飛ぶと考える — 有視界飛行方式が中心のため、原則として日中の運航に限られます。天候不良でも飛べません。夜間に本ツールの数字を当てはめることはできません。
- 距離が短ければ必ずヘリが速いと考える — 着陸場所の確保や乗り換えが挟まるため、市街地の短距離では救急車のほうが早いことがあります。
参考資料・公的情報
- 厚生労働省 — 救急医療体制とドクターヘリ導入促進事業の所管。
- e-Gov法令検索 — 救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療の確保に関する特別措置法の条文。
- 総務省消防庁 — 救急業務のあり方、消防機関からの要請基準に関する資料。
- 国土交通省 航空局 — 有視界飛行方式や場外離着陸場の許可に関する制度。
- 厚生労働省 診療報酬(医科点数表) — 救急搬送診療料の算定要件と点数。
- 日本救急医学会 — 病院前救護と重症度判断に関する学術情報。
- 救急ヘリ病院ネットワーク(HEM-Net) — ドクターヘリの運航実績と運営の仕組みの解説。
- 日本医師会 — 地域医療体制と救急搬送に関する提言。
- 政府統計の総合窓口(e-Stat) — 救急・救助の実施状況に関する統計。
※本ツールは距離から飛行時間を概算する参考計算です。搬送手段の選択や医学的な必要性の判断は、消防機関および医師にお任せください。
よくある質問(FAQ)
どのようなときに要請されますか?
時間が生死を分ける状態で、地上搬送では間に合わないと判断されたときです。重症外傷、心筋梗塞や脳卒中を疑う症状、意識障害、広範囲熱傷などが典型で、加えて山間部・離島・高速道路上といった地上搬送に時間がかかる場所であることが要請の後押しになります。判断するのは消防機関と基地病院で、住民が指名して呼ぶ仕組みではありません。
民間のヘリコプター搬送とは何が違いますか?
医師と看護師が同乗し、離陸した時点から治療が始まる点と、運航費を患者に請求しない点です。民間の患者搬送では運航費が利用者負担になるのが一般的で、医療スタッフの同乗も別途の手配になります。ドクターヘリは都道府県の事業として運営されるため、運航費の請求はありません。
全国どこでも利用できますか?
全国に50機以上が配備され、すべての都道府県で運航体制が整えられています。ただし1機がカバーする範囲には限りがあり、隣接県と相互応援協定を結んで補い合う地域もあります。同時に複数の要請が重なった場合や、機体が整備中の場合は出動できないこともあります。
費用は本当にかからないのですか?
運航費はかかりませんが、医療費はかかります。搬送中に医師が診療を行えば救急搬送診療料(1,300点)が算定され、3割負担なら3,900円程度が窓口負担に加わります。搬送先での検査・処置・入院も通常の保険診療です。高額になる場合は高額療養費制度の対象になりますので、加入先の保険者に確認してください。
夜間や悪天候でも飛べますか?
原則として日の出から日没までの運航です。多くの機体が有視界飛行方式で運航しており、濃霧・強風・積雪・落雷などの気象条件では飛行できません。飛べない時間帯や天候のときは、救急車による地上搬送や、夜間対応が可能な防災ヘリなど別の手段が検討されます。
表示された時間で病院に着けますか?
着けません。表示は飛行そのものにかかる時間だけです。要請から離陸までの準備、ランデブーポイントまでの飛行と患者の引き継ぎ、着陸後の病院搬入がそれぞれ別に加わります。実際に治療が始まるまでの時間は、表示値に10分から30分程度を上乗せして考えるのが現実的です。
着陸する場所はどう決まりますか?
あらかじめ市町村と消防が選定したランデブーポイント(学校の校庭、河川敷、公園、駐車場など)に降ります。事故現場に直接降りられることは多くありません。着陸時は強い風と砂ぼこりが発生するため、消防が周囲の安全を確保してから進入します。近くに居合わせた場合は、指示に従って離れた位置で待機してください。