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宇宙ステーション食(日陰) 計算ツール|軌道高度からISS・GPS・静止衛星の食時間・電力予算・バッテリ容量シミュレーション

軌道高度を入力するだけで、地球の影(円錐影)による軌道食時間・必要バッテリ容量(500W負荷時)を即時算出。ケプラーの第三法則による軌道周期計算、幾何学的な地心角γによる食フラクション、電源系冗長設計に必要なバッテリ容量マージンまで一括で試算します。国際宇宙ステーション(ISS、高度400km)は1周期92分中約36分間が地球の影に入り、GPS衛星(20200km)・静止衛星(GEO、35786km)ではさらに複雑な年周期の食パターンを持ちます。JAXA電源系設計基準・ECSS-E-ST-20・NASA GSFC(ゴダード宇宙飛行センター)基準に照らして、衛星電源系設計者・宇宙工学志望学生・アマチュア無線衛星運用者が現場で使えるプロ向け無料計算ツールです。

最終更新:2026-07-29/監修:計算ツールズ編集部

宇宙ステーション食(日陰)ツール

軌道食の計算式

軌道周期 T = 2π√(r³/μ) (μ = 398,600 km³/s², r = R + h, R = 6,371km)

地心角 γ = arcsin(R/r) (太陽光線に対する食領域の半頂角)

食フラクション f = γ/π

食時間 = T × f

必要バッテリ容量 = 負荷電力(W) × 食時間(時間) / (DoD × 効率)

軌道食は、衛星が地球の影(本影 = Umbra、半影 = Penumbra)に入っている時間で、衛星電源系設計の最重要制約です。地球中心を通る軸上に太陽と反対側の円錐影が形成され、この影領域を通過するあいだ太陽電池パネル(Solar Array Panel = SAP)が発電できないため、バッテリ運転に切り替わります。翌軌道で日照側に出た瞬間から、負荷電力供給+バッテリ充電の両方をSAPで賄う運用となります。

本ツールでは、円軌道を仮定した最大食時間(食軸上での通過)を算出しています。実際の軌道は太陽方向との相対関係(β角)により、食時間は0〜最大値の間で変動します。ISSの場合、β角±60°を超える「β angle high period」では食時間がゼロになる期間もあり、これを利用してSAPの発電量を最大化する運用計画が組まれます。

軌道食解析の歴史

軌道食解析は、1957年10月4日のスプートニク1号打上げ直後から必要不可欠な設計課題でした。スプートニク1号は化学電池のみで動作し、食による発電停止を考慮する必要がなかったものの、後続のエクスプローラー1号(1958年、太陽電池+化学電池)、ヴァンガード1号(1958年、太陽電池のみ)から、太陽電池と二次電池のマッチング問題が本格化しました。

1960〜70年代のNASA GSFC(ゴダード宇宙飛行センター)・ソ連コロリョフ設計局では、多数の低軌道(LEO)・中軌道(MEO)衛星に対して食解析ソフトウェアが開発され、ケプラー軌道要素+SGP(Simplified General Perturbations)モデルによる食予測が実運用に組み込まれました。1970年代のスカイラブ、1980年代のスペースシャトル、1998年打上げのISSでは、β角と食時間の相関を用いた電力・熱制御運用計画が確立しています。

1980年代の静止衛星(GEO)通信ブームでは、年2回の食シーズン(春分・秋分の前後45日ずつ、計90日間)における最大72分の食が電源系設計の主要ドライバとなり、Ni-Cd電池からNi-H₂電池、そして2000年代のリチウムイオン電池への技術進歩が加速しました。現在のNASA・JAXA・ESA・ISASの標準設計法として、STK(Systems Tool Kit、AGI社)・GMAT(General Mission Analysis Tool、NASA提供)等の軌道解析ソフトが業界標準です。

β角と季節変動の詳細解析

β角(Beta Angle)は「衛星軌道面の法線ベクトルと太陽方向ベクトルのなす角の余角」で、衛星が経験する食時間を左右する最重要パラメータです。β角の値は太陽の視赤緯(±23.4°の年周変動)、衛星軌道の昇交点赤経(RAAN)、軌道傾斜(inclination)から幾何学的に決まります。

β角=0(食最大条件)

軌道面に太陽が含まれる状態。衛星は毎周期、地球の影を必ず横切るため、食時間が最大になります。ISSの場合、β=0で食時間約36分/周期、電源系設計はこの最悪ケースで検証。

β角=±90°(食ゼロ条件)

軌道面が太陽方向に完全垂直の状態。衛星は常に地球の日照側を回るため、食時間がゼロで完全日照。ISSはβ=±75°を超えると数日〜1週間程度の連続日照期間が発生し、SAP発電に有利ですが、機器温度上昇でラジエータ設計の別の課題が生じます。

β角±60〜75°(高β期間)

ISSでは「β高期間」と呼び、電力に余裕があり船外活動(EVA)や実験装置の高負荷運用に適した期間。逆にラジエータ廃熱能力の余裕が減るため、機器熱管理が重要になります。ミッションプランナーは季節ごとにβ角を予測し、大規模運用イベント(EVA・補給機ドッキング・実験装置起動)をスケジュールします。

β角の実務予測

β角予測はSGP4/SDP4伝播モデルを内蔵した衛星運用ソフト(STK、GMAT、Orekit、SkyfieldPython等)で年単位で計算します。ISS運用管制(NASA MCC-H・JAXA TKSC)では、β角を年間カレンダーに落とし込み、宇宙飛行士の科学実験プログラム・船外活動計画・補給便ドッキングウィンドウを事前に策定します。

軌道別 食時間早見表

高度(km)軌道周期最大食時間用途例
200約88分約36分低高度スパイ衛星・軌道降下前
400約92分約36分ISS・国際宇宙ステーション
600約96分約35分Iridium・OneWeb通信衛星
800約100分約34分地球観測・Landsat
1200約109分約32分気象衛星(極軌道)
2000約127分約28分Van Allen帯直下
10000約348分約61分MEO実験衛星
20200約718分(12h)約55分GPS(米)・Galileo(EU)・GLONASS(露)
357861436分(24h)約72分(春秋のみ)GEO静止衛星・気象・通信・放送

宇宙ステーション食(日陰)の詳しい解説

軌道食は「衛星電源システム設計の最重要制約」です。太陽電池パドル(SAP)は光がなければ発電できないため、食中は二次電池(バッテリ)による電力供給に切り替わります。バッテリの寿命は「充放電サイクル数(cycles)」で決まり、LEO衛星は1日あたり15〜16周期の食を経験するため、5〜10年運用で27,000〜58,000サイクルを重ねる必要があります。この過酷な充放電繰返し要求が、宇宙用電池の技術課題です。

ISS(高度400km、軌道傾斜51.6°)は、92分の周期のうち36分が食、56分が日照です。SAPは日照の間に負荷(平均75〜90kW)を供給しつつ、消費した電力の1.6倍程度をバッテリ充電に振り分けます。ISSの主電源は8対のSAP(合計約120kW)+リチウムイオンバッテリ(2016年以降、Ni-H₂から更新)で、約1周期の食(36分)×20年運用=約100,000サイクルの耐久性が要求されます。

静止軌道(GEO、高度35,786km)の衛星は状況が特殊で、春分・秋分の前後45日間ずつ、年間合計90日の「食シーズン」に集中的に食を経験します。食シーズン外は完全日照で食ゼロ、食シーズン中は1日1回、最大72分の食が発生。この極端な運用パターンのため、GEO衛星のバッテリは「深い放電(DoD 70〜80%)を年90回×15年運用=1,350サイクル」という設計になります。LEO衛星と比較してサイクル数は少ないが、DoDが深いため電池化学の選択が異なります。

GPS等のMEO衛星(高度20,200km)は、軌道傾斜と季節により年間で約2ヶ月の食シーズン、最大55分の食を経験します。太陽電池パドル面積・バッテリ容量ともに、この最大食条件を基準に設計されます。GPS Block IIF・Block IIIでは、Ni-H₂ (Block II/IIA/IIR)からリチウムイオン電池への切替が進み、質量削減と寿命延長を両立しています。

近年の低軌道大量コンステレーション(Starlink、OneWeb、Amazon Kuiper等)では、数千基の衛星それぞれについて食時間×15年運用のバッテリ寿命設計が必要で、リチウムイオン電池の宇宙適用が急速に進んでいます。1周あたり36分×15年運用=約87,000サイクルという要求が、地上用リチウムイオン電池の寿命(2,000〜5,000サイクル)を大きく上回るため、宇宙用専用セル(Saft社・GS Yuasa社等)が採用されます。

バッテリ容量とDoD設計

衛星バッテリの設計は、DoD(Depth of Discharge、放電深度)サイクル寿命のトレードオフで決まります。DoDを浅くすればサイクル寿命が延びるが、必要バッテリ容量は増大します。

LEO衛星の設計DoD(15〜30%)

1日15〜16サイクル、5〜15年運用で27,000〜87,000サイクル必要。この過酷な要求のため、DoD 15〜30%と浅く設計し、バッテリ容量を大きめに確保。Ni-H₂ではDoD 30%まで許容、Liイオンでも同様に浅目に設計。

GEO衛星の設計DoD(60〜80%)

年90サイクル、15年運用で1,350サイクル。サイクル数が少ないためDoDを深く設計でき、バッテリ質量を最小化。Liイオンでは60〜70%DoD、Ni-H₂では70〜80%DoDが標準。

MEO衛星のバランス設計

GPS等のMEO衛星は、年間食日数が2〜3ヶ月で1日1〜2サイクル。15年で1,000〜1,500サイクル。GEOに準じたDoD設計だが、若干浅めの50〜60%が主流。

電池化学の選択

1960〜80年代Ni-Cd(300Wh/kg等価質量)、1980〜2000年代Ni-H₂(60〜80Wh/kg、水素ガス封入)、2000年代以降リチウムイオン(150〜200Wh/kg)。質量制約が最重要な宇宙応用ではLiイオンが標準化。

冗長性と信頼性

単一障害許容(SPF)のため、バッテリセル・充電制御ICを冗長化。ISSは8バンク×4セル×98Ah構成で、1バンク完全故障でも15%出力低下で運用継続。宇宙機のMTBF(平均故障間隔)は15〜20年設計。

熱制御と温度依存

Liイオンは-10〜+30℃で最良効率。宇宙機のラジエータ・ヒータ制御でこの範囲を維持。食中の急冷(-100℃以下)と日照時の急熱(+100℃以上)による熱疲労が寿命に影響。

太陽電池パドル面積計算

太陽電池パドル(SAP)は、日照時間(周期T - 食時間E)の間に、負荷供給+バッテリ充電の両方を賄う必要があります。必要SAP面積の概算は次式で試算できます。

SAP面積 = 負荷電力(W) × T / [ (T-E) × η_SAP × 1367W/m² × 効率係数 ]

1367W/m²は太陽定数(地球公転軌道での太陽放射照度)、η_SAPは太陽電池変換効率(結晶Si 15〜18%、GaAs 28〜30%、3接合太陽電池 32〜35%)、効率係数は温度損失・入射角損失・BOL/EOL劣化を考慮した0.6〜0.8です。

ISS(平均負荷85kW)の場合、8対のSAP(合計約2,500m²)+3接合GaAs太陽電池(BOL効率28%、EOL 20%)で日照時間中に約120kW発電し、うち70kWをバッテリ充電、50kWを負荷供給に配分しています。食中はバッテリから85kW供給という設計です。

3接合太陽電池は、Si単結晶と比較して変換効率が約2倍(28〜35%対14〜18%)のため、宇宙用途で主流になっています。Spectrolab、Azur Space、シャープ等が製造。地上用と異なり、放射線劣化を考慮したBOL(Beginning of Life)/EOL(End of Life)効率のマージンを設計に組み込みます。BOL 30% → EOL 22% (15年後)というEOL劣化20〜30%を見越したパネル面積確保が必要です。

静止衛星の年2回食シーズン

静止軌道(GEO)は、赤道上高度35,786kmの円軌道で、地球の自転と同期して静止するように見える特殊な軌道です。GEO衛星の軌道食は、春分・秋分の前後の年2回、各45日間、計90日間のみ発生する特殊なパターンを持ちます。

食シーズンのメカニズム

GEO衛星は年間の大部分は「日陰にならない」よう、地球の赤道面上を運行しています。しかし春分・秋分の前後には太陽の赤道面上の位置が地球赤道面と重なるため、GEO衛星が1日1回、地球の影に入る「食シーズン」が発生します。食シーズン期間中、食時間は0分から徐々に増え、春分・秋分当日に最大72分に達し、その後徐々に減って0分に戻ります。

負荷運用の対策

食シーズン中は電源系がバッテリ運用となるため、負荷を通常運用の70〜80%に絞るのが標準対策です。通信衛星なら一部トランスポンダを一時停止、放送衛星ならバックアップ運用に切り替え。運用計画は年間スケジュールに組み込まれ、事業者に事前告知されます。

Sun outage(太陽妨害)との違い

GEO衛星の食(Eclipse)は「衛星が地球の影に入る現象」、Sun outage(サンアウテージ)は「地上受信アンテナの延長線上に太陽が位置し、太陽ノイズで受信不能になる現象」です。両者ともに春分・秋分前後に発生しますが、原因と対策が異なります。食は衛星側の電源問題、Sun outageは地上局側の受信問題です。

熱制御と食中の温度変動

軌道食は電源系だけでなく熱制御系にも大きな影響を与えます。日照側と食側の温度差は数百℃に及び、機器の熱疲労・熱膨張差による構造応力が問題になります。

ISSの表面温度は、日照時+120℃、食中-160℃と約280℃の熱サイクルを1周期(92分)ごとに繰返します。この熱ショックに耐えるため、多層断熱材(MLI、Multi-Layer Insulation)、ラジエータ、電気ヒータの精緻な熱設計が必要です。SAP自体も、日照時+80℃、食中-100℃の熱サイクルを92分ごとに繰返し、15年で約87,000サイクル。ハンダ疲労・接着剥離が寿命を制限する主因となります。

特に注意すべきはバッテリの温度依存性。リチウムイオン電池は-10〜+30℃で最良の充放電効率と寿命を示し、食中の急冷・日照時の急熱でこの範囲を外れると寿命が急激に劣化します。ラジエータ+電気ヒータ+ペルチェ素子の組合せで、バッテリ温度を±5℃以内に厳格制御するのが標準設計です。

メガコンステレーション時代の食解析

2020年代に本格化した低軌道大量コンステレーション(Starlink 42,000基予定、OneWeb 648基、Amazon Kuiper 3,236基予定、中国国網 12,992基予定)は、それぞれの衛星が高度340〜1200kmの低軌道で運用され、食解析が電源系設計の中核となります。

Starlink(SpaceX)の運用

高度340〜570kmの複数シェル構成。周期91〜96分、食時間約35分/周期。SAP展開型+リチウムイオン電池による構成で、日照54分でバッテリ充電+負荷供給を賄い、食35分でバッテリ運転。5年運用で27,000サイクル、DoD 25〜30%設計。約1kWの平均負荷。

OneWebの運用

高度1200kmの中低軌道。周期109分、食時間約32分/周期。より高高度のため軌道あたり食時間割合が減り、SAP面積の余裕が持てる設計。約1.5kWの負荷。

コンステレーション運用の課題

数千基衛星の運用では「バッテリ寿命の統計的分布」が課題。1基あたり故障率が0.1%/年でも、10,000基運用なら10基/年が故障する期待値。個別衛星の詳細設計精度と、コンステレーション全体の代替戦略の両立が求められます。

デオービット(軌道離脱)計画

低軌道大量衛星は寿命末期に大気抵抗で自動的に軌道離脱する設計が標準(高度600km以下なら数年で自然落下)。電源系寿命=運用寿命+デオービット期間まで、電源が生きている必要があり、食解析はこの全期間で行います。

業界・現場での使い方

衛星システム設計エンジニア

電源系ミッション要求分析、SAP面積・バッテリ容量の初期見積、電力予算(Power Budget)作成、電源系冗長設計。JAXA・NASA・ESA基準に照らした要求仕様書作成。

宇宙電源メーカー(Saft、GS Yuasa、日本電子開発)

Ni-H₂・Liイオンセル選定、充放電制御ユニット設計、耐環境試験計画。食パターンに応じた充放電サイクル寿命の設計。

衛星運用者(JAXA、NASA、ESA、民間事業者)

実運用時の電力予算監視、季節ごとのβ角変動に応じた運用計画、食シーズン中の負荷制御スケジューリング。地上局からの遠隔操作。

宇宙工学教育・研究

大学の宇宙工学・軌道力学講義、CanSat・CubeSatプロジェクトの電源設計。学生実験用の低予算衛星電源システムの設計練習。

アマチュア無線衛星(AMSAT)運用

OSCAR・FUNcube等のアマチュア衛星の運用計画。パスケジューリング、電源制約に応じた交信計画。

スペースデブリ観測・SSA

デブリの光学観測において、食時間中は反射光がなく検出不能になるため、観測スケジュールに反映。SDA(Space Domain Awareness)運用。

実務ケーススタディ

軌道食解析が実際にどのように使われるか、代表3ケースを紹介します。

ケースA:CubeSat(高度500km)の電源系初期設計

3Uサイズ(10×10×30cm、質量4kg)のCubeSat、平均負荷5W。周期94分、食時間約35分。バッテリ容量計算は、5W × 35/60時間 = 2.9Wh、DoD 30%(LEO 15,000サイクル寿命)、効率85%として実効容量11.4Whが最低必要。冗長を考慮して18650型Liイオン3セル並列(合計21Wh)を選択。SAPは3接合GaAs 0.02m² × 2枚(展開型)で日照中10W発電、負荷5W+充電5Wを賄う設計。学生プロジェクトの標準設計例です。

ケースB:GEO通信衛星の食シーズン運用計画

通信衛星(質量4t、負荷12kW、GaAs 3接合SAP 30m²、Liイオン400Ah×2バンク)。年2回の食シーズン中(計90日、うち食時間20〜72分/日)、通信トランスポンダ48台のうち10台を一時停止して負荷を80%に絞る。バッテリDoD 70%運用で、15年寿命(1,350サイクル)を確保。運用計画は年間スケジュールで事業者(スカパーJSAT、Intelsat等)に事前告知される標準運用です。

ケースC:ISS船外活動(EVA)のスケジューリング

NASA/JAXA/ESA/Roskosmosの宇宙飛行士による船外活動(EVA)は1回6〜8時間で、この間に食(-160℃)と日照(+120℃)を4〜5サイクル経験。EVA計画では食中の作業を軽減し日照側で主要作業を配置する運用が標準。宇宙服(EMU、Orlan)は熱制御機能を持つが、視認性・体温維持のため日照側優先の作業計画が組まれる。ISS運用管制の重要要素です。

よくある間違い・注意点

  • 食考慮せず電源設計 — SAPのみで電源設計すると食中は完全ダウン。二次電池(バッテリ)は必須で、食時間×負荷電力の容量が最低要求。
  • バッテリDoD過大設計 — LEOで50%以上のDoDを想定すると、寿命が5,000〜10,000サイクル(約1〜2年)に落ちる。LEOは15〜30%DoD、GEOは60〜80%DoDが標準。
  • β角=0を想定した最悪ケース設計 — 実際は年間を通してβ角が-70°〜+70°で変動し、食時間が0〜最大値の間で変わる。最悪ケース(食最大)+最良ケース(食ゼロ)の両方で解析。
  • SAP面積をBOL(初期)基準で決定 — 放射線劣化でEOL(寿命末期)には20〜30%効率低下。EOL基準で面積を決めないと運用末期に発電不足。
  • 本影と半影の混同 — 本影(Umbra、完全遮蔽)と半影(Penumbra、部分遮蔽)は明確に区別。半影中はSAP発電が10〜50%に落ちるが完全停止ではない。詳細解析では両者を分離。
  • ケプラー第三法則の単位ミス — μ = 398,600 km³/s²は「地球」の重力パラメータ。月・火星の探査機解析では対応する天体のμを使う。単位混乱で軌道周期が桁違いになる典型ミス。
  • SAP温度上昇の無視 — SAP温度が10℃上昇すると効率が0.4〜0.5%低下(GaAs 3接合)。日照中のSAP温度80℃を想定した効率で発電量を試算する必要あり。
  • GEO食シーズン範囲の誤解 — 春分・秋分「当日のみ」ではなく前後45日ずつの計90日間。運用計画では正しく年間90日間の食を計上する。

月・深宇宙ミッションへの拡張

NASAのArtemis計画・JAXAのHERACLES計画・中国CNSA嫦娥計画による月・深宇宙探査では、地球周回軌道と異なる食解析が必要になります。

月周回軌道(NRHO・LLO)

ゲートウェイ月周回宇宙ステーションが採用予定のNRHO(Near Rectilinear Halo Orbit)は、地球-月-太陽の3体系Lagrange点近傍軌道で、食時間が最大90分と長い。SAP+リチウムイオン電池の大容量設計が必要。LLO(Low Lunar Orbit、高度100km)は月の影で最大45分の食を経験します。

深宇宙探査機の電源

火星以遠(はやぶさ2、MMX、Mars2020等)では太陽光強度が地球軌道の10〜40%に減少し、SAP面積が数倍必要。ボイジャー・ニューホライズンズ等の外惑星探査機はRTG(Radioisotope Thermoelectric Generator、放射性同位体熱電発電機)を採用し、食の影響を受けない設計を選択しています。

月面基地の昼夜サイクル

月の自転周期は27.3日で、月面基地は14日間の昼と14日間の夜を経験。この長期夜間を賄うにはバッテリ容量が地球周回衛星の100倍以上必要となり、原子力電源(小型原子炉)の検討も進められています。

Lagrange点(L1・L2)ミッション

太陽-地球L1点(SOHO、DSCOVR)は太陽観測、L2点(JWST、ユークリッド、Gaia)は宇宙観測に使われる特殊な軌道。ほぼ完全日照(食ほぼゼロ)ですが、地球からの熱放射の影響を受けます。JWSTはL2点で太陽・地球・月からの熱を5層のサンシールドで遮断し、-233℃の低温観測を実現しています。

惑星間巡航フェーズ

火星探査機・小惑星探査機の惑星間巡航では、太陽と衛星の直線上に他天体がなく食は発生しません。SAPは常に発電、バッテリは緊急バックアップ用途に。ただし目的地での周回投入後は、火星の影(約40分)・月の影(約90分)・小惑星の影(数分〜数時間)を経験します。

電気推進機とのマッチング

近年の探査機・大型衛星ではXeイオンエンジン・ホールスラスタ等の電気推進が採用され、SAPの発電電力の大半(数kW〜数十kW)を推進に使う運用があります。食中は推進停止+スタンバイのみに切り替え、次の日照時間で再点火という運用パターンが標準です。

関連する規格・法規

  • JAXA JERG-2-214「電源系設計基準」 — JAXAの宇宙機電源系設計標準。バッテリ・SAP・PCU(電源制御ユニット)の設計要求。
  • ECSS-E-ST-20C「Electrical and electronic」 — 欧州宇宙標準化会議(ECSS)の宇宙機電気系設計標準。ESAミッションの基本規格。
  • ECSS-E-ST-20-08「Photovoltaic assemblies and components」 — 太陽電池パドルの設計・試験標準。
  • NASA GSFC GEVS(General Environmental Verification Standard) — NASA宇宙機の環境試験標準。熱真空試験・振動試験の基準。
  • MIL-STD-1540「Product Verification Requirements for Launch, Upper Stage, and Space Vehicles」 — 米国防総省の宇宙機検証標準。
  • JIS Q 9100「航空、宇宙及び防衛産業の品質マネジメントシステム」 — 宇宙機開発の品質管理標準。
  • ISO 15864「Space systems - General test methods for spacecraft, subsystems and units」 — 宇宙機・サブシステムの試験方法国際規格。
  • ITU-R Recommendations(国際電気通信連合 無線通信部門勧告) — 通信衛星の周波数割当・軌道スロット。

※本ツールは円軌道を仮定した最大食時間の概算計算です。実際の衛星電源系設計・運用計画には、STK・GMAT等の軌道解析ソフトによる詳細解析(β角変動・楕円軌道・大気抵抗・太陽輻射圧を考慮)が必須です。

参考文献・公的資料

軌道力学・衛星電源系設計の詳細は、以下の公的機関の一次資料を参照してください。

※本ページの食時間・バッテリ容量計算は円軌道・単純幾何モデルによる概算値です。実際の衛星設計には、楕円軌道・大気抵抗・太陽輻射圧・地球扁平率(J2項)を考慮した高精度軌道解析、および放射線環境・熱環境を織り込んだ電源系詳細設計が必要です。ミッションクリティカルな設計では有資格の宇宙システムエンジニア(JAXA/NASA/ESA認定)による確認を必ず経てください。

よくある質問(FAQ)

ISS高度400kmの食時間は?

約36分/軌道(周期92分中)。太陽軌道方向との相対角度β角により変動し、β角±60°付近では食時間が最大、β角0°でゼロになる期間もあります。年間平均で30〜36分/周期です。

静止衛星(GEO)はいつ食に入る?

春分・秋分の前後45日ずつ、年間計90日の食シーズンにのみ発生。それ以外の期間は完全日照。食シーズン中は1日1回、最大72分の食を経験します。この期間は通信衛星の一部トランスポンダを停止して負荷を絞る運用が標準です。

GPS衛星(20200km)の食は?

年間で約2ヶ月間の食シーズンに、最大約55分の食を経験。周期12時間(半周期は6時間)なので、1日1回程度の食となります。GPS Block IIF・Block IIIではリチウムイオン電池が採用され、寿命15年運用に耐える設計です。

β角って何?

太陽方向と衛星軌道面の角度で、-90°〜+90°の範囲。β角=0だと食時間が最大、β角±90°(軌道面が太陽方向に垂直)だと食ゼロで完全日照。ISSは年間を通じてβ角が-75°〜+75°で変動し、食時間が0〜36分の間で変化します。

本影(Umbra)と半影(Penumbra)の違いは?

本影は太陽光が完全に遮蔽される領域で、SAP発電がゼロ。半影は太陽の一部が地球に遮られる領域で、SAP発電が10〜90%程度に低下(遮蔽率次第)。詳細な電源解析では両者を区別しますが、簡易解析では本影のみを考慮するのが標準です。

宇宙用バッテリのサイクル寿命は?

LEO衛星用Liイオン電池はDoD 20〜30%で50,000〜100,000サイクル(15年運用)、GEO衛星用はDoD 60〜80%で1,500〜3,000サイクル(15年運用)が標準。地上用Liイオン(DoD 80%で500〜2,000サイクル)より数倍〜100倍長い寿命が要求されます。

ISSの太陽電池パドル面積は?

8対のSAP(Solar Array Wing)で合計約2,500m²。3接合GaAs太陽電池により、BOL(初期)約120kW、EOL(15年後想定)約85kWを発電します。ISS全体の平均消費電力は75〜90kWで、日照中に負荷+バッテリ充電を賄う設計です。

3接合太陽電池って何?

異なるバンドギャップの3層(GaInP/GaAs/Ge)を積層した太陽電池で、太陽光の広い波長域を効率的に電気変換。単結晶Si(14〜18%)の約2倍、変換効率28〜35%を実現。宇宙用途では主流。Spectrolab(米)、Azur Space(独)、シャープ(日)が主要メーカー。

Sun outage(サンアウテージ)って何?

地上受信アンテナの延長線上にGEO衛星と太陽が並び、太陽ノイズで受信不能になる現象。春分・秋分前後の午前・午後の限られた時間帯に発生(1日数分)。軌道食とは別現象で、衛星側でなく地上局側の問題です。BS/CS放送で年2回発生する現象として知られます。

CubeSatの電源設計に本ツールは使える?

使えます。CubeSat(1U〜12U)は高度400〜600kmのLEOが主流で、食時間・バッテリ容量の概算に本ツールが有効。18650型リチウムイオン電池と3接合GaAs SAP(展開型)の組合せが標準構成です。詳細設計にはSTK・GMATを併用してください。

衛星電源のトラブル事例は?

1990年代日本のETS-VI(1994年打上げ)は、静止軌道投入失敗で楕円軌道になり、想定外の食パターンでバッテリ劣化が加速。2000年代の欧州Envisat(2002年打上げ)は、10年運用後にSAPドライブが停止し電源失陥。食解析ミスと機構故障が主要トラブル原因です。

月・火星探査機の食解析は?

月周回軌道では月の影(食時間約45分)、火星周回では火星の影を考慮。本ツールは地球中心(μ=398,600 km³/s²)専用ですが、他天体のμに置き換えれば同様の計算が可能。月μ=4,904、火星μ=42,828 km³/s²です。