自転車FTP・パワーゾーン計算|20分テストからFTP・PWR・Z1-Z7を即算出、Coggan/British Cyclingゾーンとトレーニング実務
自転車のFTP(Functional Threshold Power、機能的作業閾値パワー)を、20分オールアウトテストの平均パワー×0.95で算出する実務ツール。Andrew Coggan博士のパワーゾーン理論に基づくZ1(リカバリー)〜Z7(無酸素)の7ゾーン、PWR(Power to Weight Ratio、W/kg)によるライダー分類(3.0=趣味・4.0=ホビーレーサー・5.0=エリート・6.0+=プロ)、Zwift・TrainerRoad・Garmin Connect・Wahoo SYSTMのトレーニングメニュー基準、Ramp Test・8分×2セット・20分テストの選び方まで解説します。
自転車 FTP・パワーゾーン計算機
計算式とロジック
FTP(20分テスト法)
FTP = 20分平均パワー × 0.95
FTPは1時間維持できる最大の平均パワーで、乳酸性作業閾値(LT2)と近い意味を持ちます。1時間全力走の実測が最も正確ですが精神的負荷が高いため、Hunter Allen/Andrew Coggan博士の推奨する20分全力テスト×0.95で近似するのが実務標準です。
PWR(パワーウェイトレシオ)
PWR = FTP ÷ 体重(kg)
単位はW/kg。登坂性能・軽量ライダーの優位性の指標です。プロレーサーは6.0-7.0 W/kg、ホビーレーサー上位は4.0-5.0 W/kg、一般愛好家は2.5-3.5 W/kgが目安です。
Cogganパワーゾーンの計算
Z1 = FTP × 0-55%(リカバリー)
Z2 = FTP × 56-75%(有酸素持久)
Z3 = FTP × 76-90%(テンポ)
Z4 = FTP × 91-105%(LT・閾値)
Z5 = FTP × 106-120%(VO2max)
Z6 = FTP × 121-150%(無酸素キャパ)
Z7 = FTP × 150%以上(神経筋パワー)
Cogganパワーゾーンの詳細
Coggan博士のTraining and Racing with a Power Meter(2019第3版)に定義される7ゾーンです。
| ゾーン | %FTP | 持続時間 | 主な効果 |
|---|---|---|---|
| Z1(Active Recovery) | 0-55% | 90分〜 | 疲労回復・血流促進 |
| Z2(Endurance) | 56-75% | 2.5-6時間 | 脂肪燃焼・毛細血管新生・ミトコンドリア増加 |
| Z3(Tempo) | 76-90% | 1-3時間 | 糖質利用効率・持久力ベース |
| Z4(Threshold / LT) | 91-105% | 10-60分 | 乳酸性作業閾値の引き上げ |
| Z5(VO2max) | 106-120% | 3-8分 | 最大酸素摂取量・心肺能力 |
| Z6(Anaerobic Capacity) | 121-150% | 30秒-3分 | 無酸素性代謝能力・乳酸耐性 |
| Z7(Neuromuscular Power) | >150% | 5-30秒 | スプリント・最大神経筋出力 |
PWR(W/kg)によるライダー分類
Andrew CogganのPower Profile Chartに基づく、成人男性の分類目安です。女性は概ね0.5-0.7 W/kg低い値で同カテゴリになります。
| カテゴリ | FTP W/kg | 特徴 |
|---|---|---|
| 初心者・非トレーニング | 1.5-2.5 | 週1-2回・50km未満 |
| ロード愛好家 | 2.5-3.5 | 週3-4回・センチュリー走行可 |
| ホビーレーサー(Cat 4/5) | 3.5-4.0 | エンデューロ・実業団Eレベル |
| ミドル層(Cat 3) | 4.0-4.5 | 実業団3-4級・ヒルクライム40分/1000mUP |
| 上級ホビー(Cat 2) | 4.5-5.0 | 実業団1-2級・全日本アマ入賞圏 |
| エリート・アマトップ | 5.0-5.5 | 全日本選手権完走圏 |
| プロコンチネンタル | 5.5-6.0 | UCIコンチネンタルチーム所属 |
| ワールドツアー | 6.0-6.5 | グランツール完走圏 |
| ワールドツアー・トップ | 6.5-7.5 | ツール・ド・フランス優勝圏 |
PWRは体重の影響が大きく、体重60kgで360W(=6.0W/kg)と体重80kgで360W(=4.5W/kg)では全く異なる意味を持ちます。平地は絶対Wが重要、登りはPWRが重要という関係です。
FTPテストの種類
20分テスト(Coggan流)
20分全力走の平均パワー×0.95。準備20分(Z2)+ 5分×2の閾値ワーム+ 5分レスト+ 20分オールアウト+ クールダウン、と流れが確立。心理的にきついが最も普及した手法です。
Ramp Test(Zwift/TrainerRoad標準)
1分ごとに20-25W上げていき力尽きるまで。最終1分の平均×0.75=FTP。10-15分で終わる短時間性が魅力で、Zwift・TrainerRoadで標準採用。心理的負荷が低くVO2max型ライダーには過大評価傾向。
8分×2セット
Hunter Allen推奨。8分全力×2セット(10分レスト)で、良い方の平均×0.9=FTP。20分より時間短縮できる一方、無酸素能力が高いライダーで過大評価。
1時間全力(真のFTP)
定義通り1時間維持可能な平均パワーを実測。理論上最も正確だが、屋外なら平坦一定路が必要・室内なら極度の心理負荷で毎月測るのは非現実的。年1-2回の実測が実務推奨。
Critical Power / mFTP
WKO5・INSCYD等の解析ソフトで、複数の最大出力データ(3分・5分・20分)から数学モデルで算出。日々の走行データから自動更新され、テスト不要でFTP推定が可能な最新手法。
実走レース・KOMアタック
Strava・ヒルクライムレースの20分登坂パワーもFTP推定に活用可能。実走の方が屋内より5-10%高いFTPが出やすい(暑熱・冷却・モチベーション差)ため、屋外/屋内で分けて管理する選手も。
パワーメーター・スマートトレーナーの選択
| タイプ | 価格帯 | 主要製品 | 精度 |
|---|---|---|---|
| ペダル型(両側) | 10-20万円 | Garmin Rally・Favero Assioma Duo | ±1-1.5% |
| ペダル型(片側) | 7-10万円 | Favero Assioma Uno | ±1.5%(左脚基準) |
| クランク型 | 10-25万円 | Quarq・SRAM・Rotor 2INpower | ±1-2% |
| クランクアーム型 | 5-15万円 | 4iiii Precision・Stages | ±1-2%(片側または両側) |
| スパイダー型 | 10-20万円 | Power2Max・Quarq DZero | ±1.5% |
| ハブ型 | 7-15万円 | PowerTap G3 | ±1.5% |
| スマトレ(Direct Drive) | 8-25万円 | Wahoo KICKR・Tacx NEO 2T・Elite Suito | ±1-2.5% |
| スマトレ(廉価) | 3-8万円 | Elite Zumo・Wahoo KICKR CORE | ±2.5-3% |
よくある間違い・注意点
- 20分テスト×0.95を鵜呑み — VO2max型ライダー(TT不得意)では0.90-0.92、有酸素持久型では0.95-0.97が実態です。個人の得意分布で係数調整が必要。
- Ramp Testの過大評価 — 無酸素能力が高いライダーはRamp Testで過大値が出やすく、実際のFTP強度セッションが達成できないケースが頻発。20分テストと相互チェックしてください。
- 屋内と屋外のFTP差 — 屋内は熱・湿度・モチベーションで屋外より5-10%低いFTPが出ることが一般的。Zwift大会の絶対値と実走の絶対値は分けて管理する必要があります。
- パワーメーター機種間の誤差 — 機種間で3-5%の誤差は普通。機種変更時はFTPを再測定してください。左右差の大きいライダーは片側計測に注意。
- PWRだけで評価 — 平地レース・タイムトライアルでは絶対Wが支配的で、PWRは重要度が下がります。登り主体のホビーライダーがPWRに拘泥しがちですが、種目適性で見るべきです。
- FTPを月1で更新しない — 継続トレーニングで4-6週で3-5%変動します。3ヶ月放置すると閾値ゾーンが実勢と乖離し、SSTがZ3になったり閾値ワークが物足りなくなります。
- 疲労蓄積下でのFTPテスト — TSB(Training Stress Balance)がマイナスの状態でテストすると10%以上過小評価。テスト前3日はテーパー(強度を落とす)が推奨。
関連指標・国際基準
- FTP(Functional Threshold Power) ― 1時間維持可能な最大平均パワー。Coggan博士の提唱。
- LT2(Lactate Threshold 2) ― 血中乳酸4 mmol/L相当の運動強度。FTPと同義的に使われる。
- VO2max ― 最大酸素摂取量。ml/kg/minで表現。プロ70-85、一般30-50。
- TSS(Training Stress Score) ― トレーニング量指標。FTP×時間×強度からPeaksware計算式で算出。
- NP(Normalized Power) ― 変動を考慮した実効パワー指標。
- CTL/ATL/TSB ― Chronic/Acute Training Load、Training Stress Balance。疲労管理指標。
- IF(Intensity Factor) ― NP÷FTP。1回のライドの強度指標。
参考文献・公的資料
パワーベーストレーニングの一次資料・公式ガイドは以下を参照してください。
- TrainingPeaks - Power Training Levels ― Andrew Coggan博士のパワーゾーン公式定義。
- Training and Racing with a Power Meter ― Hunter Allen/Andrew Coggan共著(VeloPress、第3版2019)。
- British Cycling Training Zones ― 英国自転車競技連盟の公式6ゾーン定義。
- UCI(Union Cycliste Internationale) ― 国際自転車競技連合の公式サイト。
- 日本自転車競技連盟(JCF) ― 国内競技の統括団体。実業団カテゴリの規定など。
- TrainerRoad ― 構造化トレーニングの主要プラットフォーム。Adaptive Trainingが有名。
- Zwift ― バーチャル自転車プラットフォーム。世界的なオンラインレース基盤。
- Wahoo SYSTM Blog ― Sufferfest後継のトレーニングプラットフォーム。
- Garmin ジャパン ― サイコン・パワーメーター・パフォーマンス指標の公式解説。
- American College of Sports Medicine (ACSM) ― スポーツ医学の国際的権威。運動処方の一次資料。
よくある質問(FAQ)
FTPとは?
1時間維持できる最大パワーで、自転車パフォーマンスの基準指標です。乳酸性作業閾値(LT2)に近い値で、Cogganモデルの7ゾーン基準になります。20分テストの95%で近似算出が標準的手法です。
PWRの目安は?
3.0=趣味・4.0=ホビーレーサー(Cat 4/5)・4.5=Cat 3・5.0=エリート・5.5=プロコンチ・6.0=ワールドツアー・6.5+=グランツール優勝圏。女性は同カテゴリで0.5-0.7 W/kg低い値。登坂性能とほぼ比例します。
Z1-Z7とは?
Andrew Coggan博士のパワーゾーン7区分。Z1=リカバリー、Z2=有酸素、Z3=テンポ、Z4=閾値、Z5=VO2max、Z6=無酸素キャパ、Z7=神経筋パワー。トレーニングメニュー設計の基本フレームです。
パワーメーターは何を買うべき?
Favero Assioma Duo(7-8万円)・Garmin Rally(10-20万円)・4iiii(5-8万円片側)が初心者の定番。ペダル型はバイク間の付替が容易でおすすめ。バイクを移動しないならクランク型・クランクアーム型も選択肢です。
Ramp Testと20分テストどちらが正確?
持久力型ライダーには20分テスト、無酸素型ライダーにはRamp Testが過大評価されがち。両方を実施して低い方をFTPとするのが安全な運用です。TrainerRoadのAdaptive TrainingではRamp Testが標準化されています。
FTP測定はどのくらいの頻度で?
6-8週に1回が標準的な更新頻度。継続的なトレーニング下では4-6週で3-8%変動します。テスト疲労の負荷が大きいため、レース期は控えめに、オフシーズンは月1回のペースが実務的です。
屋内と屋外のFTP差は?
屋内は屋外より5-10%低く出るのが一般的で、暑熱・湿度・モチベーション・冷却の差が原因です。Zwiftの絶対値と屋外レース基準は別管理し、屋内FTP+5-8%を屋外FTPとして運用する選手が多い実務です。
SSTとは?
Sweet Spot Training(88-94%FTP)で、閾値強化と有酸素持久の両方に効率的なトレーニング領域です。20-40分×2-3セットが標準メニューで、TrainerRoad系の中心ワーク。週2回まで安全に実施可能。
VO2max向上のトレーニングは?
Z5(110-120%FTP)で3-5分×3-5本、または30秒On/30秒Offの30/30インターバル。VO2maxは4-8週で5-10%向上可能で、若年者ほど改善幅が大きい傾向です。週1-2回で十分。
プロ選手のFTPは?
ツール・ド・フランス完走圏で6.0-6.5W/kg、優勝圏で6.5-7.5W/kg。ポガチャル・ヴィンゲゴーは6分パワーで7W/kg超、20分パワーで6.7-7.0W/kgと推定されています。体重60-65kgで400W前後のFTP。
NP(ノーマライズドパワー)とは?
変動する出力を実効パワーに補正した値で、Andrew Cogganが定義。1回のライドの生理負荷評価に有用。同じ平均220Wでも、変動が激しいライドの方が身体的疲労は大きく、NPはその指標です。
TSSとは?
Training Stress Score:ライド強度・時間の総合負荷指標。FTPで1時間走ると100 TSS。週300-500 TSSでミドル層、週600-1000でCat 2以上、週1200-1800でプロレベルの練習量が実勢です。
ヒルクライムでタイム短縮するには?
体重減量(PWR向上)とFTP向上の両輪が定石。体重3kg減で1kmUPあたり1-2分短縮可能、FTP 10W向上で同等の効果。減量と筋力低下のバランスが難しく、除脂肪維持しつつ体脂肪率を15%→10%に下げるのが実務戦略。
Zwiftレーシングの実力比較は?
Zwift独自のCategory Enforcement(zCE)は4週間の最大パワーからPWR推定でカテゴリ振分。A: 4.0-5.0 W/kg、B: 3.2-4.0、C: 2.5-3.2、D: 2.5未満。屋外実力との相関は概ね取れますが、屋外の方が5-10%高いFTPが出やすい傾向です。
初心者はFTPをいつ測るべき?
継続的なライドを1-2ヶ月続けた後が現実的。いきなりFTPテストは経験不足で全力を出しきれず、過小評価しがち。まずは60分のZone 2ライドを継続できる基礎体力を作ってから、Ramp Testで初期値を測るのが安全なアプローチです。
週何時間の練習が理想?
愛好家は週5-8時間、ホビーレーサーは10-15時間、Cat 2以上は15-25時間、プロは20-35時間が目安。時間量よりも、Zone 2の総量とZone 4-5の質の高いインターバルの割合で成果が決まります。80/20ルール(低強度80%/高強度20%)が実務のベストプラクティス。
ヒルクライム・レース分析
PWRとFTPからヒルクライムタイムを推定できます(概算・条件依存)。
| PWR | 1kmUP登坂タイム目安 | 実力層 |
|---|---|---|
| 2.5 W/kg | 50-55分 | 初心者 |
| 3.0 W/kg | 42-47分 | ロード愛好家 |
| 3.5 W/kg | 36-40分 | 中級ホビー |
| 4.0 W/kg | 32-35分 | ホビーレーサー |
| 4.5 W/kg | 28-31分 | 実業団3-4級 |
| 5.0 W/kg | 25-27分 | 実業団1-2級 |
| 5.5 W/kg | 23-25分 | エリート・アマトップ |
| 6.0 W/kg | 21-23分 | プロコンチ |
| 6.5 W/kg+ | 19-21分 | ワールドツアー |
富士ヒルクライム(Mt.富士24km・1270mUP)でシルバー1時間5分=約4.0W/kg、ゴールド65分切り=約4.5-4.7W/kg、ツール・ド・おきなわ市民210kmで6-8時間が現実的な目安です。
年間ピリオダイゼーション(トレーニング計画)
Joe Friel『Training Bible』方式のプロトタイプ計画例(4-6月をレース期と仮定)です。
| 期間 | 時期 | 主眼 | 週間TSS目安 |
|---|---|---|---|
| Base Period 1 | 11月-12月 | Zone 2ベース・技術・筋力 | 300-500 |
| Base Period 2 | 1月-2月 | SST・Tempo・持久力 | 400-600 |
| Build Period | 3月 | 閾値・VO2max導入 | 500-700 |
| Peak / Race | 4-6月 | レース強度・テーパー | 400-600 |
| Transition | 7-10月 | 回復・オフシーズン | 200-400 |
プロは年間3-4回のピークを設けますが、アマチュアは年1-2回のピークが現実的です。オフシーズンをしっかり取ることで翌シーズンの伸び幅が確保できます。
パワートレーニング中の栄養・補給
トレーニング中の炭水化物
60-90g/hの糖質補給が90分以上のセッションで推奨。マルトデキストリン・フルクトースの複合摂取で吸収率アップ。1-1.5時間未満は水分のみで問題なし。
タンパク質摂取
体重1kgあたり1.5-2.0g/日。ハードトレーニング期は上限側で。プロテインシェイクをトレーニング直後30分以内に20-30g摂取が回復の定石。
電解質・水分
1時間あたり500-1000mlの水+電解質。ナトリウム500-1000mg/L相当の粉末(Precision Fuel・LMNT・SIS Hydro等)で汗のミネラル損失を補います。
Zone 2の空腹実施
脂肪利用能力(代謝柔軟性)向上のため、朝食前Zone 2ライドは有効。ただし90分以上・強度高めでは糖質切れで低血糖リスク。